【現ドラ】【会話劇】クリスマス

「開けるよ?」

「う、うん」

「おお!」

「ちょっと、見えないっ。うわ、なんか、トリの丸焼きになる前のトリって感じ」

「そりゃあ、丸焼き用のトリだから」

「結構大きいね。これ入るかなあ」

「入るだろ。よっと。……やべ、入らないかも。ギリギリだ」

「ふふ、焦げるかもね」


「そうそう、表面にクレイジーソルトして、オリーブオイルを塗るの。で、中に、玉ねぎと、ニンジンと、セロリを入れる」

「マジでセロリ入れんの? やめない?」

「だぁめ。セロリを入れないと味が変わっちゃう。臭くならないから」

「ほんとに? 信じるよ?」

「だいじょぶだいじょぶ! ほらほら、お尻から、入れて入れて!」

「尻言うな!」

「じゃあ肛も――」

「やめぇい!」

「なんでよ。あ、ジャガイモは入れないで、周りに並べるの。余った野菜もね」

「こんな感じ?」

「おっけー。最後に、お尻をふさぎまーす。はい、爪楊枝」

「マジ? これで?」

「ほんとはタコ糸で縫うんだけど、まあ、なんとなくふさがってればいいでしょ」

「いいんだ」

「後はオーブンに任せるだけ!」

「よ、よし。なんとか入った」


「焼けた?」

「表面は焼けてるけど、中はまだ生っぽい」

「これ以上やったら焦げちゃうよ」

「トリ肉を生で食うわけにはいかないだろ」

「コンビ加熱できないからなあ。手動でチンしちゃえばいいんじゃない?」

「ちゃんとオーブンで焼くんだろ。はい、離れて離れて」

「焦げちゃうー。皮が美味しいのに、焦げちゃうー!」

「はいはい。まだ大丈夫だから」


「どう?」

「あ、ちょっと焦げた」

「えーーー!! だから言ったのに!!」

「でも中も焼けたみたいだ」

「完成!?」

「完成」

「やったー! スープもできてるし、サラダもパンもテーブルにセッティング済みだよ。食べよう食べよう」

「これこのままでいいのか?」

「いいのいいの。鍋敷きに鉄板ごと置いて、ナイフとフォークで切りながら食べるの。切る係よろしく!」

「へいへい。ここまで来たら全部やりますよ」


「かんぱ~い」

「乾杯」

「ぷっは~」

「シャンパンそんな飲み方するなよ」

「早く早く! 切って切って!」

「はいはい。お、すげぇ美味そう。結構柔らかいし、肉汁もすごい出るな。うわ、セロリが出てきた。お前は端っこに行ってろ」

「早く~!」

「ほれ、一番美味そうな表面のとこ」

「焦げてるとこじゃん!! お尻が一番美味しいらしいよ?」

「また尻かよ。後でな」

「それじゃ、いっただっきまーす!」

「いただきます。……お、美味い」

「……」

「ん? どうした?」

「……」

「不味かったか? おーい」

「……お父さんの、味がする」

「お、おお。それは光栄だ」

「毎年食べてたやつ……お父さんの……クリスマスの味がする……」

「おいおい、泣くなよ。美味いんだろ?」

「うん、おいしい……」

「泣くなって」

「お父さんに、会いたい……」

「年明けたら、墓参り行こう」

「うん……」

「これから毎年俺が作ってやるから。作り方もわかったし」

「うん、ありがとう……へへ、泣いちゃった」

「俺の代わりに作ってくれる人が現れるまでだからな」

「あんたに彼女ができるまでには、見つけないとね」

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