13. ポンコツ聖女は、幼馴染の勇者を恋人ガチャで引き当てる

 混乱のまま歩き続けたシルフィーは、そのまま勇者の指定した追放先である別荘へと到着する。


「おかえりなさいませ、シルフィー様」


 追放ってなんだっけ。

 ずらっと執事とメイドが並ぶ光景は壮観で、シルフィーは引きつった笑みを浮かべる。

 ミスティーユ様であれば、笑顔で返すのであろうがシルフィーは根っからの庶民体質なのだ。おまけに、今のシルフィーにその待遇を素直に喜ぶだけの余裕はない。



(私が勇者のお嫁さん、のろけ?

 なんでそんな誤解が生まれてるの?)



 頭の中でグルグルと同じような疑問が回り続ける。


(レストランに1人で入るのはなんだか恥ずかしいし。

 男女のペアで入ると割引! とか書いてあったから、勇者を誘ってご飯を食べに行ったこともあったけどっ!)


 まさかそんな誤解が生じていたなんて、とシルフィーはあわあわする。

 男女をターゲットにした割引券とか、どう見てもカップルチケットだろとか思ってはいけない。食欲で動いていたシルフィーに、そんな機微を読み取ることはできないのだ。

 お気に入りのレストランだったが、あんなことを言われたら変なことを意識してしまってもう行けないではないか。



 シルフィーは、自室のベッドで足をバタバタさせる。

 足をバタバタさせて「う~ん・う~ん」……と悩みぬいて



 ――そのまま寝落ちした。




◇◆◇◆◇


 たっぷり眠って、悩みごとにもようやくの対応方針が決まったのだ。

 シルフィーは起き上がると一大決心をした。



(魔王に恋人ができたのなら、勇者もきっと正しい道に目覚めるはずっ!)


 そして自分を追放した者の恋人探しに付き合うほど、シルフィーはおひとよしではないのだ。

 この恋人ガチャのスキルは、ミスティーユ様に対しては凄まじい効果を発揮した。

 一発で魔王を引き当てて、幸福を届けたのだ。


 これまでの爆死率は、すべて勇者が原因である。

 きっとこのスキル自体は素晴らしいものに違いないのだ。



(素敵な恋人を手に入れちゃうよ!)


 思えば、生まれて初めて自分自身のために、このスキルを使うことになる。

 勇者を実験台にしていたという面も無きにしもあらずだが、そんな都合の悪い真実にシルフィーは気が付かない。



 ポチッと



 1日1回の恋人ガチャを、シルフィーは期待を込めて回す。

 2年間ものあいだ、勇者の爆死を傍で見続けてきたのだ。揺り戻しで、きっとものすごいレアリティの恋人が引けるはず。

 典型的なガチャで有り金を溶かす人の発想である。



 やがて現れたランクは


 ――N



 夢も希望もないノーマルの表記。

 見慣れた日常である。それにノーマルといっても、可愛いスライムを引き当てたこともあるのだ。シルフィーの期待は、まだまだ止まらない。



(てかSSRでドラゴン、URで魔王が出てくるなら。

 無力な私が回すなら、低レアの方がマシでは?)



 マシというより、やばいものを引いたら対処できないポンコツ聖女はこんなものを回してはいけない。

 ガチャの演出も兼ねた魔法陣は、魔王を召喚したときに並ぶような大規模なもので。

 まるで N とは思えぬ演出に、シルフィーの期待はうなぎ登りだ。



 そうして、魔法陣が収縮し中から人型の何かが出てくる。

 シルフィーとしては、非常に見覚えのあるシルエットであった。



「な、なんで勇者が出てくるのよ!?」

「シルフィー! また、またおまえかの仕業なのか!」



 剣を装備したボサボサ頭。

 朝一から突如として魔法陣に巻き込まれて、非常に機嫌の悪そうな表情。

 勇者・デントリア、堂々の到着であった。

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