神父さまといっしょ〜データごと消しちゃうぞ〜
拙井松明
第一章 オンラインでも、交流は難しい
第1話 はじめからあそぶ
『サラクエ』。正式名称『サラマンダークエスト』。ジャンルはRPGである。この度、シリーズ15周年記念として反響の大きかった「
『サラクエⅢ』をHDリマスター化することとなった。
-東京 スモールカメラ新宿店
「『サラクエⅢ』販売中です!」
騒がしいサラリーマンの波を泳ぎきった先に“それ”はあった。子どもの頃、ハマって何度も夜更かししたこのゲーム。10年経って、またこれをやるとは思ってもみなかった。
「一点で7200円になります」
昔ってこんなに高かったっけと思いながらも、俺の心はすっかり子どもの頃に戻っていた。
ここでオタクなら、自分語りを始めるんだろうか。俺はそんなことをする気はない。手短に言うと入社三年目にして心労に殺されかけてる社会人であるとだけ言っておこうと思う。
<ゲームを起動しています>
今日のスポーツニュースを眺めながら、ゲームの起動をそっと待つ。
<セーブデータを確認しています>
説明書を探すも、最近のはすでに付いていないらしい。
<はじめからあそぶ>
このボタンを押した時、なんだか子どもに戻った気がした。チャチャっとアバターを作り、早速ゲームの世界に降り立つ。
「君、新人さんかな?」
「はい」
「名前はタローくんだね。よろしく。俺の名はユウタ」
ユウタと名乗ったこの青年はボイスチャットをうまく使いながら、生まれ変わった『サラクエ』を解説をしてくれた。
街一周を巡るガイドツアーが終わり、外れの“商店”に差し掛かった。そこには街を一望出来る展望台があるが、誰もいない。
「色々と丁寧にありがとうございました」
「いえいえ。誰だって最初は初心者だからね」
タメ口が少しばかり気になったが、教えてくれて助かったとタローは思った。ステータスを見るとレベルは35であり、なかなかの強者。
(よくこんな俺に細かく教えてくれたな。イマドキの若者ってのは頼もしいもんだ)
とタローは幼き頃の自分と照らし合わせた。
「また会ったらよろしくお願いします。」
「言うの忘れてました。初回ボーナスもらいました?」
「そんなのがあるんですね。どうやれば」
「プレゼントボックス開いて、“send”を押してください」
(ん?sendって“送る”ていう意味じゃなかったか?)
「どうしました?まぁ、ガイド料だと思って」
ユウタの顔が悪そうな笑顔に変わる。ハメられたと我に帰ると、どう見ても味方ではないアバターが4、5人。目の前の“彼”も同様であった。もちろん、ステータスは格上。
(仕方ないか。ボーナスなんて無くても、どうにかなるだろ)
タローが得意の諦めを決め込もうとした時、
「“データごと”消して差し上げましょうか?」
身長くらいある大きなハンマーを片手に、軽々とアバターたちを吹き飛ばして行く男。
「ここは武器使えないんじゃないのかよ」
「“チーター”だろ、こいつ」
囲みの輩は散り散りとなり、目の前に残るのはユウタのみ。そして、近づいてきた男の顔は街頭に照らされて明らかになる。
「教会の神父じゃんか。俺はユーザー様だぞ、攻撃してきて良いと思ってんのかよ!」
街頭に照らされた神父の姿は、タローが幼き日に利用した神父とまるっきり一致していた。
「そうですね。ユーザー様は“神様”です」
「そうだろ!だったら、助けてくれよ‼︎」
神父は優しく微笑み、
「確かにユーザー様は神様です。しかし、あなた様は
───ご愁傷様です♪」
タローのゲーム初日は、神父の豪快なスイングで始まることとなった。
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