焼き鳥

 目を離した隙に攫われたという報告したオダマキの頭を床に叩きつけ、リンドウはすぐに恋人は迎えに行った。ドロップは囚われ先の厨房で食事の用意をしていた。馬鹿だな、全身Sサイズな女と舐めて拘束しなかったらしい。


「食べますか?」

「……そうね、誰かさんせいで食べ損ねたもの」


 皿の上には、琥珀色のタレがかかった肉が串に刺されて何本か並べられていた。


「焼き鳥?」

「はい、冷凍ですけど」


 どうぞと促されて有難く一本手に取った。琥珀色のタレがたっぷりかかった鶏肉は、甘辛い匂いを放って食欲をそそる。レンチンされた物なのでパリパリと皮が弾ける感覚はないが、肉は柔らかくも弾力があって歯を押し返し、噛みしめるたびに鶏の脂とタレの旨味が口の中に広がっていく。一本食べ尽くして炭酸で割った檸檬水を飲むと、爽快な刺激が口の中を洗い流してくれた。

 ドロップは立ち上がり、炊飯器から白飯を丼に盛りだす。ねぎまの焼き鳥を串から外して白飯に載せるくらいの簡単なものだ。それでも十分美味しいし、熱された葱は甘い。卵黄もあればもっと良いと考えたら、今度は冷蔵庫から卵を取り出した。彼女が作ってくれるという事が大事なので、ありあいだろうが何でも良かった。

 金と売れそうな物は車に積み、転がる害虫は動けないようにして屋敷に火を放つ。


「焼きマシュマロ……」

「帰ってからやればいいでしょ」


 確かクッキーが残っていたはずだ。ドロップからは離れたのは煙草を吸いに行っていたと知ったリンドウはオダマキの鼻骨を壁で摩り下ろした。

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