第18話 紅い幻獣と二人のタヌキ
【イヌガミギョウブ】
808匹の狸達の総帥。久万山の古い岩屋に住み、松山城を守護し続けていたという化け狸。その眷属の数から『
【ダンザブロウダヌキ】
目の前にいるのは、そんなタヌキのフレンズ二人。神格を持つ者らしく堂々とした佇まいで、姉さんやオイナリサマ達とはまた違った雰囲気を感じる。彼女達もまた、シーサーさん達と同じく復活していたようだ
それ自体は、本当に喜ばしいことなんだけど…
「なんじゃ?不満そうな顔をしとるが」
「そりゃしたくもなりますよ。なんでこんな回りくどいことしたんですか?」
「あなたの力を、色々な角度から知りたかったのです。話に聞いていた通り、中々興味深くて良かったですよ?」
「…はぁ」
もしかしたら別の理由があるかもと期待して質問したけど、やはりそんなことは全くなく。もうため息しか出てこない。こんなことしなくても、嘗てのヤマタノオロチさんのように来てくれれば良かったのに
…いや、あんな感じのも御免だけど。それでも今回よりは幾分楽だったと思う。二人を追う手間はなくなるし。シーサーさん達を見習ってほしい
そして、甘い匂いの正体は前者の持つ徳利から、透明な壁の正体は後者の力からだったか。この匂いお酒だったのか、道理で苦手だと感じるはずだよ
「コウ!今の光は──っ!?」
「何かあった──っ、その二人…!」
「うん、二人の想像通りだよ」
合流したヘラジカさんとライオンさん。どうやらこの二人のオーラを感じ取ったみたいで、距離と警戒態勢を取った
「そう、わしが “ヘラジカ” に」
「私が “ライオン” に化けました」
「おおっ!?さっき見たのと同じだ!」
「へぇ~…!凄いねぇ~…!」
その態勢はすぐに崩れた。またもやポンッ!と化けたタヌキ達。並んで立つと本当に王二人にそっくりで、本人達も凄く感心と興味を湧かせている
因みに、イヌガミギョウブさんがミナミコアリクイさん、ビーバーさんを、ダンザブロウダヌキさんがパフィンさん、エトピリカさん、マレーバクさんに化けていたそうだ。やっぱり、全部この二人の仕業だった
「とりあえず…ラッキーさんいるー?」
「ココニイルヨ。ドウカシタカイ?」
「父さんに繋いでもらえる?」
「分カッタヨ」
結末を報告しなきゃね。遊園地で遊んでいるであろうあの4人も、これを聞けば安心して楽しんでもらえると思うし
「もしもし、父さん?」
『アオイは今席を外しているわよ?』
「そっか、じゃあ後dってその声キュウビ姉さん!?」
『久しぶりね、コウ。元気にしてたかしら?』
「してたし今もっと出たよ!?」
通信に出たのは、守護けものの一人であり、俺が姉と呼ぶフレンズの一人 “キュウビキツネ” 。彼女が普段いるのはカントーエリア、いつの間にキョウシュウに来ていたのだろうか。思わず大きな声が出てしまった
『それで、アオイへの言伝てって?良かったら私から伝えておくけど』
「え、あ、うん、ならお願い。『ドッペルゲンガーの正体を捕まえた』って伝えてくれる?」
『…そう、捕まったのね』
「…その言い方、もしかして全部知ってた?」
『ええ。だって私、その二人と一緒に来たんだもの。アオイ達にはもう伝えてあるわ、「騒ぎの原因はその二人だから心配しなくていい」ってね』
特に隠す様子もない姉さん。力が身体中から抜けていく感覚が俺を襲う。真相を知った両親も、安心はしただろうけど同時に俺と同じようになったよきっと
「来てたのも知ってたのも教えてくれたら良かったのに…」
『ごめんなさいね、あの我が儘タヌキがど~してもって泣きついてきたから仕方なかったのよ』
「誰がいつ泣きついたんじゃ?」
『あら、聞いてたの?』
「無論です。全く、嘘はやめてほしいものですね」
『さて、嘘だったかしらね?』
「嘘以外の何物でもないわい。相変わらずじゃのうお主も」
通話越しでケンカしないでほしいんだけど。キツネとタヌキが昔争ってたのは知ってるけど、それを今ここで再現するのやめてほしいんだけど。話題変えようそうしよう
「ちなみに、化けられたフレンズ達には伝えてあるの?」
『ジョフロイネコ達には伝えてあるわ。彼女達は安心して遊園地で遊んでるから心配しなくていいわよ』
それなら良かった。せっかく来たのに楽しめないのは可哀想だからね
──ただ、それは彼女達だけの話であって
「イヌガミギョウブさん、ダンザブロウダヌキさん、行きますよ」
「おおっ?飯でも食わせてくれるのか?楽しみじゃのう!」
「あなたの料理は美味と聞いていますしね」
「なに言ってるんですか?そんなのは後回しです。まずは被害にあった子達に謝りに行きますよ」
「「…え?」」
なに二人してキョトンとしてるんだ。貴女達のせいで恐怖を抱いた子がいるんだぞ?お騒がせした罪も上乗せして謝るんだぞ。ついでに家族との時間を奪われた俺にも謝れ
「それともラッキーさんの通信でキョウシュウ中に伝えますか?『傍迷惑なタヌキがいます』って画像に映像付きで」
「む、むう…分かった、謝りに行くわい」
「ここは素直にそうしますか…」
分かればよろしい。んじゃ早速やっていきましょうか。勿論、そこにいる二人やへいげんの皆にもね
*
被害者(?)への謝罪も終わり、俺達はろっじの近くまで帰って来た。実際に化けるところを見せてみると、皆恐怖心はなくなり、興味津々で自分の姿を観察していた
…マレーバクさんは最後まで怪しんでいたけど
「やーっと一息つけそうだわい…」
「こんなことをする羽目になるとは…」
ほぼ自業自得でしょうに。指名手配のようなことされたくないなら、こういうことはこれで最後にしてくださいね
さて…お昼ご飯の時間をだいぶ過ぎてしまった。子供達には悪いけど、遊ぶのはもう少し待ってもらおうかな
「そうじゃコウ、お主は先程カラスの姿になっておったが、タヌキの姿には成れるのか?」
「タヌキ…ですか。出来ますよ」
内にあるタヌキさんのサンドスターを知覚し、操り、表に出す。そうすれば、タヌキさんそっくりの耳と尻尾がポンッと出てくるのだ。色は俺特有の紅みがかかってるけどね
このように、俺は大抵のフレンズの特徴は出せるようになった。とはいえそんなことはほぼほぼやらない。やる必要がないし、戦闘も従来どおりの形態だけで十分だからだ
「では、次はキツネの姿を見せてくれませんか?」
「…まぁ、いいですよ。まずは…これが “キュウビキツネ” で」
「ほう…似ているのぉ…!」
「これが “オイナリサマ” です」
「ふむ…確かにそっくりですね」
少し短い黄色の模様が入った耳と、モフモフした先端が紅、碧、翠の色が入った三本の尻尾。これがモデル “キュウビキツネ” だ
そして、赤に白い模様が入った感じのピンと立った大きな耳と、真っ白な大きくモフモフした尻尾。これがモデル “オイナリサマ” だ
昔は変えることが困難だった、【
そしてやはりと言うべきか、まじまじとした観察を受けた。やっぱりタヌキ、ライバルであるキツネは気になるらしい。俺は純粋なキツネじゃないけど、得意な能力を考えたらタヌキよりはキツネ寄りだ
「わしらと同じには成れるかの?」
「んー…けものプラズムのような、二人のサンドスターが籠っている物を頂ければすぐに出来ますよ」
「それだと…尻尾の毛でもいいですか?」
「大丈夫ですよ」
それも立派なけものプラズムの一つ。まずはダンザブロウダヌキさんのを受け取って握り締める
それは輝きを放ち、サンドスターへと還る。そして、俺の身体へと吸収された。これで準備は完了だ
「…これだな」
「おお…!見事なものですね…!」
「本当に即興で出来るとは…やるのぉ、流石はキメラのフレンズじゃな」
お褒めいただき光栄でございます…なんてね。満足してくれたようで良かった
彼女と同じけもの耳、3つに別れた、先が紅色をしたタヌキの尻尾。そして、紅い縁の伊達メガネ。これがキメラのフレンズ、モデル “ダンザブロウダヌキ” だ
数あるフレンズの因子の中から、特定のサンドスターを知覚するのは中々至難の技だ。それが守護けものクラスになると尚更。だから手っ取り早いのは、こうして改めて触れ、感覚が同じものを見つけ出すやり方。
「私達やキュウビの力があるということは、私達と同じく他のものへ化けることも出来ますか?」
「それが…出来ないんですよね、俺」
昔、姉さんにも同じ事を言われ、何度か挑戦したことがある。しかし結果は一度も出来ず。あまりにも出来ないから諦めたのだ、出来なくても特に生活に支障は出ないしね
最終的に、『ベースがヒトだから』というのが、変化の術が出来ない大きな理由だと結論づけた。
「良ければ、わしらが稽古をつけてやってもよいぞ?」
「んー…まぁ、考えておきます」
「そうか…。まぁよい、では次はわしのをやってみせてくれんか?」
「いいでs…あっ、すみません、それは後々ですね。もう着いてしまいますので」
「むぅ…仕方ない、楽しみは取っておくかの」
ろっじも見えてきたので、お試しコーナーは一旦終了。いつもの蛇の姿に戻りましょう。なんか色々とごめんなさいイヌガミギョウブさん、ここはタイミングが悪かったということで…
*
「「おかえり!」」
「おかえり、コウ」
「ただいま、皆。ごめんなトウヤ、シュリ、少し遅くなっちゃった。遊ぶのはご飯食べてからでもいいか?」
「うん!パパお疲れ様!」
「ゆっくりご飯食べて!」
お出迎えしてくれたことも嬉しいのに、なんて嬉しいことを言ってくれるのだろうか。つい子供達を尻尾抱っこした。きゃいきゃいとはしゃぐ二人だったが、すぐに俺の後ろにいる二人に注目した
「あれ?タヌキちゃん?でもなんか違う」
「だーれ?」
「わしはタヌキの総帥、イヌガミギョウブじゃ」
「そして私がタヌキの大将、ダンザブロウダヌキです」
「そうすい?」
「たいしょー?」
「簡単に言えば、どっちも偉いリーダーってことじゃ」
「リーダー!?すごーい!」
「かっこいー!」
子供達に褒められて、御満悦なタヌキのお頭二人。その緩んだ顔はとてもそうは見えないけど、そういう緩いところもトップに立つ者には必要な要素なのかもしれない
キングコブラは驚きはしたが、同時に納得した顔で頷いた。シーサーさん達の時と同じく、彼女達の力を感じ取ったのだろう
「君達も守護けものということは、何か不思議な力を使えるのかい?」
「勿論。わしらの力、特と見よ!」
イヌガミギョウブさんとダンザブロウダヌキさんが瞳を合わせて頷き、その場でポンッ!と同時に化けた
「これは…!」
「すごーい!」
「変身したー!?」
「へぇ…本当にそっくりだ…!」
「これは…難解だわ…!」
「ここまで出来るんですか…!」
二人が化けたのは、キリンさんとアリツカゲラさん。声もそっくりだから、本物と偽物が並んでもパッと見どっちがどっちだか分からない。そしてなによりも凄いと感じるのは、一瞬で変身するその速度だ
ぐるぐると二人の周りを歩き、二組をよーく観察しているオオカミさん。断りを入れて羽や尻尾等に触れては、感嘆な声をあげている
「先生!これ漫画のネタに使えそうじゃないですか!?」
「ああ良い感じだ!思い付いたアイデアは全部書いておいてくれ!」
「分かりました!」
そしてなにやら凄い勢いでメモを取る漫画家とその助手。確かに設定を少し変えれば、ホラーにもミステリーにも使えるだろうね
「しかし、本当に服も羽もマフラーも遜色ないんだね」
「当然です、私達が化けているのですから」
「…中身も一緒なのかい?」
「勿論じゃ。なんなら今見せてやr」
「「やめてください!」」
それは俺もやめろと言いたい。冗談でも外で脱ごうとするな。いや中でもするな。そしてとんでもないことを言うんじゃないよセクハラオオカミ、後でアリツカゲラさんからお説教を受けなさい
*
その後、パフィンさん、エトピリカさん、フォッサさんも合流して、皆にドッペルゲンガーについてのネタばらしと謝罪。彼女達も特に気にしていなかった。そしてフォッサさんはちゃっかり勝負の約束をして、三人はそれぞれ帰っていった
そして再開する変身披露会。これは俺が戻ってくるまでやってそうな盛り上がりだ。戻ってきてもやりそうな予感はするけど
さて、やることは全て終わったので、俺は目的地の厨房へ行くかな。籠いっぱいのジャパリまんがあるはずだし、お昼はこれで済ませちゃおうか。子供達が待っているからね
…退屈という言葉は、全く無さそうだけど
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