第27話 待ち合わせ場所は広いここ


【オイナリサマ】

脚に紐を結び付けた、真っ白な色をしたキツネのフレンズであり、守護けものの一人。担当はパークセントラルで、園長トワさんやカコさんと共に積極的に活動している


【ヤタガラス】

左目が赤く光っている、真っ黒な色をしたカラスのフレンズであり、守護けものの一人。担当はホートクで、主にあちらで行われているスカイレースの運営に携わっている


二人とも長い付き合いだ。幼少期も少年期も、そして大人になった今でもお世話になっている、大切な恩人達。こうして久しぶりに会えて、嬉しくないはずがない


はずがない…んだけど…



「どうしましたかコウ?ひきつった顔をしていますが体調が優れないのですか?」



何故か、オイナリサマの眼が笑っていない


こういうことは過去に何回もあった。あっちゃいけないんだろうけどあった。こういう時は大抵、俺が勉強から逃げ出そうとした時や、何かしらやらかしてしまった時に起こる。繰り返し言うが長い付き合いなのだ、これくらいは瞬時に察することが出来る


え?付き合いじゃなくて経験則から来るものだって?アーアーキコエナーイ


だが待ってほしい、前回から今日こんにちまで、俺はこんな眼をさせるようなことはしていないはずだ。なんなら彼女(と隣にいるヤタガラスさん)のお願いを聞いてあげたこともあったから、余計そんな眼を向けられるような謂れはない。むしろお礼にそっちのエリア限定のジャパリまんをくれてもいいくらいだ。てかください


今だってそうだ、マジムンは創れているし、ヘラジカさんの修行相手としても申し分ない動きは出来ていた。怒られるようなことはしていない。よってここは普段通りでいく!


「いいえ、体調は特に問題ないですよ。食欲も旺盛です」


「それはなによりです。さて話を戻しますが、何をしていたんですか?」


「彼女達の修行です。見覚えがあると思いますが」


「ええ、マジムンですね。見た目は上手に創れています。ですが…その手にあるものはなんですか?」


「これはエネコンです。これでマジムンを操作してました」


「それで…ですか?」


あっ、目付きが鋭くなった。なるほど原因はこれか。なら、この反応からして──



『そんなもので操作しているなんて修行が足りない証拠です!もし操作ミスを起こして事故や大怪我に繋がったらどうするんですか!ちゃんと出来るようになってからやりなさい!大体貴方は昔から…』クドクドクドクド



──って感じだろうな、うん



「ハンターセル形のマジムンを創ったのは始めてなので、すぐにオートモードには出来なかったんです。これは応急措置って感じです。今日明日には出来るようになりますよ」


「…なるほど、納得です。その時は私もお相手してもいいですか?」


「勿論です」


あっさり引き下がってくれた。まぁ嘘は言ってないしね。これにて一件落着…



「ですが、次からはキチンと修得してから望むようにしてください。事故や怪我があってからでは大変ですからね。今回のハンターセルのように強力なセルリアンでの修行であれば尚更です。まずはイメージをしっかりして…」クドクドクドクド



結局こうなるんかーい…



*



「ハッハッハッ!それは災難じゃったのう!」


高笑いをしながらバシバシと俺の肩を叩き、ぐびぐびと酒を流し込む一人のフレンズ。二人に少し遅れて合流したこの人は、相も変わらず色々と豪快だ



「笑い事じゃないんですよ…ヤマタノオロチさん」



【ヤマタノオロチ】

大きな注連縄と、複数の蛇が背後から這えているのが特徴のヘビのフレンズであり、守護けものの一人。担当はアンインで、他の神獣に比べてあまり積極的に活動はしていない


「今回は特に問題ないと思ってたのに…」


「それだけフレンズを、そしてコウ、そのほうを心配しているということだ。煩わしいと感じる時もあるとは思うが、どうかそこは理解してほしい」


「…それは重々、承知していますよ」


とはいえ、外見がほぼ変わらずとも、俺ももういい歳した二児の父親なわけで。少年時代のように説教するのもどうかと思うんですよ……という視線を、帰ってきたライオン組に稽古をつけているオイナリサマへと向けた。効果は絶対にないだろうけど



「そんな様子じゃ、我には一生勝てないのう!それも仕方ないか、所詮はオイナリに言い様にやられてる子供じゃからなぁ!」



…は?なんだいきなり



「ん?なんじゃその顔は?間違ってはおらんじゃろうに。何か言いたいことがあるなら言うてみぃ?」



ニヤリと笑い、鋭い眼光を向けてくる。なんて分かりやすい挑発なんだろうか。久しぶりに会ったと思ったら即煽りとかもう酔ってるのかこの人は?どんだけ戦いたいんだか…


てか最後にやった時は俺勝ちましたよね?忘れてるんですか?


「そんなやっすい挑発には乗りませんよ。戦いたいならセルリアンと戦ってくるか、森の王の相手でもしてきてください。普段そんな仕事しないんだから今してもいいんですよ?」


「なんじゃつまらん。てか後半は余計じゃ。我だってやるときはやるわ」


「へぇ意外ですね。すみません、てっきりいつも昼間から酒飲んでベロンベロンになって寝てるのかと思ってました」


「…くふふ」


「…なんですか?急に笑って」


「言うようになったと思ってのぅ。それは喧嘩を売ってきたと受け取ってもいいんじゃな?我は買うぞ、ほらかかってくるといい」


えぇ…?どうしてそうなった…?


俺は決して煽ろうとしたわけじゃない。ただ思ったことを口にしただけなんだ、それが結果として煽りになってしまっただけなんだ


どう感じるかは受取人次第?それは…そうですね…


しかし参ったな、こうなるとこの人はしつこい。蛇を絡ませてきたり、酒を飲ませようとしてきたりと、色々な手を使って俺をその気にさせようとしてくる。前は妻にを出そうとした時もあった。その時は本気も本気で相手をしたなぁ…懐かしいや


…仕方ない、やってやろうじゃないか。ちょっと発散したかったし、鈍ってないかの確認も出来るし


「おっ…?いいぞいいぞ、そうでなくてはな!」


子供のように嬉しそうな顔しちゃって。神の姿か?これが…


「やめろ二人とも。今日の目的は喧嘩ではないのだぞ」


「止めないでくださいヤタガラスさん。ちょっとこの蛇神は分からせてやらないといけませんので」


「貴様にそれが出来るか?我には貴様が地面に這いつくばる姿しか想像できんな」


「俺には貴女が大の字で寝転ぶ未来しか見えませんね」


戦闘前にも煽り合い。精神攻撃は基本。お互いにあまり効果はない、何故なら何度も繰り返してきたから



「…ふたりとm」


「さぁ、手加減してやるから本気でかかってくるといい」


「ほぅ、それが負けた時の言い訳ですか。たいしたものですね」



俺は元の姿キメラに戻り、彼女はパキパキと拳を鳴らす。お互いに戦闘態勢準備万端、いつでも始められる



「来いよ蛇神、酒なんて捨ててかかってこい」


「あまり強い言葉を使うなよ小童、弱く見えるぞ」



殺気を、威圧を、遠慮なく全開にする。拳を構え、いざ、最初の一撃を──



「いい加減にしろ。そんなに焼かれたいのか?」



──止める。俺達以上の殺気と威圧を出している、漆黒の翼が仁王立ちしていたから。既に小さい太陽がこちらに標準を合わせていたから



「…勝負は、お預けじゃな」


「…そうですね、そうしましょう」



流石は守護けもの副リーダー的ポジションのヤタガラスさんだ、俺達に冷静さを取り戻させてくれた。汗ダラダラかいてるのはその太陽のせいだそうに違いない


「どうかしましたか?」


「いえ別に」

「いや別に」


「そうですか。てっきり二人がヤタガラスを怒らせようとしていたのかと思ったのですが…気のせいでしたか?」


「気のせいです」

「気のせいじゃ」


絶対分かって言ってるだろ。ホント怖いよこの二人


「はぁ…なんか、無駄に疲れた…」


「自業自得じゃろうて」


「半分は貴女のせいなんですが?」


「あ?」


「は?」


「「二人とも?」」


「はい」

「うむ」


これ以上やってると本気でヤバそうだ。ここは…そう、戦略的撤退というやつだ


「コウ、まだ時間はありますよね?」


「えーっと…? はい、まだ着かないかと」


「でしたら、今の内にマジムンを完成させてしまいましょう。も来る予定ですし、ここで修行の成果を見せてあげましょう。彼等の修行にもなって一石二鳥ですしね?」


「…マジですか」




──────




もうすぐ夜になるという時間に、バスがへいげんに到着した。眠そうに眼を擦るトウヤとシュリをなんとか立たせて、私達はバスを降りる。向こうもこちらに気づいたようで、大きく手を振っている。手を振り返しながら走る子供達を、私はゆっくりと歩いて追いかける


あっ、トウヤがオイナリサマに肩車をせがんで…してもらった。毎度すまない、そして感謝する。ヤタガラスもありがとう、シュリを抱っこしてくれて


「お久しぶりです。元気いっぱいですね」

「健やかに成長しているようだな」


「お陰さまでな。そっちも元気そうでなによりだ」


「ママー、パパがいないよー?」

「またお仕事でどっかいっちゃったのかな?」


「いや、今日はここでお仕事をしているはずなのだが…」


子供達の言うとおり、夫の姿が見当たらない。二人を見ると、少し遠くに視線を向けた。その先には気だるそうな様子の夫と、それを見て笑っている蛇神がいた。なんとなく、何をしていたのか理解した


「ヤマタノオロチ。久しぶりだな」


「おおキングコブラ!久しぶりじゃのう!旨い酒はあるんじゃろうな!?」


「持ってきてはいるが…酔って暴れないでくれよ?」


「善処しよう!ハッハッハッ!」


これは期待できそうにないな…。せめて子供達の前ではやめてほしいものだ。教育に悪い…いや、こんな大人になってはいけないと教えるチャンスかもしれん。どう転んでもよくしておこう


「ヤマタノちゃん!パパをいじめちゃダメだよ!」


「いじめておらん。話をしてただけじゃ」


「ならなんでパパ疲れてるの?やっぱりいじめてたんでしょ!」


「…だったらどうする?『ヒーロー』にでもなって我を倒すか?」


「「!!」」


おっと、これは…


「そうだよ!仮面フレンズ オレンジが悪を倒す!」

「仮面フレンズ ヴァイオレットも一緒だよ!」


「フハハハ!いいぞ来るがよい!相手をしてやろう!ゆけ我が軍勢へびたちよ!」


「とりゃー!」

「えりゃー!」


普段の姿とは打って変わるヤマタノオロチ。彼女が『ヒーロー』と子供達に呟く時、それはヒーローごっこ開始の合図。臆せず向かってくるのが嬉しいのか、彼女は子供達が心ゆくまで遊んでくれる。親としてはありがたいことだ


「それで?今日はどんな説教と修行を受けたんだ?」


「なんで確定してるような聞き方なの?」


「それくらい分かるさ、妻だからな」


「そっか、そうだね。聞いてよ、さっきまでさ…」


コウの話を聞きつつも、子供達から目を離さない。コウも話ながらも、子供達から目を離さない。蛇を掴んでぶら下がっているトウヤと、蛇を追いかけて走るシュリは、それはそれは楽しそうだった




──────




「あっ!来たよ!」

「お迎えするー!」


「おっとと、ここで待機。近づくと危ないからね」


駆け出そうとしたトウヤとシュリを制止し、その音に耳を傾ける。来たのは一台のバス。サーバル耳のついた黄色のこのバスは、日の出港と各ちほーを往復する来客用のバス


ただ、今回は貸し切りだ


「こっちは涼しいねー!」

「空気が美味しいさ~!」


「はしゃぐのはいいけど、荷物は自分で持ちなさいよ。全く、こんな大量にお土産持ってきちゃって…」


「それでも減らした方なんだけどねー」

「いっぱいあった方が嬉しいじゃんか~」


「限度ってものがあるでしょうが…。というか当初はこれより多かったのね…」


風呂敷に包まれた大きな荷物を両手に持ち、眼鏡をかけたその人物は大きなため息をついた。先に出てきた赤と青の二人は、これまた重そうな荷物を背負いながら景色を楽しんでいる


「お疲れ様、キュウビ姉さん」


「本当に疲れたわ…。何か甘いものが食べたいわね…」


「アハハ、後で何か作るよ」


「僕のもある!?」

「私も食べたい!」


「はいはい、ちゃんと作るから安心しな」


長旅に付き添いでげんなりしている姉さんから荷物を受け取りつつ、そんな約束を軽くする。これからすることに合う甘いものは…あれがいいかな?


そして勿論、この二人にも作る予定だ


「めんそーれー!久しぶりー!」

「今日はよろしくね~コウ~!」


「めんそーれ、シーサーライトさん、レフティさん。ようこそ、キョウシュウエリアへ」


ここはリウキウじゃないけど、この二人との挨拶はやっぱりこれだね

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