第19話 剣聖の苦言
「……殿下」
「なんだ?」
「一部始終を見ておりました。エリシア様にも言われていたではありませんか。無闇に市井の者に手を出してはならないと」
剣聖レイに窘めるようにそう言われたルシードは反抗する子供のようにレイへと言い返す。
「なぜ私が妹であるエリシアの言う事など聞かねばならぬ。次期国王たる私に無礼を働いた者を何の罪にも問わず解放するなど本来あってはならないというのに。アイツがあんな甘い態度だから下々の者達が王族を甘く見るのだ」
ルシードが今回のような騒ぎを起こしたのはこれが初めてではなかった。
1年ほど前にもルシードが乗った馬車の前に子供が飛び出してきた事件があった。
その時も今回の同じようにルシードは「不敬罪だ、殺せ」と騎士に命じ、実際に騎士が子供を殺す直前までいったことがあったのである。
その時に子供を助けたのが、ルシードの妹である第一王女エリシア=ユーディーン=ドレアスだった。
偶然、事件の現場にやってきて止めに入ったエリシアとレイにより子供は不敬罪に問われる事なくその場で開放され、その時の事をルシードは未だに根に持っているのである。
「確かに殿下の言う事も一理ありますが、殿下はやりすぎです。エリシア様のように民を思う心をお持ちになれる者こそ王に必要な資質なのではないでしょうか?」
「そんなものはこのドレアス王国の王には必要ない。只の一武官である貴様にそんなことを言われる筋合いもない。父上のお気に入りだからって調子に乗るな」
「……そういう訳ではありませんが、少なくとも今後は城下内で市民を斬り捨てるのは止めて頂けないのであれば殿下の日頃の行いを陛下に奏上しなければならなくなります」
「ドレアス王国第一王子である私に意見する気か。貴様も偉くなったものだな」
そう言いつつもルシードも剣聖であるレイの存在は無視できないものがあった。
剣聖レイの国内での評判の高さは著しいものがあり、現ドレアス王国国王ユーディーン=パブロ=ドレアスからも絶大な信頼を得ていたからからだ。
なによりルシードが気に入らないのはそんな剣聖レイがルシード自身よりも妹であるエリシアに懐いていることだった。
「ふん、まぁ貴様がそれだけ言うのであれば私も少し考慮するとしよう」
こんな大きな口を叩いていられるのも自身がドレアス王国の国王になるまでの間だけだとこの場ではルシードは譲歩を選ぶことにしたのである。
そんなことよりも今は遥かに許せない事がルシードにはあった。
ルシードはアッシュへと視線を向けなおすとアッシュは逃げるでもなく頭をポリポリと掻きながら欠伸をかいている真っ最中だった。
「き、貴様、一部始終を見ていたと言ったな。アレは決して許されない事をした。ドレアス王国の威信にかけてもあの男だけは殺せ。まさかあれだけドレアス王国を侮辱したあの男を許すなどと言う事はないな?」
「……えぇ」
剣聖レイの肯定にルシードは目の前の男の死を確信するのだった。
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