第17話 偉大過ぎる勇者の才能

俺様が4人の騎士へと斬り込んだ同時に騎士の後方にある無駄に煌びやかな馬車の付近から男の大きな声が聞こえてきた。






「……不敬罪! 不敬罪である! 今すぐその無礼者を捕らえ、見せしめに磔火あぶりの刑にせよ!」






特に目の前の騎士4人に視線を集中させる必要もないので俺様は声のした方を見るとそこには無駄に煌びやかな装飾のついた服を着るいかにも軟弱そうな男が目に付いた。




アレが恐らく例のルシードとかいう王子なのだろう。


無礼者はどちらかというとこちらのセリフだが、まぁ王子とかそういうのは大体無知で愚かと相場で決まっているので、俺様は特に気にすることなく目の前の騎士4人に剣を振るう。




とはいっても特に剣技とかそういうのは使わない。


ただ刃を当ててしまうと無駄に重そうなだけな意味のない鎧ごと両断してしまいそうなので、俺様は剣の腹を淡々と騎士達の横っ腹にブチ当てていく。






「ぐはぁ!」「ぎゃぁ!」「ぎょぇ!」「ぺげ!」






騎士達はそんな4者4様の悲鳴的なものを上げてその場で失神する。


かなり手加減したが、思ったよりも鎧の耐久度が低かったのか俺様が剣でぶっ叩いた箇所がとんでもないひしゃげ方をしていた。




瞬く間に4人の騎士を倒されて残る十数人の騎士達は状況を理解できなかったのかその場で固まってしまっている。






「もう終わりか?」






変な空気になってしまったので俺様が気を使ってそんな言葉を騎士達にかけてやる。


すると、なぜか騎士ではなく馬車の近くで見ていた王子らしき男が喚くように言った。






「な、な、な、何をやっている! 今すぐあの無礼者を殺せぇぇぇ!」






あれ? 見せしめに捕えて磔にするんじゃなかったのか?




俺様がそんなことを思っていると、腐っても騎士と言った所だろうか。王子らしき男の近くにいた数名の騎士を残し、10人を超える騎士が俺様に向かって特攻を開始した。


別に攻撃してきてくれるのは一向に構わんのだが、一つ困った事が俺様にはあった。




剣の腹でも下手したら勢い余って殺してしまいそうだとさっきの攻防で感じてしまったのである。


正直、俺様は魔獣や魔人との戦いには慣れているが対人戦(特に雑魚)はあまり経験がない。


魔獣や魔人ならどれだけオーバーキルしようがただ魔力や体力の無駄遣いになるだけだが、人相手だとそうはいかない。ある程度相手に合わせて手加減が必要なのである。




俺は仕方なく、聖剣を鞘へと戻し、拳をぐっぱぐっぱする。




うん。いける気がするな。ていうかむしろこれでもオーバーキルにならないか心配になってくるほどだ。




ちなみにだが、俺様が剣を収めたというのに騎士達は躊躇うことなく今も俺へと向かってきている。


どうやらよほど俺様を殺したいらしい。


まぁどう頑張っても不可能なのだがな。




あんまりやったことはないのだが俺様は拳に魔力を込めて、ようやく俺様へと斬りかかってきた騎士の一人の剣に合わせるように拳をブチ当てた。






キィーン。






その瞬間、俺様の拳にぶち当たった騎士の剣は高い音を響かせながら、真っ二つにへし折れ、折れた剣先が宙をクルクルと舞う。






「なっ! はっ? えっ?」






何が起きたか理解できていないのか剣を折られた騎士はそんな言葉にならない声を上げ、騎士の後ろから迫っていた騎士達も先程までの勢いはどこにいったのかその場で立ち尽くしている。






「おい、隙だらけだぞ」






「えっ、——げぼはっ!」






俺様は棒立ちの騎士の腹に拳を叩きこむと騎士はその場で失神してしまった。


そして俺様に殴られた甲冑の腹の部分は先程よりは幾分かはマシだが、やはりかなりひしゃげてしまっている。






「あーぁ、まだこれでもダメなのか。恐ろしいものだな。偉大過ぎる勇者の才能というものは」






魔獣や魔人は剣で斬り殺せばそれで済んでいたので気づかなかったが、俺様の才能は剣と魔法に留まらず、拳士としても至高の才能を有していたようである。






「さて」






俺様は馬車の前方に俺様の雄姿を見て固まっていた少年へと歩み寄る。






「おい、クソガキ、立てるか?」






「うん」






俺様が優しくそう声をかけると、意外と平静を保っていたのか少年は俺様の手助け無しにスッと立ち上がった。


俺様にビビって何もできず道を空けた騎士共よりよほど胆が据わっているように思える。






「さっさと家に帰れ。前はしっかり見て歩けよ」






「うん、ありがとう! 偉大過ぎる勇者様!」






少年はそれだけ言うと近くの路地へと走り去って行く。


騎士はそんな少年の邪魔をすることなくただ見つめていた。






「ふん、この世界には勇者の概念はなかったはずだが、やはり分かる者には分かる者なのだな」






俺様は少年を見送った後、10mほど離れた馬車の近くで俺様を見つめていたルシードとかいう馬鹿王子を睨みつけると馬鹿王子はびくっと体を震わせた。


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