【現F】【会話劇】ハロウィン

お題:短編、秋、ハロウィン


「お待たせ。待った?」

「いや、今来たとこ」


「ここのハロウィンイベントはすげーとは聞いてたけど、マジですげーな」

「本格的だよな。日本だとは思えん」

「あのスパイダーマンなんて本物みたいじゃね?」

「いや、あれは全身タイツ着てマスク被ってるだけだろ」

「じゃああのピカチューは?」

「あれは着ぐるみ」

「あのマリオ!」

「髭のおっさんがツナギ着て赤い帽子かぶってるだけ」


「お前……厳しいな」

「本格的っていうのは、ああいうのを言うんだよ。ほら、あのゾンビのおねーさん」

「すげぇ。肉のただれ具合が本物っぽい」

「今の特殊メイク技術はすげーよな。動画でやってた」

「隣のおので頭をカチ割られてるおにーさんの血の垂れ具合もいい。あれどうなってんだ?」

「斧が刺さっているように見えて、実は頭の形にえぐれてるんだよ」

「マジか。すげー」


「うわ、あの人、腹にジッパーついてて内臓見えてるのかと思った。皮膚に直接絵描いてるだけなのな」

「あ、こっちから見ると確かに絵だな」

「トリックアートみたいだ」

「寒そう」

「秋の夜長に上半身裸か……」


「ところでさ、なんでお前、狼男なのに、サングラスしてんの?」

「知り合いにバレたら恥ずかしいじゃん」

「いや、そんな毛むくじゃらでバレるわけなくね? 俺見分ける自信ねぇわ」

「かーちゃんにはわかる」

「あー……お前のかーちゃんならわかるだろうな」

「うっかりカメラに映って公共電波で流されたらたまんねーよ。その日のうちに親族中に動画が出回るわ。お前こそ、ほぼ素顔で大丈夫かよ。ちょっとメイクしただけだろ」

「大丈夫だって。ドラキュラなんてそこら中にいるだろ。わかるわけないって」

「それもそうか」


「しかし、俺たちもついにハロウィンデビューか」

「今年は勇気を出して来てみてよかったな」

「日本は上っ面だけ真似てイベントとして楽しんでるのがいいよなー」

「だなー。欧米だとガチ勢がいるからな」

「ケルト人の祭りに参加してヤケドしたって聞くと怖くてさ」

「あー、そりゃダメだ。ハロウィンの起源だって言われてるやつだろ。面白半分で参加しちゃヤケドするわ。むしろそれくらいで済んでよかったと思うべき」


「なんか腹減ってきた」

「ここで食うの? もっと美味い所行こうぜ」

「お前は腹減らねぇの? こういうイベントってテンション上がっていつもより腹減るんだけど」

「わかる。でもなあ。あ、フランクフルト売ってる。あれで我慢するわ」

「え、じゃあ俺だけちょっと行ってくるわ」

「ちょ、マジ? マジで言ってる? オレ置いてく気? ひどくね?」

「悪ぃ、もう腹減って倒れそう。ちょっと行ってくる」

「うぉぉい! まだ話は終わってないんだけど!? ったく、マジかよ……。時間にだけは気をつけろよ! 真夜中過ぎたら一年帰れなくなるぞ!」

「わぁってる」

「あんまり食い散らかすなよ!」

「わぁってるわぁってる!」

「つぅかお前飯食うのどれくらいぶりよ?」

「三十年!」

「さんじゅ……!?」

「じゃー、またあとでー」

「ちょ! ……俺も食っちゃおうかな。お姉さん、お姉さん、俺とイイコトしない? あ、この毛? 自前自前。嘘じゃないよほんとだって。じゃあ、あっち行こうか。美味しそうな足だね。足フェチなのって? モモ肉は好物だよ」

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