優しい死神のはなし。

田土マア

1


 2XXX年、人類が急激に減少した。

戦争、疫病、自殺…それらの類ではない。

急に人々が突然死をしていったのだ。

その原因は「死神」だった。

死神は主に夜に姿を現し人の寿命を奪っていく。


 今日も死神は人の寿命を奪う。


ーー「疲れた…。もうこんなツライ人生やだな…。」

 真っ暗い部屋の隅にうずくまり一人の少年が呟く。

「…なら、もうやめちゃう…?」

「!?」

「あぁ。ごめんごめん、急に現れたら驚くのも無理はないよね。」

 黒いコートを羽織った人物が少年の前に立っていた。

「…。あ…あぁ。僕にも見えるようになったんですね。あなたは死神でしょう?」

「ご名答〜♪ツライ。もう嫌だー。っていう声が聞こえたから駆けつけてみたんだ〜♪」


 ここから少年と死神の会話が続く。


 寿命は一年単位で計算され、一年あたりの単価は人それぞれなんだそうだ。

この少年の一年あたりの単価は約10万円。

彼はこれから80年近くの寿命があると死神は言う。


ーーなら単純計算で800万円か…。


 なら売ってしまおうか…。と少年は考えてしまう。


交渉の最期に死神は決まったセリフを言う。


「君のこれから先の人生、もっと楽しいことが待っているかもしれない。今、ツライといって人生を投げ出してしまって、本当に後悔はないかな?」


 ここで大抵の人は「後悔はない」と答えるそうだ。


「…。」


 少年はしばらく黙った。


 暗い部屋の中、時計の秒針だけが静かに鳴り響く。


 この長考は死神にとっても珍しいケースだったようだ。


 ここで「後悔はない。むしろ早くもらってくれ」と即答する人がほとんどらしい。

 そんな人の寿命をいただく。


ーーそれが死神の仕事


 しかし目の前にいる少年は次第に涙を流しだす。

「ごめんなさい…。僕はやっぱり無理です…。」

 ぐちゃぐちゃに濡れた顔を死神に向ける。

「…僕。今は確かにツライかもしれないけど…けど。笑って生きていたらこの先何か楽しくやれそうで……。」

 涙は溢れる一方だが、言葉をひとつひとつ丁寧に発する。

 その少年の顔と言葉を前に死神は微笑む。

「うん。それでいいんだよ。よかったぁ〜。大切な命を簡単に奪いたくはないからね。」


 そう言うと死神は少年を優しく抱きしめた。

「強く生きろ。少年。」


 少年が泣きじゃくった顔を拭い、目を開けた時、死神は姿を消していた。

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