第33話 晴れを呼ぶおまじない


「えーと7は…確かここだったかしら?あれ?違ったわね」


「こっちだよ!ほらねっ!7ゲット~!」


「あー!?お兄ズルい~!」


「ズルくないもんねー!だよねキリンちゃん?」


「…ええ、これは勝負の世界。シュリ、これは正当な戦略なのよ…!」


「むぐぐ…!」


現在、外からゴロゴロと雷の音と、屋根や窓に激しく打つ雨音が聞こえている。数分前まで晴れていたのに、急に雲行きが怪しくなったもんだから急遽中へ避難した。まだまだ走り回っていたそうではあったけどこればっかりは仕方ないので、頭の体操として代わりに『神経衰弱』をやらせている。今日のお勉強はこれでいいかな


「あれから二人の様子はどうだい?何か変わったことは?」


隣でその様子を高速でスケッチしていたオオカミさんが、囁くように聞いてきた


「解放の『か』の字もないよ。凄く安定してるし、そんな兆しは見えない」


「それは良かった…のかな?」


「…良かった、と思う」


初めての野生解放から早くも1週間経つが、トウヤとシュリはあれから1度も野生解放をしていない。それぞれ聴覚と嗅覚の能力上昇はちらほらあったが、サンドスターが身体から溢れるなんてことはなく、今までと変わりない生活を送っている


最初こそ『出てこーいでてこーい!』って感じに張り切っていた2人だったが、途中で飽きたのかいつの間にかやらなくなっていた。俺としては成長してから出てほしいので、これはこれで好都合だったりする


「結局、何のフレンズの力だったのかは分からずじまいだ。爪や牙だけでの判別は流石に難しい」


「爪があったってことは、ヘビのフレンズは候補から外れるんじゃないかい?キングコブラは爪での攻撃はしないだろう?」


「しないが出来ないわけではない。プラズムで作ればいいからな。よってそれだけで除外は出来ん。トウヤが作り出した牙は、私やコウが作る牙によく似ていたのだから」


「シュリのもそうだったねぇ」


「まさか、コウみたいに複数持っていたり…?」


「その可能性はあるけど…あんまり考えたくないかなぁ…」


二人のサンドスターからは、神獣の力を感じはしなかった。しかし曖昧すぎて特定するのは困難だから、本当に1つだけしか持ってないのかどうかも分からない。爪はケープライオンさんを真似て無意識にプラズムで形成したとか、本来は俺達のヘビの力だけを無事に受け継いでいる(今回は出て来なかった)とか…だといいなぁ


「それにしても熱心に描いてるな。これも漫画に取り入れるのか?」


「それはまだ分からないね。ただ残しておけば、後で見返した時に良いアイデアが浮かぶかもしれない。だから私は、こうして色々と描いているのさ。ほら、この前のこれもね」


「ああ…。ホント、上手に描いたもんだよ」


ピラッと見せてくれたのは、4ページずつに分けられた計8ページのバトルシーン。それぞれケープライオンさんとバリーさんが、俺と戦うところを描いたシーンだ。先日散々見せてあげたからか、いつにも増して迫力が出ている


「お褒めに与り光栄でございます…なんてね。でも本当に参考になるよ、ストーリーを考える上でね。もう1つの方もぼちぼち考えていかないといけないからさ」


「もう1つ?何か他に描いているのか?」


「まぁね。怪しい話じゃないから心配しなくていいよ。時が来たら話すしね」


そう言ってる時点で、何かしら企んでいますよ~って白状してるようなものだ。今度は何をするつもりなんだろうか、出来れば巻き込まないよう努力してほしい。それか巻き込んでも面倒にならない範囲にしてほしい


「あー走りたーい!走ってきていい?走ってくるね!」

「あっ!駄目だよシュリ!お外危ないよ!」


「そうだぞダメだぞ。危ないことしようとする悪い子はこうだ」


「うえー捕まったー!」


「気持ちは分かるけど、こんな状態じゃなぁ…」


「だってだってー!せっかくお日さま出たのにまた雨だよ!もうやだー!」


キングコブラの腕の中で、シュリが駄々を捏ねてほっぺたを膨らませている。ここ数日は雨続きで、おもいっきり身体を動かす時間はあまり取れていない。そろそろエネルギーをもて余してしまうのも無理はないだろう。トウヤも頑張って我慢しているはずだ


「パパ、ヤタガラスちゃんにお日さま出してもらえないかな?」


「ちょっと無理かなー。あの人忙しいし、すぐに来れる訳じゃないしなー」


「つんだぁ…」


どこで覚えたそんなリアクション。漫画か?漫画なのか?


晴らすことは一応俺も出来るけど、天候を変えるのはあまりよろしくないと思うのでやらない。きっとあの人も同じ事を言うだろう。流石にいきすぎて災害になるというなら話は別だけど、これくらいの雨はそのままにした方がいい。子ども達にとっては不満だろうけど、これも一種のお勉強だ


かといって、流石にそろそろ止んでほしいとは思っているので…


「よし、 “てるてる坊主” を作るか。キングコブラ、?」


「! 了解した、早速準備しよう」


「いいね、せっかくだし私も一緒に作ろうかな?私も雨には飽き飽きしてきたからね」


「それなら私も作ります先生!」


「「てるてるぼーず?」」


そういえば作ったことないから二人ともよく知らないか。ならおやつと一緒に、本も用意しておこうかな




*




【てるてる坊主】

照る照る坊主とも表記される、日本の風習の1つ。晴天を願い、白い布や紙などで作った人形を吊るすもの。『てるてる法師』や『てれてれ坊主』、『日和坊主ひよりぼうず』に『てれれ坊主』など、様々な呼称があるらしい。逆に吊るせば雨乞いの意味があり、『ふれふれ坊主』等と呼ばれたりも


テーブルに並べたのは、そんなてるてる坊主を作るために集められた道具と材料達。そしておやつに昨日の残りのラスク。お裾分けしてもらった大きめの『ジャパリパン』を使ったから思いの外量が多くなったのである


「では、これからてるてる坊主を作っていくのですが…シュリ、気を付けることはなんでしょう?」


「ハサミを人に向けない!」


「正解!はなまる!トウヤ、もう1個言えるか?」


「輪ゴムで人を撃たない!」


「これも正解!はなまるだ!あとは自分も怪我しないように気を付けるんだぞ」


ハサミもそうだけど、紙も切れる時は切れる。そして結構痛い


てるてる坊主なのだが、ティッシュを丸めてヒモで結んで作るのが簡単且つオーソドックスなものだろう。しかし本にはそれに加えて、折り紙や画用紙、布で作るものまで載っていた。せっかくなのでそれらも使って、個性溢れるてるてる坊主を皆で作ることにした


「まずは皆でティッシュのを作ろう。数枚取って丸めていくんだ」


「お団子を作るみたいに、手のひらで転がすとやりやすいぞ」


「ぐるぐる…ぐるぐる…ほいっ!こんな感じ?」

「出来た!まるっ!ねえねえ上手でしょ?」


「そうそう、バッチリだ」


「初めてなのに上手に出来たな」


「へぇ、二人とも綺麗じゃないか」


「私も負けてられないわね!」


気合を入れ直したキリンさん、更にティッシュを追加し大きくするの巻。それに吊られて、トウヤとシュリもティッシュを追加。しかし3人まとめて大きな楕円状になってしまい、そっと元の大きさに戻し形を整えていた。そのスムーズな動きで吹き出しそうになった


「そしたらもう1枚で包んで、輪ゴムでここを縛る。すると…」


「あっ!首が出来た!ほらっ!」


「トウヤは器用だな。その調子でもう2回くらい回せるか?」


「よゆーよゆー!」


「むむむ…難しいぃぃ…」


「押さえててあげるから、こうしてぐるっとやってみるんだ」


「うにゅにゅ…できたっ!」


「うむ、完璧だ」


よしよし、2人とも作れたね。あとは身体の部分をふんわりと広げて上げれば、よく知っているてるてる坊主になる


「このまま吊るすの?面白いね!」

「えー?描いちゃ駄目なのー?」


「描いた方が運気がアップしそうなのに…不思議だわ…」


さてここに来て議題に上がっているのは、てるてる坊主の顔についてだ


というのも、吊るす際には顔を描かないというのが本来のやり方らしい。俺も最近知って驚いた、昔はお構い無く描いていたのだから。顔を描くと雨でインクが滲んで、泣いているように見えてしまい雨を呼んでしまう…とのこと。晴れた時には感謝の気持ちを込めて顔を描き、お酒を飲ませてかけて川に流したり、お焚き上げしたりして供養するのだそうだ。流石に川には流せないので後者だな


「というわけで、明日晴れたら『ありがとう』って顔を描いてあげような?」


「どんな顔を描いてあげるか考えるのも、てるてる坊主の楽しみ方の1つだぞ?」


「「はーい!」」


ちゃんと説明すれば、ちゃんと分かってくれるところもこの子達の良いところ。ただのっぺらぼうのまま吊るすのも、なんだか怖いんじゃないかなぁと思う俺もいる


例えば夜、ふと起きて窓際に吊るしたてるてる坊主を見たとする。その瞬間、雷がピカッと光ったとしたら…



『うわあああああん!?こわいよー!?』



…うん、シュリが大泣きする未来が見えた。これでてるてる坊主すらも怖がるようになってしまっては本末転倒だ


だからこそ、その為に他の材料があるのだ


「次は…そうだね、私は画用紙を使わせてもらおうかな」


「私も画用紙にするわ!」


「僕もー!」

「私もー!」


チョキチョキとハサミを入れ、先程作ったものと同じような形に切っていく。キリンさんが作った黄色の画用紙てるてる坊主は、トウヤとシュリが作ったものよりも一回り大きかった


「3人とも、そんなシンプルでいいのかい?」


「え?これ以外に何かあるんですか?」


「せっかく自由に切れるんだ、ここをこうして…ほら、どうだい?」


「すごーい!お耳があるー!」


「そして、更にここを切ってあげると…♪」


「尻尾がついた!かわいい!」


「さ、流石は先生!素晴らしいです!」


オオカミさんが作ったのは、ケモノ耳と尻尾がついたてるてる坊主。見事な腕前だ。発想もそうだけど、線を引かずフリーハンドで綺麗に切り取った


「これは顔を描いてもいいのかな?」


「いいんじゃない?伝承通りのは作ったし、あとは皆で好きなように作ればさ」


「ならこうして…こう!」← (`・〇・´)

「こっちは…こうだぁ!」← (>ω<)


シンプルながらも可愛い顔を描いた2人。ちょこっと色を塗っているのも良いアクセントになっている


「こんな感じで…うん、良い感じだ」


「ふむ…どうやら、考えていたことは同じのようだな。それにしても…可愛く描いたな…」


「そっちこそ、ちょっとカッコよく描きすぎたんじゃない?」


「そんなことはないぞ。むしろ足りないくらいだ」


「俺だってそうだよ。もっと似せて描きたかった」


なんて、言い合って笑いあう。俺が作ったのは、少し小さめでヘビのフードを被ったような、顔を妻に似せて描いたてるてる坊主。お互いがお互いをモチーフにして、妻は俺のよりも少し大きいものを作っていたようだ。並べると俺達とそっくりな仲良し夫婦てるてる坊主、眺めてるだけでも心があったかくなる


それから、トウヤとシュリもお互いのを作ったり、オオカミさんがキリンさんとアリツカゲラさんに似せたものを作ったり、キリンさんがヤギ(と言い切った名状しがたい謎の生物)を作ったり…


「たくさん作ったなぁ」


「明日晴れるかなー?」


「晴れるさ、絶対に」


「お願いしますてるてる坊主ちゃん!」


窓際に吊るされた、数多くの様々なてるてる坊主。これだけあれば、きっと明日は快晴だ


「ねぇパパ、これはやらないの?」


トウヤが言っているのは、下駄を飛ばして明日の天気を占う『下駄占い』だ。鼻緒が上なら明日は晴れに、歯が上なら雨になると言われている。横向きだと曇りや雪など、地域によって変わるらしい


「よし…トウヤ、シュリ、明日晴れにしてくれるか?」


「うん!絶対晴れにするね!」

「上向くとこ見ててね!」


下駄は持っていないので、今回はサンダルを代用。現代だと『靴飛ばし』という遊びの側面もあり、サンダルや靴でやることも多いので問題なしと


「2人とも息を合わせて…せーのっ!」


「「あーした天気になーぁれっ!」」


ヒュンッ!と飛んでいく2つのサンダル。数回空中で回転した後、落ちてきてポスッと音を鳴らした。さて、その結果は…?


「鼻緒が上…明日は晴れだな」


「やったー!どうだー!」

「雨に勝ったぞー!」


ここまでやればもう心配ないだろう。2人の高らかな勝利宣言が、空を覆う雲を貫いた気がした









「今日の天気はー…?」

「「はれー!」」


翌日。雨は上がり、眩しい陽射しが照り付ける。木々にまだ残っている雫が光を反射し、キラキラと輝やいていた。てるてる坊主の効果は絶大だったようで、雲1つない青空が俺達を見下ろしている


「そうだ!てるてる坊主にお顔描くんだよね!」


「よく覚えてたな、早速描こうか」


鼻唄を歌いながら、てるてる坊主に顔を描く。どのてるてる坊主もにこやかな笑顔になり、今日の快晴を祝福しているようにも見えた


「てるてる坊主、ありがとうございました!」

「ありがとうございました!行こうお兄!あの木まで競争しよっ!」

「よーし負けないぞー!」


「フフッ、良かったな、無事に晴れて」


「ホント、よかったよかった。さて、お仕事を全うしてくれたこの子達を労りますか。手伝ってくれるね、キングコブラ?」


「勿論だとも。早速準備を始めよう」


元気いっぱいに走り、思いっきり身体を動かす子ども達。ろっじにいた子達も一緒になり、皆で仲良く遊び始めた


俺とキングコブラはそれを優しく見守りながら、今回頑張ってくれたてるてる坊主を供養したのだった

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