或る人

@Lazyer

或る少年(1)

 あぁ、あんたが噂の?変な人だね、死ぬかもしれないのにわざわざこんなとこまで。うん、いいよ。ちょうど暇してるし。ゴルダの話でしょ?今でもたまに取材しに来る奴がいるんだよ。どいつもこいつも気に食わないから普段なら追い返してるけど、あんたは面白そうだから話してあげる。

 

 でも何を話そうかな。皆が知りたいような情報はもう粗方出回っていると思うけど。…へぇ、なるほど。やっぱり面白いね。アンタみたいな人は嫌いじゃないよ。うん、じゃあお望み通り話したいように話させてもらうね。


 僕は生まれてこの方学校なんて行ったことなくてさ。まぁ当然と言えば当然だけど。今知っているほとんどのことはゴルダから教えてもらったんだよ。昔はそんなこと考えてもなかったけど、今思えばあいつはすごく頭が良かった。単に物知りなだけじゃなくてね。だから何を教えてもらうにも面白くて仕方がなかった。あれからいろんな人と関わったけど、未だにゴルダより頭のいい人には会ったことないよ。読み書きも、哲学も、殺し方も、なにもかも全部教えてもらった。でもだからといってあいつの思想に染まっている訳じゃないんだ。多くのことを学んだのはそうだけど、重要なことは決まって僕に考えさせていた。だから僕が食って掛かることもあったし、最後の最後には喧嘩別れみたいな形になっちゃったけど、でも本当に感謝してる。


 戦う時はいつも僕が戦闘で、あいつは殿だった。僕が初めて銃を持った時からね。とにかく何をするにも的確で、まさに百戦錬磨だったよ。一度も聞いたことはないけど、正規の訓練を受けていたのは確かだと思う。それもかなり高度の。だから戦闘中に何があっても部隊が揺らぐことはなかった。誰かが死のうが、一瞬たりとも意識を向けず、なんならその死さえ利用していた。それでも僕らが平静を保つことが出来たのは間違いなくあいつのおかげだよ。


 僕は部隊の中で最年少だったけど、あいつは一度も子ども扱いしなかった。まぁそんなことする余裕がなかったのもあると思うけど、僕にはそれが嬉しかった。だから早く認めてもらうために必死になって努力した。その成果あって、戦闘で一番鼻が利くのは僕だったんだ。ただ最初は明らかに周りより劣ってたし、死ななかったのは運が良かっただけだね、ほんと。


 ……ちょっと待っててね。すぐ戻るから。うん、終わったら続きを話すよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

或る人 @Lazyer

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る