第15話 さばんなコンビのバスガイド
「がーいど♪がーいど♪さばんながーいどー♪」
「皆さんこんにちは。今日のさばんなガイドを勤めさせていただきます、“かばん” と」
「私はサーバルキャットの “サーバル” だよ!よろしくね!」
『よろしくお願いしまーす!』
只今俺達がいるのはさばんなちほーの、ラッキーさんが運転する大型バスの中。マイクを持ったかばんさんとサーバルさんが、パークスタッフの制服を着て乗客にさばんなの説明をしている。その言葉通り、彼女達はバスガイドさんだ
さばんなで始まったこのツアーガイド。ミライさんからの誘いを受けた二人が試しにやってみたところ、スタッフにフレンズにお客さんと全員に好評だった。パークからの強い要望もあって、二人はこうしてガイドを続けることになったのである
ミライさんも同席したかったと言っていたけど、残念ながら今は別の仕事の真っ最中。とても残念そうにしていたのを覚えている
「かばんって本名なのかな?」
「流石にあだ名じゃないか?」
「どっちでもよくね?あのお姉さんが可愛いってことに変わりはないし」
「「確かに」」
「サーバルちゃん可愛いなぁ…!」
「サーバルはですねぇ、サバンナに住んでる動物でしてぇ…ジャンプ力ゥ…がですねぇ…」
「また始まったぞこいつ…」
「最早伝統芸能」
「安心すら覚える」
しかし乗客の興味は、さばんなではなく専ら二人に向いている。会話もよく聞く内容だけど、一人だけ凄い特徴のある話し方する人がいるな。またってなんだ?それ何回もする機会あるのか?
…俺が気にすることじゃないか
「お姉さーん!質問がありまーす!」
「はい、なんでしょうか?」
「お姉さんって恋人いますかー!?」
「ふえっ!?///」
あー…そういうのも来るよね。不意打ちすぎて、かばんさんが顔を赤くして慌ててる。これはもう答えを言ってるようなもので、男女問わずキャーキャー言っている。今日は若い人が多いから、余計その話題が出やすいのかもしれない
そこら辺の話は、俺も噂程度には聞いている。反応を見るに、どうやらその好い人とは上手くいっているようだ。その人の好みに合わせているのか、彼女は髪を伸ばして束ねている
ただ結婚はまだしていないし、当然子供もいない。フレンズで結婚しているのも、子供がいるのも俺達夫婦だけだ。それもいつまでそうなのかは誰にも分からないことだけど
「かばんちゃんはすっごく賢くて可愛いからね!でもあの子の前だともっt」
「サーバルちゃんそういうの言わないで!?あとそういう質問は今後禁止です!いいですね!?」
『はーい』という返事が、色々なトーンで返ってきた。あくまでこれはさばんなツアー。彼女達ではなく、このちほーについて知ってもらうためのものだからね
俺達も参加することになったこのイベント、乗車しているのは外のヒトと俺達家族。そして、ボディーガードが二人バスの後方に俺達と共に座っている
「ひひひひとがいっぱいいいですすす」
「落ち着いてタヌキ。呼吸を整えて」
「は、はいぃぃ…。深呼吸…深呼吸…うぅ…」
「大丈夫かしら…?」
サーベルタイガーさんとタヌキさんである。セルリアンハンターとして活動している二人だが、ここ最近タヌキさんはハンターよりもパークスタッフの仕事の手伝いをする頻度が高い。今回もそうで、サーベルタイガーさんはその付き添いだ。報酬はきちんと出るようで、今回も何か良いものを貰えるのだろう
しかしタヌキさんはまだ大勢の前に出るのが苦手なようで、今も緊張で震えて外を眺めている。人という字を掌に何回も書いては飲み込んでいる。効果が少しでも出てくれるといいんだけど…
「あっ!あそこに誰かいる!」
「しましまがあるよ!」
窓ガラスに顔を押し付けていたトウヤとシュリが、早速何かを見つけたようだ。他の乗客も外を覗き、件のそれを探している。それに合わせ、バスのスピードもゆっくりになる
「皆さん、右手の方をご覧下さい。あちらに可愛いしましまが見えますね。あれは “サバンナシマウマ” のフレンズさんで、お昼寝をしているところですね」
「あの子はかくれんぼがすっごく得意なんだ!私も全然見つけられないことがあったよ!今日は天気が良いからのんびりしてるんだね!」
かばんさんの
「今日は遊ばないのかな?」
「私一緒に遊びたーい!」
「ツアーが終わったら皆に声をかけてみるか」
「そうだね。それまではこっちを楽しもうな」
「「たのしむ!」」
遊びのことになると、気が早くなる似た者兄妹。かといって、別にこのツアーに退屈しているわけではない。現にガイドの説明を頷きながら聴いているしね
「おっ、今日もやってるねー!」
バスに近づいてきたのは、日課のパトロール真っ最中のセグロジャッカルさん。バスを一旦停めて、皆で彼女との交流会だ
「セグロジャッカルさんは、背中や尾が黒いことから、その名前が付いたそうなんですよ」
「広大ナ縄張リヲ持チ、見回リヲシツツ狩リヲ行ウ動物ナンダ」
「皆を守るためにトレーニングしてる、とっても優しい子なんだよ!」
「えへへ、やっぱり照れちゃうね~」
三者三様の解説に、頬を掻いているセグロジャッカルさん。お客さんの質問にしっかりと答えている辺り、彼女は結構慣れてきているようだ
こんな感じで、その日に出会ったフレンズへのインタビューが出来るのもこのツアーの魅力の一つ。よっぽどのことがない限り、彼女達は喜んで受けてくれるからね
*
「では皆さん、お次は左手をご覧ください。綺麗な羽を持つ、鳥のフレンズさん達が飛んでいます」
「ここで問題、あの子達は何のフレンズでしょう?ヒントは唄うのが大好きなフレンズだよ!」
セグロジャッカルさんと別れ、バスツアー再開と同時に始まったのは、ヒントがあっても初見には難しいサーバルさんの問題だ。俺達には分かりきっているので、子供達と共に答えないように『しーっ』とジェスチャーだ
皆悩んでいたので、かばんさんが『一人はそのまま色の名前にもなっています』と、サーバルさんが『三人の名前に共通の言葉があるよ!』と更にヒントを追加した
「分かりました!答えは『トキ』ですね!」
「お見事、正解です!」
「すっごーい!皆拍手ー!」
前方の席にいた女の子が、高らかに正解の一つを答えた。軽い解説を添えた後、大きな拍手をもう一度贈る
「せっかくなので、トキさん達に関する二択問題をします。こっちだと思う方に、お手元の札をあげてくださいね」
「早速いくよー!まずはー…これ!」
二人で描いたであろう可愛らしい絵が出てきた。フレンズを知ってもらう為の、元の動物を知ってもらう為のクイズは、もう少しだけ続きそうだ
*
「あっ!かばんちゃん、誰かが練習してるよ!」
「本当だ。せっかくなのでお話を聞いてみましょう。ラッキーさん、お願いします」
「任セテ」
大きな窓から見えたとあるフレンズ。既定のルートから少し外れてバスを停め、全員降りてその子に近づいていく
「こんにちはー!」
「…あら、かばんにサーバルじゃないの」
話しかけたのは、脚を伸ばしていた “チーター” さん。姉の “キングチーター” さんと一緒に、二人に何をしていたかインタビューが始まった
ここでも、さばんな特有のイベントが作られた。それは名付けて【サバンナグランドレース】。スカイレースが空のレースなら、これはまさに陸のレース。見晴らしが良く、走ることが好きな子が多くいるこのさばんなで作られた新しいイベントだ
内容としては、リレーだったり、個人だったり、重りを着けての勝負だったりと様々だ。日によってやる競技は告知されるから、選手達も準備に余裕が出来ている
「皆さん、これから選手を紹介していきます。それを聞いて、誰が一番になるか予想してみて下さい」
「当たった子はさばんな限定のジャパリまんが貰えるよ!皆頑張ってね!」
残念ながら今日はレースはないけど、過去に撮られた映像が観られるとのこと。受付にいたラッキーさんが映像を映し、サーバルさんがフリップを出し、かばんさんが映像に合わせて選手を解説していく。 “ロードランナー” や “プロングホーン” 等、見慣れないフレンズも多く参加していた
全員の注目が集まっていたその時だった
『緊急連絡!緊急連絡!付近でセルリアンを確認!スタッフ、フレンズの皆さんはお客様の避難誘導をお願いします!繰り返します!付近でセルリアンを確認!』
その場の空気が、一瞬にして凍りついた
「皆さん、バスに乗ってください!」
「安全な場所に行くよ!」
かばんさんの腕にいる、ラッキーさんからの通告。三人の指示に従って、全員急いでバスに乗り込み、セルリアンがいるであろう場所から遠ざかる
報告によれば、現れたのは大きさはいつもの丸い小型が4体と、丸い身体に腕が生えた奴が1体、尻尾が胴体と同じくらいに膨れている奴が1体。前者は『ファングセル』と、後者は『ティルセル』と名付けられた個体だ
「あれが…本物のセルリアン…」
「本当にいたんだ、あんな生物…」
「あれ生物なのか?」
「作り物じゃないんだよね?」
「あれが危険?なんかそうは見えないけど…」
「見た目がそうでも中身は違うんでしょ。職員さんも言ってたじゃないの」
双眼鏡を覗き、呟いた数人の乗客。まるでゲームに出てくるような存在は、今彼等の現実に存在している
パークに招く人には、施設やフレンズ等、事前にパークの情報の一部が説明される。それはセルリアンも例外じゃない。彼等はそれらを理解した上でパークに来ている
しかし、まさに百聞は一見に如かず。困惑と疑問で彼等の心は満たされる。奴らの危険性は、今は分からなくて当然だ
「僕達食べられちゃうの…?」
「やだー!食べられたくないよー!」
セルリアンへの恐怖で、トウヤとシュリは泣き出してしまった。二人が実際にセルリアンを見るのはこれが初めだけど、その存在と脅威は教えてある。そのことをちゃんと覚えていた、そこは不謹慎だけど嬉しかった
ただ──泣いている姿は、見たくなかったな
「コウ、ここは抑えて。貴方は家族を守るのよ」
「…分かった、頼んだよ」
「任せなさい。サクッと倒してくるわ。タヌキはお客さんの傍にいて」
「分かりました、お任せください!」
周りには聞こえない小声のやり取り。俺も加勢したい(というか全部全力で潰してやりたい)ところだけど、ここは言われた通り皆に任せよう
「皆さん、安心してください!あのフレンズさん達は強くて、皆凄いんです!」
「セルリアンなんてあっという間にパッカーンしてくれるよ!だから大丈夫!」
いの一番に飛び出していったサーベルタイガーさんに続き、チーター姉妹も後を追う。俺も念のため、蝙蝠の式神をバレないように上空へ放ち、周囲を警戒しておく
「さぁ、いくわよ!」
「言われなくても!」
「こんな奴等一瞬よ!」
チーターさんが小型の相手をしている間に、サーベルタイガーさんはファングセルの、キングチーターさんはティルセルの相手にする。多少硬いようだけど、見てる限りじゃ危ない場面はない
その剣技の鮮やかさに。その鍛えた拳に。そのしなやかな身のこなしに。その最速の脚に。人々は魅了され、瞳を輝かせていた
ものの数分で、驚異はこの場から全て消え去った
『セルリアンの消滅を確認。問題が解決しました。引き続き、パークをお楽しみください』
*
「皆さん、本日はさばんなツアーに参加していただき、誠にありがとうございました」
「私、すっごく楽しかった!皆はどうだった?」
「楽しかったー!」
「また絶対に来ます!」
「サーバルゥ…素敵ですねぇ…」
さばんなツアーもこれにて終了。感想は様々だけど、今回も大好評なのは確かだ。ハプニングもあったけど、中断せずにいけたのは本当に良かった
…変なのも聞こえたけど、まぁ、いいか
記念撮影や質問コーナーも終わったので、後のことはパーク職員とラッキーさんに任せる。これでかばんさんとサーバルさんの業務も終わり。本当にお疲れ様でした
「私もチーターちゃんみたいに速く走りたいなー」
「シュリは筋が良いから、大きくなったら速くなりそうね」
「ホント?チーターちゃんより速くなれる?」
「それは無理ね。私達は最速の姉妹、誰であろうと負けないわ」
「むー!絶対追い抜いてやるもーん!」
「フフン、期待してるわよ?」
おっと、シュリの目標が決まったみたいだ。打倒チーター姉妹、これは大きく出たな。ただ本当に出来そうだ、なぜならこの子は俺達の子供なんだから
「僕もサーベル使ってみたいなぁ」
「どうして?」
「ズババッ!ってセルリアンやっつけててカッコよかったから!僕も大きくなったら、サーベルちゃんや仮面フレンズみたいにそれで戦うんだ!」
「あらありがとう、嬉しいわ」
「だから僕、サーベルちゃんの弟子になる!」
「で、弟子?」
「うん!弟子!ダメ?」
「…そうね、トウヤが覚えてたら、その時は考えてあげる。覚えていたら、ね?」
「絶対に覚えとく!」
トウヤの進路がまさかの弟子入り路線に決まりつつある。その言葉は漫画で覚えたな、だって仮面フレンズキマイラには弟子がいるから。現実にはいないけど
まぁこう言ってるけど、その時まで二人が覚えているかは分からないし、サーベルタイガーさんも本気では言ってないだろうし、実現する可能性は低そうだ
ただ、そうなっても、そうならなくても、教えなきゃいけないことは沢山ある。その時になったら、俺も動かないとな
「タヌキもご苦労だった。慣れない中頑張ったな」
「はい、良い経験になりました!これからもっと精進しないとですね…!」
「タヌキさんなら大丈夫、きっと出来るよ。今日はお疲れ様」
このまま順調に学んでいけば、彼女はハンターを卒業してフレンズスタッフになるかもしれない。彼女が望むなら、そうなれるように俺達もサポートしていこう
「パパ!」
「ママ!」
「はいはい、忘れてないよ」
「皆も一緒に頼む」
皆が笑って頷いてくれたので、ここからは約束通り思いっきり遊ぶ時間だ。メンバーにネコ科が多いし、シュリの目標の為にもここは狩ごっこでおもいっきり走るとしよう
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