6、春姫ちゃんファンクラブ


 春姫は可愛い。

 派手なメイクもなく、ただ素のままで可愛いと言えるのは、一種の才能と言った方が良いだろう。彼女に告白して玉砕した幾人いくにんもの男子たちを、俺は見てきた。


「しかし、あの姫と幼なじみというのは、テツ殿は素晴らしい役得ですな。前世でどれほどの徳を積んだのか、きになるところであります」


 福男はうらやましそうに俺を見て言った。


「単純にねたましいでござる」


「たまたま家が近かっただけだよ」


「拙者もあんな美少女幼なじみが欲しかったでござる」

 

 しつこい。


「お前のそれはエロゲの話だろ」


「お泊まりとかするのでござるか?」


「しねぇよ。お泊まりは流石に小学生でやめた」


「ギギギ」


 福男は歯ぎしりをして。鬼の形相で俺をにらんだ。


「なんでそんな悔しそうなんだよ」


「ロリ姫見たかったでござる」


「……はぁ。お前、そのうち捕まるぞ」


 ため息をついて、ちらっと春姫の方に目をやる。

 俺と離れた窓際の席に座る春姫は、前の席の女子と楽しげに話していた。


(そういえば学校で全然話したことねぇな)


 同じクラスではあるものの、学校内ではあまり話すことはない。そのせいか、俺と春姫が幼なじみだと知っている人間も少ない。ひょっとしたら福男くらいだ。


 ましてや毎週水曜日に春姫とセックスごっこに興じているなどと知ったら、俺はファンクラブとやらに殺されるかもしれない。


「今度、ロリ姫の写真を持ってきてほしいでござる」


「嫌だね」


 乾いた笑いで返す。

 授業が始まって、春姫がすっと姿勢を動かす。長距離走者らしい、細く鍛えられた脚が動く。


 俺はあの身体にずっと触れてきて、春姫がどう言う風に成長してきたか、手にとるように知っている。その匂いも、触れた時の反応も知っている。


 でも、俺は春姫が本当に何を考えているか、実のところあまり分かっていない。

 

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