転機
旧友の遺品として、楽器ケースが届いた。
持病がとうとう彼の命を喰い尽くしたか。
ふと、旧友と観に行った映画を思い出す。原作はミステリ小説で、確かコントラバスを入れるケースに遺体を……。
「今すぐ開けろ!」
薔薇と緩衝材に埋もれるように入っていたのは一人の人間。旧友を通して交流はあった、真綿と絹糸でできたような、手弱女。はっきりと問い質した事はないが、おそらく旧友の婚外子だろう。
慌てふためく部下よりも先に女に触れる。体温を帯びた肌、とくとくと血液が巡っている脈。掌に伝わる吐息。――嗚呼、生きている。ひどく安堵した自分がいた。
夢の中の光景が現実に現れたような、不思議な気分だった。
「ボス……」
「今日付けで私の娘だ」
欲しいものはいつだって誰かが愛するものだった。今回は違うかもしれないと期待する。管理される事を厭わず触れて愛して独占して、もしかしたら愛してくれるかもしれない存在。
――これからは、私のものだ。
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