幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T

1、ベッドの上で



 鞠川まりかわ春姫はるひめは俺の幼なじみだ。

 家がすぐ隣で、親同士も仲が良い。子どもの時は毎日のように遊んだ。


「テッちゃん」


 春姫がベッドで寝転ぶ俺に声をかける。


 彼女は俺のことを昔から「テッちゃん」と呼ぶ。佐良ささら哲学てつがくという、いささか堅苦しい名前より、春姫はあだ名で呼ぶことを好む。


「テッちゃん、数学の宿題終わった?」


「いや、まだ」


「明日までだよ。ちゃんと終わらせないと。また成績下がっちゃうよ」


「良いよ。適当に式だけ書いておけば、合格点はもらえるし」


「それじゃあ、だめだよー。綱渡りじゃん……。ただでさえ出席日数ギリギリなのに」


 心配そうに春姫が言う。俺は何も言わず目を閉じる。


 今、春姫は俺の部屋にいる。

 広いとは言えない部屋には机とベッドと、丸いちゃぶ台が置かれている。あまりものは置かない主義なので、「相変わらず殺風景だね」と春姫は来るたびに言う。


「ねぇ、テッちゃん」


 春姫が再び俺の名前を呼ぶ。


 一向に起きない俺に、彼女が「むぅ」と小さく声を、もらして、立ち上がるのが分かった。


「起きて、起きて。一緒に宿題やろうよ」


「めんどい。だるい」


「もう、サボり屋さんなんだから」


 ペシペシとほおを叩かれる。


 仕方なく目を開ける。


 春姫は俺の上にまたがっていた。 


 春姫は学校の制服を着ている。先週、衣替えしたばかりの夏服。


 丹念にシワが伸ばされたワイシャツは、まぶしいくらいに白くて目に痛い。長く伸ばした黒い髪が、俺の肌をくすぐる。下着が透けて見えそうで、俺はさっと目をそらした。


「眠いの?」


「やる気がないだけ」


「じゃあ……」


 春姫のスカートがするりと、ベッドのシーツに擦れるのが分かる。すぐ近くで彼女の体温が動くのが分かる。


「春姫」


 手を伸ばす。春姫の細い背中に手を回すと、彼女は何も言わずに身体の力を抜いた。


「テッちゃん」


 ジッとこっちを見る視線を、直視することができず、俺はいつもの通り、薄っぺらい毛布を手に取った。


 茶色いテディベアのマークがついた小学生の頃から使っている毛布。それを優しく、春姫の背中にかける。


 視界が暗闇に包まれる。


「……あっ」


 伸ばした手が春姫に触れる。彼女が小さな声を漏らす。


 それから、俺と春姫は色あせた毛布の中でセックスごっこを始める。

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