第17話 その後

今日は非番だったが、昼過ぎに上司からの連絡で緊急招集がかかり、警視庁へ行くとなぜか、東京駅の半径2キロ圏内の人払いをするために駆り出され、その後本庁へ戻るとひたすら待機で情報が全く上から降りてこなく、その間にも東京駅にはサットや自衛隊の車が集まったりどこかへ出ていったりしていく中やっと現場に入ったのは全て事件が終わった11時前だった途中で封鎖エリアを警らしていた顔見知りの警官に出ていった車列の中から何台かが首都高に入る前に二手に分かれてどこの所属だよとプンスカ怒っていた聞いてやった。


 後輩の氷川と東京駅に入ろうとすると昔お世話になった大先輩の原口さんがいたの取り留めない話をしていて車が首都高に乗る前に二手に分かれたと伝えると急に話を遮り中が酷いから気をつけろと言った後、走ってどこかへ行ってしまった。


 それを見て居た氷川が「あれが先輩が言ってた原口さんですか?」


「ああ、昔はよく怒られた。今は八王子にいるんじゃなかったかな。」


「僕の同期で今、八王子の刑事をやってる奴がちょっと前にあの人と組んでてそいつから、あの人一週間前に定年退職したって言ったような。」


「そんなのことないだろ、今までいたんだし。多分あれだよ、定年前の有給消化してたら呼び出されたんだよ。」


「そっか。」と引っかかる返事が返って来た。

東京駅の中に入ると工事用のライトがいくつも並んでいてその周りには機動隊員の死体がいくつもあり、しかもそれがどれも普通じゃない死に方をして居たため喉が痙攣し始めたので死体の近くから遠ざかろうとするが我慢することができず、現場で吐いてしまって床に、さっき食べたサンドイッチの残骸をぶちまけ、それを見て再び気持ち悪くなり胃液を吐いた。


「先輩、そろそろ死体見るの慣れた方がいいですよ。」と呆れた話し方で氷川が言った。

 周りを見ると警官や鑑識や刑事が冷ややかな目でこちらを見つめて居たのでストレスがかかり余計気持ち悪くなった。




 

***




 朦朧する意識の中で頭が固くて冷たい板の上にあることを感じた。


 眠さで反抗する目蓋を開くと目の前の焦点が合わず目を細めなんとか焦点をあわせるとそこには灰色のコンクリート打ちっ放しの壁とその手前には白いペンキがん所々剥がれ地肌の灰色の鉄が見えている鉄の柵が見えた。


 意識が戻ってくると同時に頭がガンガンと痛みはじめ意識がハッキリするにつれその痛みもハッキしたものになった。


 何とか、体を起こし地面の上にあぐらを描き座りりこみ背骨をまげうな垂れるように顔をさげてで目の辺りを擦った。


 自分の腕を見ると私服のままで、周りを見るとそこは何処かの監獄であることがわり二日酔のように頭と体が合致しないような感覚に陥りながらも今までにあったことを思い出そうとしていると、どこからとも無く「緒方さんいるんですか。」と東山の声がした。


「東山か?」と聞くと廊下から音がしたので近くの監獄にいるとわかった。


「はい、そっちは大丈夫ですか?」


「ああ、二日酔いみたいに頭が痛いけどなんとか。そっちは?」


「こっちも大丈夫です。それより今って何時だか分かります?私の腕時計壊れちゃって。」


「ちょっと待て。」と言って腕時計を見るて「0時51分。」と言いながら地下でキャップに言われた雑感記事ことを思い出し身に付けている物の全てのポケットに手を突っ込み携帯電話を探すが小銭一枚出てこなかった。


「東山、携帯電話持ってないよな。」


「さっき車に置いて来ちゃったんで。雑感記事ですか?」


「後9分。」と東山に言った後、立ち上がり柵をつかんで腹の底から大きな声で「おーい誰かいないのかー。」と叫んだが監獄の中で響くだけで誰も返事を返してくれなかった。


 その後、誰もこの監獄に訪れるものはなく午前1時を過ぎていった。



***




 午前2時、丁度関東公安調査局の周りには入り口にの詰所の前で守衛が立っている以外は誰も居なく、御茶ノ水から乗って来たランドクルーザーを近くにとめタバコを吸おうと道路に出た。 


 夜に屋外でじっとしていると、昼の暑さが嘘のように少し肌寒くなり今が10月だと言うことを改めて実感しながら衣替えをしなくてわと思いながら居候してる東山に頼もうかと考えて居ながらさっき公衆電話から電話をかけた相手をタバコを吸い待っていると、急に後ろから懐かしさを感じる可愛らしい声で「路上喫煙禁止区域ですよ。」と声をかけられた。


「久しぶりじゃねえか一ノ瀬、元気にやってるか。」といいながら振り向くと何処の街にもいるような、背が低く少し童顔で小綺麗なOL風でニッコリとした女がいて、緒方は彼女を丸の内OL風と言っていた。


「はい、なんとか。でも驚きましたよ、四年ぶりにいきなり連絡がきたんですから。」と言う彼女が実際は全くそんなことを思ってない事を過去の経験で紐解くように思い出していきながら慎重に会話をする。


「何言ってやがる、緒方の前に姿を現しただろ。その時点で俺が関わってることは知ってたんだろ?」


「あれ、気付いてました?まあ、私もプロですから。」


「それでさっき頼んだ事、出来そうか?」


「はい、もう話は付けてあるのでそろそろ出て来ますよ。」


「そうか。すまねえな、こんな事頼んで。大変だったろ。」


「いえ、今回は元々生かして返す予定だったんでそれを早くしただけですよ、流石に締め切り間際に直接記事にされたらウチはどうすることもできませんからね。でも組織が違うので、何もさせないで帰させるのはちょっと大変でした。あ、後これ」と緒方のスパイケータイを渡し「さすがにこれは違法ですからね、捕まったときにこれだけ回収しておきました。」


「ずいぶんな借りが出来ちまったな。」


「大丈夫です、私は借りだなんて思ってないですよ。私が原口さんから受けた恩に比べればなんて事ないですよ、でももし本当に返してくれるなら。」と言った後彼女は少し真面目な顔をして「戻ってくる気はありませんか?ウチならそれ相応のポストが用意できますし。」と言った後再びさっきとおなじニッコリした顔に戻り「なんて。冗談ですよ、本当に気にしないで下さい。」と言われ俺は彼女から視線を逸らし地面を見ながら「すまねえな、今度必ず返す。」とだけ言った後短くなったタバコ人吸いした後地面に落としくたびれた革靴のかかとで必要以上にねじり潰していると「あ、出て来ましたよ。」と急に言われたので公安調査局の玄関から東山と緒方が出て来るの確認した後彼女の方に向き返すとそこには影も形もなかった。


 生垣の切れ目から玄関の方へ歩いて行くと、二人もこちらを見つけたようで走ってこっちに近付いて来た。


「原口さん。無事だったんですね。よかった。」と真っ先に言ったのは東山だった。


「ああ、それより済まなかったな。東京駅までは着いたのが全部終わった後で、現場を見たら焦ったぜお前等も殺されたんじゃないかと思ってな。」と言った後緒方の方を見ると嬉しくないような顔で何も言わなかったため東山に聞くと。


「明日の一面の雑感記事を落としたんです。締め切りが1時までで。」


「なあ、緒方あの現場の状況で怪我しなかったんだからいいじゃねえか、命あっての仕事だぜ。」


「原口さん、自分は人間である前に記者なんです。記者はどこよりも先に記事を書かなくちゃいけないんです。そう言う生き物なんです。」と言うと東山が「いいじゃないですか私たちが追ってた事件も記事になることになったんだから。」と言うのを聞き。申し訳ない気持ちを押し殺した。


「そういえば嬢ちゃんはどうした?」と二人に聞くと東山が「わかりません、特殊部隊が突入して来たとこまでは一緒に居ましたけど、その後私達ガスで眠らされて、気づいたらここに居たんですよ。」と言った後周りを見て「て言うかここ警視庁じゃないんですね。」


「ああ、九段下だ。」と言うと緒方が相変わらずのむすっとした顔で建物の入り口に書いてある名前を読む「合同庁舎って。ここ公安ですか?」


「そうだ、よく分かったな。」


「仕事ですから。それより、なんで原口さんがここに?」


「身柄の引受人としてな、大変だったぜお前たちを見つけるの。まあ話は車の中でじっくり聞くから乗れよ」と右手の親指で指し示した。


「会社まで送ってもらってもいいですか?」


「ああ、何処までも連れてってやるよ。」と言うと東山が「原口さん、なんか胡散臭いですね。」

と目を細めて疑いにお目を向けて来て、自分の腕が落ちた事を実感した。



***



 原口さんに会社まで送ってもらって着いたのが2時半だった。車の中でキャップに連絡を取るとやはり締め切りには間に合わなかったがそのまま会社に来る様に指示された。


 調査報道班のオフィスは班長がいる一番奥の部屋以外の電灯は消えていた。その明かりを頼りにキャップのところまで進み扉を開けると、部屋の中に充満していたタバコの煙が行き場を求めて外にゆらゆら漂って来た。


 中には班長だけではなく主筆と政治部、社会部の部長もいて各々ソファーや机の端に腰掛けながらタバコを吸いよれよれになったカッターシャツを腕まくりしたりネクタイを緩めたりしていて、私が入った瞬間こちらに一斉に視線が集まり最初に口を開いたのは班長だった。


「よく帰ったな原口さんから話は聞いた公安では何もされなかったか?」


「まあ一応。監獄に入れられてただけでしたから。」


「どうやって出て来たんだ?」


「原口さんが色々動いてくれたみたいですけど具体的に何をしたかまではわかりません。」と言うとソファーの上で目を瞑って聞いていた主筆が徐に「その原口さんってのはあの原口さんか?」と班長に聞くと。


「はい前、警視庁にいた人です。最近は八王子にいたんですけど先週ぐらいに定年退職しました。緒方が調査してる時になりいきで手伝ってもらってて今も一緒にやってます。」と言うと主筆は再び黙り込んだ。そして班長は再び私の方を見て。


「東京駅では何があった。」


「野上です。」


「野上裕太か。」とキャップが言うと政治部の伊藤デスクが口を開いた。


「野上ってさっき雲村が説明した?」


「ああそいつだ。」と伊藤デスクに言った後私の方を見て「一人だったか?」


「いえ、十人以上いました。ただその全員が操られてたかどうかはわかりませんでした。」


「客観的に見て今回の爆破は超能力を使ってやった事だったのか?」


「いえそれも、なんとも言えません。実際に火が発生したり電気を発生させると行った事は見られましたが、そのどれもが起こそうと思えばホームセンターで材料を集めればできない事はないと思います。」


「二人ともは今回の件を調査して来た者としてどう報道すべきだと思う?」と問いかけて来たのは社会部の田中デスクだった。


「えっ、自分ですか?」と言った後少し考え「自分は超能力に関しては伏せたほうがいいと思います。政府もこのことについては隠すでしょうし、大体ウチの新聞はスポーツ紙じゃ無いんだからウチの社会的信頼に関わると思います。」と言うと主筆が。


「ならお前はこのことに関して読者を欺けば良いって考えてる訳だな。」


「別に欺くわけじゃありません、ただこのことに関して書かないだけです。この問題はどっちにしろ国が認めなければ誤報扱いにされるし。ウチが矢追純一みたいな扱いされるだけですよ描いても描かなくても負けなら、被害が少ない方を選んで、別の方向から政府に説明責任を要求すべきです。」と言うと後ろにいた東山が私の話にかぶせる形で怒った声で会話に割り込んだ。


「ちょっと待ってください。そんなのただ緒方さんが政府に仕返ししたいだけじゃ無いですか。」その一言に私はカチンとし「何?」と言いながら後ろを振り返った。


「だってそうじゃないですか、あの時東京駅だ緒方さんが一番近くで見ていた真実を隠してまで勝ちとか負けとかわけわかんないこと言って情報操作をして、そんな緒方さんが嫌いな政府と一緒じゃ無いですか。」と言われ言い返そうとした瞬間割って入るように魔をつむっていた主筆が強い語気で「おい、二人とも落ち着け。」と言合いを止めると、部屋中が暫く静かになりその後つむっていた目を開けタバコの灰を灰皿に落としてから口を開いた。


「お前らの言いたい事はわかった。緒方、明日の夕刊に雑感記事を載せるから記事を書いとけ。それと二週間後にお前等の記事を特集で出すから一週間後、だから来週の月曜までに東山と一緒に二人で記事を上げろ。」と言うと主筆はキャップに向かって「おい雲村、どこから情報が漏れるかわからんからどっか安全なところで書かせてやれ。」


「はい、それなら今使ってる場所があるんでそこで書かせます。」とキャップは主筆に言った後私たちの方を見て「二人とも明日から池谷のとこで記事かけ、社内では他言無用だ。いいな?」


「「はい。」」


「後なんか聞きたいことはあるか?」と言われたので主筆に向かって「雑感と特集で超能力についてなんて書けばいいんですか?」と聞くと小さく溜息を吐き呆れたように。


「あぁ?雑感は書くな、特集は二人で仲良く考えろ。お前らも曲がりなりにも文屋なら行間を読んで察しろ。馬鹿野郎。」としまいには軽く怒鳴られた。



 ***


 


 「絶対にダメです。そんなの許しません。」と怒って反論をしている声が池谷さんのコンクリート打ちっぱなしの事務所の中に反響した。主筆から記事を書くように言われて三日目、あの爆破事件の後警察や政府は犯人についての情報は全く出て来ず、事件の顛末を知っている私と東山は記事の内容に対してことごとく怒鳴り合い何とか進めて行った。


「何でだよ、実名を公開しないと、この記事の根拠が薄いだろ。」


「そんな事したら、美香ちゃん達は一生普通の生活を送る事はできないじゃ無いですか。」と東山が言い終わるといつもの場所で黒い画面に白い文字が映し出されたディスプレイの前で座っていた池谷さんが割って入り「ちょっと静かにしてくださいよ、こっちも忙しいんだから。」と言うが、そんな話は無視をして東山との怒鳴り合いを続けた。


「そもそもこんなことが起こった後のあいつらにそんな普通の生活なんかくるわけないだろ、それよりも、どこに捕まってるかも分からないあいつらを外の世界に引っ張り出すために載せるべきだ。」


「緒方さん本当にバカですよ、こんなデリケートな問題をそんなふうに思ってたんですか?こんなの頭のおかしい人たちに優生学を肯定させる事にも繋がります、そしたら第二のナチスがこの国にも出てくるかも知れないんですよ。」


「何でお前はそんなに話しが飛躍するんだよ。感情で物を言うな。」


「緒方さんこそ感情で動いてるじゃないですか。」


「はー?いつ俺が感情で動いた。」


「今ですよ今!昔の事があったからって子供たちのことは全く考えないで、政府を叩ければいいんじゃないですか。」


「おい!お前言っていいことと悪い事があるぞ。」と言った途端、出入り口の方から原口さんの落ち着いた声がしたので振り向くといつもと違ってグレーのジャケットを着ていた。


「おい、途中から話は聞いたがな、緒方お前暑くなりすぎとらんか?」


「いつもと同じですよ。!」


「本当か?ならあんまり大きな声出すなよ、な。」


「……………」


「なあ緒方、お前は何の為に新聞記者やってる?」と言われ握り締めていた両手の親指を居心地悪気にそわそわ動かす。


「……世の中のためですよ。」


「だろ、考え直してみろ今のお前がやろうとしてるのは本当にその為の事なのか?俺はよ、四十年以上警察しかやって来なかったからよ、新聞記者のことはわかんねえけど、今のお前が本当に何の遺恨もなくこの件に向き合ってるとは思えねえんだよ。な。」と言われ、私は全てを見抜かれているような恥ずかしさや今行っている事の矛盾を突かれた様な気がして無性に自分に腹が立ち、気づいた時には近くに置いてあった金属メッシュのゴミ箱をコンクリートの壁に向かって蹴っ飛ばしそのまま、走る様な早足で部屋をだていくと扉を開けた瞬間目の前にキャップがいてそのままぶつかり相手の方はの体がよろめき、持っていたレジ袋に入っていた飲み物の缶をぶち撒けたがそのまま階段の方へ歩いていくと。


「なんか言う事ねえのかよ。」と後ろから聞こえたが振り返らずに階段を上った。



***



 緒方さんが部屋をさった後、池谷さんが。


「あーあ、ゴミ箱ぐにゃぐにゃにして。」と言いながら凹んだゴミ籠を腕力で直すが一度ついた凹みは後となってそのまま残った。


 原口さんに向かって「さっきはありがとうございます。」と言うと何でもないかの様に

「まあ気にすんな、俺はお前が言ってる事の方が正しいと思ったから、思ったことを言ったまでだ。それに前にも言っただろ、お前はやっぱり記者に向いてるって。」と言うと開きっぱなしのドアから缶コーヒーが入ったビニール袋を持ったキャップが入って来た。


「おい、なんかあったのか?緒方のやつ俺にぶつかったのにすごい剣幕だ上に行ったけど。」とみんなに言うと原口さんが。


「大きい子供が駄々こねてんだよ。」


「何だ東村と喧嘩して負けたんですか。あいつも餓鬼ですよね、五年前の事まだ悔しがってるんでだから。」とビニール袋を置きながら言い、中にある何種類かの缶コーヒーをみんなに配った。

「なあ、雲村、そもそも何で緒方はあんなにムキになるんだ?子供たちのためってわけでもなさそうだが。」


「あいつ案外完璧主義だから、悔しいんじゃねえの。結局前の時に解放した子供達がまた国にもってかれちまったんだから。」


「あいつの気持ちも分からんでもないがな。まあ、外で頭を冷やしたら戻ってくるだろ。」と言うと原口さんはUCCコーヒーの缶をプシュっと開いた。


 緒方さんが部屋を出て行って30分経っても全く戻ってこなかったので机に残っていた青い缶のエメラルドマウンテンブレンドを持って喫煙所がある屋上を訪ねると、手摺りに両肘を掛け晴れ渡る空の元遠くにある高層ビル群を眺めながらタバコを吸う緒方さんの姿があった。


 近付くと足音が聞こえたのか、こちらの方をチラリと見た後再び遠くの方に目線を戻した。彼の右側に行き持って来たエメラルドマウンテンブレンドを手摺りに置き私も同じ様に両肘を掛けて街並みを眺めた。


「何だよ。」と緒方さんがボソリと呟く。


「キャップからの差し入れです。」と右手に持っていたタバコを左手に持ち替え右手で器用に缶をプシュっと開けチビチビと飲みながら数十秒の時が流れた後再び緒方さんがボソリと口を開いた。


「さっきは悪かった。」


「えっ?」


「言い過ぎた。」


「それ本心で言ってます?」


「茶化すな、バカ。」と言われ私は両肘を伸ばし手摺の底辺のパイプに両足を乗せ体を伸ばしながらカラッとした表情で。


「別にいいですよ緒方さんの言いたい事も、賛成する訳じゃないけど分からない事もないですからでも美香ちゃんたちの実名報道は絶対に反対ですよ。」


「ああ、ただ俺も超能力に関してはもうちょっとした様子を見たい。言いたいことはわかるだろ。」


「でも、もし政府がそれを認める事があったらスクープじゃなくなっちゃいますよ。」


「ああ、どっちにしろ、先に言った方が負けだ、悔しいけど今回はあっちが上手だったってことだ。」


「緒方さんは本当にそれで納得してるんですか?」


「納得するもしないも会社にとってもみんなにとっても最善だと思う。それにまだ俺は記者を続けたいしな。」


「妥協ですか?」


「処世術だよ。ってかお前怒らせようとしてるだろ。」


「違いますよ。ただ不器用だなって思って。」


「お前が言うか。」と話していると緒方さんのスマホの着信音が鳴った。


「誰からですか?」と聞くと。


「池谷さん。」と答えた。


***



「もしもし?」


「緒方さん、もう仲直りしました。」


「小学生じゃねないんだから変な電話しんといて下さいよ。」


「はいはい。でもゴミ箱ちゃんと弁償してもらいますよ。」


「ゴミ箱でも屑籠でも何でも買って来ますよ。いくらですか?」


「1万5千円です。」


「へっ?そんな高いんですか?」


「デザイナーズですよ。」


「領収書書いて下さい、宛名は雲村で。」


「今の会話スピーカーなんで丸聞こえですよ。」


「まじっすか。」と聞くとスマホから耳にキャップの声が聞こえて来た。


「緒方、ゴミ箱は経費は落とさせんぞ。それより早く戻ってこい。」


「どうしたんですか?」


「お前の携帯の解析が終わったんだ。今池谷が、かけた人間を探してる。」


「わかりました直ぐ行きます。」と言って通話を切り東山と一緒に地下の事務所へ向かう途中に急に東山が私のスーツのジャケットをクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。


「緒方さん、このスーツ洗ってます?」


「え?最近いつ洗ったかな、でも毎日ファブリーズしてるけど、もしかして臭い?」


「はい。ってか、私今気付いたんですけど緒方さんのスーツってそのスーツしか見たことないんですけど。」と言われ思い浮かべるとこれともう1着しか持ってない事を思い出す。


 事務所に着くと池谷さんがパソコンディスプレイの前でキーボードをとてつもないスピードでカタカタ打ち込んでいて、その周りにキャップと原口さんがディスプレイをのぞいていた。キャップに「今どんな感じですか?」と尋ねると池谷さんを指差し。


「こいつが何やってるのか全くわからん。」と全く何も考えてなさそうな顔をして言うと池谷さんがディスプレイから目線をはずさず指をカタカタさせながら。


「さっき、スパイ携帯に入っていっていた携帯番号を解読したんで、その番号の使用履歴のログを漁ってるところです。」と言った池谷さんが見ている黒いディスプレイには白い文字列が無数に上へと流れて行きその文字列で理解できるのは日にちと時間を表すであろう数字だけでそれ以外はほとんど理解できないアルファベットの羅列だった。


「あった、あった。」と突然池谷さんが口を開いた。


「何かあるのか?」と原口さんが聞く。


「今相手のスマホの中に入って通話しているときのGPSの情報を探してたんですけどっと。」と言いながら強くエンターキーを叩くとディスプレイの右上にある別のディスプレイにどこかの駅構内に大勢の人が動いている場面を天井近くから捉えている監視カメラの映像がうつされた。


 映像は昔のブラウン管のように解像度が低い為、小さく写る人の顔は大まかにしか判別できなかったがそれでも雰囲気でどんな人かは何とかわかるような気がした。


「これどこですか?」と聞くと。


「9月16日の午前11頃の御茶ノ水の映像をハッキングしました。携帯番号が使われたときの時間帯です。この中で電話している人を探して下さい。」と言って周りのディスプレイにも別のアングルの映像がいくつも映し出された。すべての映像が同時進行でスローで進む中ディスプレイ群の右下を見ていた東山が。


「ストップしてスローで戻って下さい。」と言うと池谷さんがマウスを動かしキーボードを少しカタカタとした後、巻き戻されて行きこの場にいる全員がそのディスプレイに集中した。


 そこには出入り口からカメラがある方向に歩きながら電話をしているスーツの男が写っていて、東山がストップと言うと顔がぼやけているが先日見たディープスロートと同じ雰囲気の男だった。



「なんかよく見えないな。」とキャップが言ったのを聞いてか「ちょっと待って下さいよ。」と前に動画の画像処理を頼んだ時と同じようにフィルターを掛けたり色々な操作をしていくうちに顔が識別できるぐらいまでに見えやすくなったその人物は紛れもなくディープスロートその人だった。


「こいつ。こいつですよ。」


「わかりましたちょっと待って下さいね。」と池谷さんは言うと再びキーボードを叩きディープスロートの顔の部分だけトリミングしそれを元に3Dデータに変換した後、見たこともないブラウザのようなものを使い背景にNational Security Agencyと大きく書かれたサイトの中央にある検索欄に3Dデータにコピーアンドペーストをした。


「NSAか。本当にこんなもん使って大丈夫なのか?」とキャップが聞くと。


「大丈夫ですよ、見つかるようなヘマはしませんから。雲村さんからの頼まれごとにもつかってるんで今更です。」

 

 検索は普通のウェブの検索と違って時間がかかルようでディスプレイの中央に彗星のような白いものが小さく円を描いていた。


 池谷さん以外はそんなことを知らないのでその後数十秒間ディスプレイを見つめ続けていたら池谷さんが「これ結構かかるから楽にしてていいですよ。」と言うと一斉に池谷さんを見て。


「「早く言えよ。」「先に行って下さいよ。」「早く言って下さいよ。」「早く言え馬鹿。」」と皆が一斉に言った。それから数秒経った時、急に外画面に文字とディープスロートの顔写真が映し出され、その内容はアメリカの資料のためかすべて英語で書かれていたが、写真の下に(Amamoto Takesi)と書いてありその後ろに漢字で天本武と書いてあった。


「何だよ全部英語じゃねーか。誰かわからねえのかよ。」と原口さんが言うと、横にいたキャップが。


「多分研究者みたいだな。」と言いそれを聞いた原口さんが「雲村わかるのか?」と聞く。


「受験の時に使って以来なんであてにしされると困るんですけど。」と二人で話していると東山が。


「何ですかねヒューマンリソースデベロップメントインスティチュートって。」と言うので。


「直訳で人間資源開発研究所か。」と言いながら頭の中で漢字に置き換えるのと同時に池谷さんが。


「それって人能研の事じゃないですか。」


「「「「ああっ!」」」」とみんなが同時に言った。


「てか、僕英語わかるんで見るからちょっと待ってて下さい。」と言って数分間読んだ後、「なんかこの人、人能研でプロジェクトリーダーとして人間の精神構造の研究してたみたいですけど、五年前の春に辞めてるみたいですね。」


「じゃあ研究者が仕事を辞めて内部告発したって事ですかね。」と東山が言うと。


「研究所を辞めさせられての仕返しってことも考えられる。池谷こいつが何で辞めたか書いてあるか?」


「ちょっと待って下さい、詳しくは書いてないんですけどマインドコントロールの研究をするプロジェクトを別の分野のチームと一緒にやってたみたいなんですけどそのプロジェクトが始まったのがやめる半年前みたいです。」


「マインドコントロールって。」と東山が私に向かって言った。


「ああ、この人前から精神支配とか洗脳とか人格支配とかオカルトチックな研究の論文を書いてたみたいです。」


「前から専門分野だったってわけか。」と原口さんが言うと。


「あとなんか最後の方に書いてあるんですけど。どうも被験者にプロジェクトとは別に独断で自分の研究の実証実験をしてたのが見つかって辞職勧告を受けてたみたいです。」


「うわーこりゃ復讐で決まりだな。」とキャップが言った。


 後も皆が答え合わせのように話をすると同時に私の頭の中でも全ての抜けている所ににこの天本というピースがぴったりとはまって行くにつれ私は一つの自分はいいように使われたと言う答えに近づいて行き。


 その現実が自分の中で確定的になった時、今回の事件が五年前からの計画の中で本当はあのスクープで誰一人助けることができていなかった事に怒りを通り越して脱力が襲って来て私の周りが闇で覆われたような感覚に陥っていたその最中「たさん。がたさん。おがたさん。」と遠くから近づいてくるように女の声がしてそれが次第に東山の声だと分かってくる。


 気が付くと「緒方さん。大丈夫ですか?」と私に声をかけながら肩を揺する東山の姿が目の前にあった。


「本当に大丈夫ですか?緒方さん。」


「うん。大丈夫」と力の入らない口で返す。


「どうかしたんですか?」



「なんでもない。ちょっとタバコ吸ってくる。」と言ってジャケットのポケットからホープとライターを取り出しみんなに見せてからよろよろと歩き部屋を出て力の加減に違和感を感じながら一歩一歩階段を上がりさっきまでいた屋上に再び戻った。



***


 緒方が事務所でポケットからタバコを取り出す時こぼれ落ちるように一枚の名刺が図面に落ちた。


 緒方はその名刺を落としたことに気付かずに部屋を出たので俺が拾ったのを見ていた東山が。


「原口さんそれなんですか?」


「今緒方が落としたんだよ。ただの名刺だ。慰めがてら届けに行ってくるわ。」と言って小形の後を追った。


 屋上へつながるドアを開けると錆びているのかヒンジからギギギーっと音がして外に出ると壁を背にして体育座りの緒方がぽけーっとタバコを一本吹かしていた。


「おめえは怒ったり落ち込んだり忙しいな。」と言うと角という角が全て削り落とされたかのように気の抜けた声で。


「いやーもうびっくりですよ、なんか全部天本ってやつの手の上で踊らされてたなんてねー。しかも5年間も。」


「まあよー、人生そんなこともあるさ。あんまり落ち込むな。」


「別に落ち込んでませんよ。ただびっくりしてるだけです。」


「まあよ、五年前のことだってなんかしら意味があったんだろうし。今回だって本当の真実ってのが分かったんだからいいじゃねえか。」


「まあそうですけど。」と納得してないように返して来た。


「でもよう、なんで天本が前の事件から五年も経って今回の東京駅みたいな事件起こしたんだ?」


「それは子供たちの能力が発現するのを待ってたからでしょ。」


「でもよ、復讐なら、内部告発だけでも十分じゃねえか?人能研は無事解体されたんだしよ。」と言う緒方の目に少し盛期が戻った気がした。


「確かにそうですね。」


「原口さん天本って今って何やってるんですかね?」


「え?さっき池谷が最近まで行方不明だったって言ってたがここ最近日本にいるのを確認されたって言ってただろ聞いてなかったのか?」


「あ、そうでしたっけちょっと聞いてなかったです。でも5年経ってまた日本に現れたって事は今回の事故を起こさなくちゃならない理由があったって事ですよね。」


「確かにな。でもその理由ってなんだ。」


「なんで犯行声明も要求もないテロを起こしたか。事件そのものが目的?」


「事件そのものって。でかい駅を4つも壊すのがか?」


「はい、もしくは駅を壊すんじゃなくて大きい事件を起こす事とか。劇場型みたいな。」


「だけどよ、劇場型は観客は民衆で犯人が主役だろ、今回は犯人の天本は全く出てこねえじゃねえか。」というと緒方は何かを閃いたような顔をした。


「ああ、そうかやっぱり劇場型ですよ、ただ観客が違うんだ。会員制ですよ。天本を知ってるやつに向けたメッセージです。」


「天本を知ってる奴にはどんなメッセージが届くんだよ。」


「いいですか、今回の事件で野上にかけたマインドコントロールは天本が前からずっと研究していたものです。」


「ああ。」


「で天本が研究所を追われた原因も天本独自の方法のマインドコントロールですよね。」


「もったいぶらねえで早く言えよ。」


「はいはい、つまり天本は自分の研究成果を証明したかったんですよ。」


「って事はお前が言ってる観客ってのに成果を見てもらいたかったってことか?なんのために?」


「研究費のためですよ、つまりパトロン探しです。だから五年前も今回も俺の所に話を持ちかけて来たんですよ。政府は絶対に隠す真実を新聞に載せたかったから。」と力強く話し終えると立ち上がり「みんなに伝えないと。」と言って扉をギギギーっと力強く開けて中に入っていった。ポケットの中ある渡すはずだった名刺をてで弄んだ。



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