N5話 助けて神父さま!

-人材派遣会社NPCコーポレーション


「去年辞めた“神父さま”が最新作のサラクエに出ているらしい。しかも、プレイヤーとしてユーザー様と共に戦ってるみたいだ」


こんな噂が社内に流れてから、村人と店主は必死になって神父さまを探してきた。規則違反にあたるユーザー情報の閲覧や業務用ログインボーナスの不正利用。そんなことをしていたら、どうなるか。


───バレた。


しかも、内部会議にかけられることに。咄嗟の機転で、宿屋の娘にまで捜査が及ぶことはなかった。しかしながら、二人の罪は酷く重い。


-内部会議

だだっ広い会議室には、大きな窓があって日光が差し込んでいる。けれども、会社の役員たちからは、溢れるばかりのどんよりさが醸し出されていた。


「あなたたちは我が社の規則を破り、我が社の信頼に傷をつけました。その罪は重く、賠償問題となってもおかしくありません」

厳しい雰囲気の女性秘書が叱責してくる。村人は至って、店主はあからさまに落ち込んでる様子だった。


そのまま秘書は続け、

「まず、今日をもって契約を解除します。また、自宅謹慎という形で我々の判断を待っていてもらいます。いいですね?」


高圧的な言いぷりにも、村人は

「わかりました。家で大人しくしてるっす」

とチャラめに答えた。


(どうしてお前って奴は、こうも平気な顔をして)

内心そんなことを思いながら、店主は深々と謝り、反省の弁を述べる。



地獄のような重苦しい会議が1時間ほど経った時のこと、


神父さまはやってきたのだ。しかも、窓からではなく、ちゃんとドアから。


「ご無沙汰しています。去年まで、御社のRPG部門セーブデータ班に所属していました“エリック・パーラー・リヒトベルク”です。まぁ、名前は覚えなくて大丈夫ですよ、皆さんは“神父さま”と呼んでくれてますし」


(名前長いな!)

村人は少し笑いをこらえた。


神父はそのまま、役員たちにプリントを配ると説明を開始した。

「私事ですが、この度フリーランスからサラクエの創造主ゲームマスターに雇われています。そうしましては、今回協力をいただきたく存じます」


「というと?」

役員の一人が問う。


「サラクエでは、初めてのオンライン化に伴い“バグ”や“チート”が多発しています。ここで我々は、これらの問題を解決するために特別チームを編成しました。その名も───」


「名前はいいので」

女性秘書が割って入る。


神父はコホンと咳払いをしてから、

「そこにいる村人と店主を救出ヘッドハンティングしに来ました!」

神父の指差す先にいる二人は、輝く目をしていた。



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