猫
蛙鳴未明
猫
猫の声に振り返ると、黒白の猫と目が合った。野良猫だろうか。小首をかしげてにゃあとなく。思わず笑顔になってニャアとなき返すと、猫はとてとてとこちらに近付いてきた。
にゃあお
「どうしたの?」
身を屈めると、ねこはちょっと首を傾げた。
にゃうお?
「かわいいね~」
思わず伸ばした手は素早く避けられた。ちょっと怒ったように猫が鳴く。おとなしく手を引っ込めると、それもそれで嫌なのか猫は不満げにこちらを見上げた。
「まったくツンデレさんなんだからぁ~」
にゅう
猫は私の目をじっと睨む。
ふみゃあお
ちょっと怒ったような声だった。慌てて立ち上がりかけた。
「あ、ごめんね。もう行くからね――」
に”ゃうぅ
その場に固まり目を瞬く。この猫はいったいどうしてほしいのか。試しにゆっくり一歩下がってみた。
に”ぁ”あ”お”う”
これも違うらしい。猫の目を見る。何か言いたげな目だな、思ったとたん、猫が大声で鳴きだした。
ぶみ”ゃ”あ”お”う”み”ゃ”お”に”ぁ”あ”お”お”う”!
ものすごい声だ。本能を刺激されるような、明らかに今までと違う雰囲気。閃く直観。
「逃げろ?逃げろって言ってるの?」
猫がひときわ強く鳴く。間違いない。踵を返して走りだそうとしたその時、体がぐらりとよろめいて、次の瞬間、背中が強い衝撃に襲われた。
はっと目を覚ます。頭がぼんやりして、景色がぐわんぐわんに揺らめいている。すさまじい圧迫感。指一本動かせない。体全体が火のように熱い。とてとて、と音が聞こえた。ぼんやりそっちを見ると、さっきの黒白の猫がいた。みゅううと小さく鳴く。
そうか、助けようとしてくれてたんだね……。
口からこぼれるのは吐息だけだった。視界が暗くなってきた。せめて……せめて感謝を……
「あ……りが――」
白い脚が突き出た巨大な資材は夕日に照らされて大きな影を作っている。その中から何かがむくりと身を起こした。ソレは足のほうをくるりと向いて、誰かの目玉を噛み潰す。赤い口元を流れる汁をぺろりと舐めて、
みゃあい
ソレは一声鳴いた
猫 蛙鳴未明 @ttyy
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