第10話 9月17日

9月17日



「ここですか?」とぼろぼろのパチンコ屋だった建物を前にして東山が言った。


「こっちだ。」と東山と裏へ回ってインターフォンを押すと、ガチャっと鍵が開く音がしたので中に入った。


「案外こっちは綺麗なんですね。」とかつて事務所だった場所を見回しながら東山が言う。


「多分カモフラージュしてるだけだろ。」と言いながら暗い階段まで来た。


「緒方さん本当にここ降りるんですか?」


「大丈夫だよ。降りたらもう直ぐだから。」と言いながらスマホのライトをつけると肩に東山が手を乗っけて来た。


『なんだよ。」


「いや、私マジで暗いとこ苦手なんで。」


「大丈夫だって、直ぐ電気つくから。」


「まあまあ、女の子が頼ってんだから。」といわれ、たしかに嫌な気はしないなと思うが女の子って歳でも無いよなと考えながら階段を一歩ずつ降りていく。踊り場までゆっくり降りた時前回と同じように明かりがぱっと点きそれと共に肩爪が食い込む感覚を感じた。


「痛て。」


「あっ、ごめんなさい。いきなり点くからびっくりしちゃって。」

 

 階段を降りて扉に向かっていると、扉の鍵穴からガチャっと音がして扉が開いたと思ったら中から池谷さんが出て来た。


「緒方さん久しぶりですねー」


「どうも。」


「あなたが東山さんですね?」


「はじめまして。」


「雲村さんから聞いてますよ。」


「ああ、そう言えば朝、原口さんがよろしくって言ってました。」


「ああ、東山さん原口さんとこに居るんですよね。僕も久しぶりに原口さんに会いに行こうかな。」


「池谷さん昔の話聞きましたよ、案外昔は血気盛んだったんですね。」と言うと。


「いやいや、緒方さんにそう言われると恥ずかしいですね。」と少し照れながら部屋の中に案内された。


 池谷さんがチャチな丸椅子を何処かから2つ持ってきて幾つもあるモニターの前に置き自分はキーボードの前のゲーミングチェアに座った。


「どうぞ、座ってください。で、今回はどんな依頼ですか?」


「五年前の事件で実験台にされた。47人の子供達の居場所を見つけたいんですけど、そんなことできます?」


「うーん、僕はハッキングとかクラッキングは出来るけど、どこに入ればいいかな。」


「子供達は事件の後に里親に出されたハズなんで、そのリストがあればいいんですけど。」と言う先からキーボードを叩いてブラウザで何かを調べはじめた。


「公益財団法人里親会が里親制度の運営をしてるんですね。」


「そこからリストを手に入れることって出来ないですか?」


「手に入れるのはできると思いますけど、絞り込みは難しいですよ。なんせ里親制度に登録されている子供だけで5000人以上いますからね。その中から47人見つけるって結構大変ですよ。」


「それだっら、原口さんにも手伝って貰えばいいんじゃない。」と東山が言った。



「分かりましたじゃあ、明日また来てくださいそれまでに、なんとか用意しておきますよ。」と池谷さんが言った瞬間ピロピロぴろと、着信音がした。自分のスマホの音じゃなかったため、2人の方を見ると2人ともこちらを見つめているので、「ああっ。」と言いながらいつもと違う携帯電話を持ってることを思い出し、背負っていた黒いビジネスバックパックから携帯電話を取り出し電話に出た。


「もしもし。」


「午前2時にあの駐車場で。」


「駐車場?」


「プープー」と通話が切れた音がした。


「緒方さん誰からですか?」東山が言う


「いやちょっとな。」と言っているのいを横から見ていた池谷さんが。


「緒方さんその携帯、どこで手に入れたんですか?」と池谷さんが聞いてきた。


「貰い物ですけど、この携帯がどうしたんですか?」


「珍しいもの持ってますね、そのケータイってスマホが出る前にアメリカの情報機関が使ってたケータイでですよ。」


「これが?」


「はい、当時業界で結構人気の商品だったから各国の情報機関がコピー品とかライオセンス生産品が作られて、今でもダークウェブで時々非合法に取引されてるんですよ。」


「へー、珍しいんですか?」


「闇業界御用達です。」


「どんな機能があるんですか?」と東山が私の携帯電話を取り上げてまじまじと見ながら言った。


「写真撮影で音が出ないとか、バレないように録音するとか色々ありますけど、1番の特徴は逆探知されない事とエシュロンに会話を傍受されないってとこですかね。」


「エシュロン?」と東山が分からなそうに言うので私しがこたえることにした。



「なんだ東山、知らねえのか。」


「はい。」


「ブッシュが大統領の頃9.11が原因でアメリカは対テロ戦争を始めただろ。」


「はい。」


「その時にアメリカ政府は合法的に国民を監視するために、愛国者法ってのを作ってエシュロンで世界の通話を全て盗聴できるようにしたんだよ。」


「でも愛国者法ができる前からNSAによってエシュロンは使われてましたけどね。」と池谷さんが補足を付け足した。


「愛国者法は知ってましたけどそんなことやってたんですか?」


「まあ、アメリカ政府はエシュロンの存在を未だに否定してるけどな。」


「大体アメリカ政府は最近までNSAの存在も否定してましたからね。」再び池谷さんに捕捉される。


「でもそんな携帯電話、誰からもらったんですか?」


「・・・・、あんまり人に言うなよ。・・・ディープスロートだ。」


「五年前の?」と東山が呟く


「ああ。」


「ディープスロートってスパイかなんかだったんですか?」


「わからない。」


「分からないって、よくそんな人間の情報で記事にできましたね。」

「奴からくる情報はどれも正確だったからな。どの記事もダブルチェックで裏付けをした。」というと池谷さんが「緒方さん、今回の調査のお代なんですけど、事件んがひと段落したらその携帯貸してくれませんか?」


「これをですか?」


「はい。」


「これって幾らぐらいなんですか?」と東山が言う。


「大体相場が40万ぐらいですかね。」


「「40万?」」


「出来れば構造を調べたくて。」


「じゃあ、結構サービスしてくださいよ。」


「そりゃもう。奮発しますよ。」


「よっしゃー。」


「それじゃあ、もう一つ依頼してもいいですか?」


「いいですよ?」


「この携帯のアドレス帳の番号と、掛けてくる人が誰か調べてくれませんか?」と言いながら携帯電話を差し出す。


「直ぐにわかるか分かりませんけどちょっと見てみますね」と携帯電話を受け取り隅々まで見た後そのまま持って、「ミニってあったかな?」と独り言を言い部屋を出ていっていった。


 暫くして「ありました、ありました。」と言って一本のミニUSBケーブルを持ってきて、パソコンの前に座り近くにあったUSBハブと繋ぎ、幾つもあるモニターの一つを操作しはじめた。


モニターにはさっきまで普通のウィンドウズの画面が写っていたがいつのまにか、黒い画面に白いアルファベットが写っていてぱっと中央に実行状況のバーが現れバーの中を左から少しずつ白が埋めていった。


「緒方さん、ちょっと時間かかりそうですけど時間有りますか。」


「あ、じゃあ、あとで取りにきますよ。」


「じゃあ、それまでに色々やっときますよ。」と言って東山と池谷さんの部屋を後にした。



 *   *   *



 昼前、社会部にある田中のオフィスのデスクで田中が他社の新聞を読んでいた。


 入り口にもたれかかり暫く見ていると、新聞をめくる時に田中が私に気付いた。


「おい、仕事しろ。」


「バカ、敵情視察も仕事のうちだ。」


 タバコを一本口に咥えると、「こっちに入ってから吸えよ。若いのがうるさいから。」と言われたので箱に戻しながら「お前上司だろ。」


「悲しいかな中間管理職。でどうした?」


「昼でも行かんか?」


「もうそんな時間か。」と田中が時計を見ると。「まだ11時半だぞ。お前も仕事しろ。怠慢社員。」


「バカ、早めに飯が食えるから、班長やってんだよ。」


「はっはっは、でどこ行く?」と言いながら田中は椅子から降りた。


「蕎麦がいいな。」


「お前、年取ったな。」と言いながら一緒にオフィスを後にした。

 

田中と2人で食べに来たのは会社の近くの昔からある「清そば」という蕎麦屋だった。座敷に通されて田中はざるカツ丼セット俺はざるそばを頼んだ。


「それにしてもお前よく食うなー。」


「俺はお前と違って仕事してるからな。それにしてもお前と食うの久しぶりだな。」


「お陰さまで、忙しいからな。そういえば東山は見つかったか?」


「いや、まだ警察からは何も言ってこない。ほんとにどこ行ったんだろな。」


「なんか、いなくなる前になんか無かったのか、書いた記事が変だったとか。」


「へっ?、いやあ、火事の記事はそんなに変じゃなかったしその前の記事も変なとこはなかったなあ。」といって田中は水を一口飲んだ。


「そういえば、あの火事の事件社主はどこまで知ってんだろうな。」


「えっ、そんなのわかるわけないだろ。」


「お前、呼ばれた時なんか言ってなかったか?」


「呼ばれたときは、全く事件の事を直接触れてなかったな。それよりお前の所はどうなんだ?取材してんだろ。」


「ああ、やってはいたんだけどな、垂れ込みを調査したら特に変な所はなくってな、後調査してた奴が季節外れのインフルエンザに罹りやがって進展なしだ。」と田中にあえて嘘をついた。


「そんな事件早く切りつけて、別の山を追ったほうがいいぞ。ただでさえ予算が毎年減ってんだから。」


「そうだな。」


「お待たせしました。」と三角巾をつけた太ったおばちゃんの店員が大きいお盆に品物を持ってきた。


「さ、食おうぜ。」と田中は言った。


 食べてる間私たちは不自然なほど沈黙が続いた。


レジで、自分の分を払おうとすると。田中が「おお、ちょっと待てよ、ここは俺が払うよ。」


「え、いいのかよ。」


「いいんだよ。俺の方が出世してるからな。」


「悪いな。」と言って暖簾のかかった出入り口から先に蒸し暑い外へ出た。


「バカに暑いな。」と後ろから上着を脇に挟んだ田中が出てきた。


「ごちそうさん。」


「いや、いんだよ。それよりお前これからどうする?一服するか。」


「いや、すまんこれからちょっと用事でな、季節外れのいんふるえんざになったやつのかわりに仕事に行ってくる。」


「そうか。御苦労さんだな」


「苦労でもないさ、やりたくてやってる仕事だからな。」


「そうだな。お互い様だ。」


「それじゃあな。」と言って、俺は会社と別の方向に歩いき出し、5メートルほどいった時後ろから田中の大きな声がした声がした。


「雲村、お前早く結婚しろよ。」


「いきなりなんだよ。」と少し大きな声で返す。


「結婚するとな、見え方が変わるぞ。」


「なんだよ今更。」


「それだけだ。」と言われた後田中から視線をそらして振り返り右手を少し降りながら。


「ハイハイ。」と答えた。


 最初の曲がり角を曲がるとポケットの携帯を取り出し緒方に電話を掛け、直ぐに緒方が出た。


「はいもしもし。」


「緒方、リストは手に入ったか?」



*   *   *




 雲村と蕎麦を食べ別れた後一人で近くの喫茶店に入りタバコを吸って待っていると、若いウェイトレスがアメリカンを運んできた。


 タバコをアルミの灰皿で消しコーヒーをすすりながら1週間前のことを思い出した。

 

 その日は目立った事件もなく、夕方に八王子で火事が起こったと連絡が来たため東山を送り込み記事が出来るのを待っていた夜8時前にオフィスの電話がなって表示を見てみると見ると内線だった。


「田中君か?」受話器から聴こえてきた声は、何処か気の抜けた印象の老人の声で何聞き覚えのあった。


「はい。」


「今から社主室まで来れんかな?」と言われた声が頭の中で思い描いた顔と一致した。


「はい、直ぐに向かいます。」


「うむ、ちょっときてくれ。」と言われ電話が切れるのを確認してから受話器を置き社主室に向かった。

 

 社主室の扉の前でノックをすると。「どうぞ。」と社主の声がしたので入ると部屋の中央にある大きなソファーの前に白髪で黒いスーツを着た社主が立っていた。


社主は白いシャツに赤いネクタイを閉め顔には大きな鼻に太い黒縁の眼鏡を掛けていた。


「急に呼んですまんね。こっちに座ってくれ。」


「はい。」と言い社主の向かいにあるソファーの中央に座ると社主は右端に座り腕掛け足を組みう腕掛けに体をもたれ掛けた。


「どうだね、明日の記事は?」


「はい、社会部の皆はよくやってくれてます。」


「それは結構。」と言い社主は足を組み換え、少しの沈黙が流れた。


「あの、どういった用件でしょう?」と意を決して聞くと、社主は眼鏡をくいっと掛け直しさっきより少し低い声で。


「ああ、あのなあ、君は今日八王子で火事があったのを知ってるか。」


「はい、今部下に記事を書かせてるので明日の朝刊に載せるつもりです。」


「ああ、うん、そうか…その記事なあ、朝刊に載せないで欲しいんだ。」


「夕刊にするんですか?」


「いや、そうじゃない。」と呟くように言った。


「どういうことですか。」


「君も馬鹿じゃないんだからわかるだろ。これ以上私から言わせるな。」


「・・・・あの事件に何が有るんですか。」


「・・・・・」


「何処からの圧力ですか?」


「・・・・・」


「社会部部長のわたしにも言えないんですか。」


「ああ、聞かない方が君のためだ。君の家族もな。」


「脅迫ですか。」と語気を強めていった。


「わたしが言ってるんじゃない。私だって、君にこんな事は言いたくない。だがな、新聞社の経営は関係と忖度が絡む。」


「そんな事やってたら、健全な報道なんてできませんよ。」


「報道は持ちつ持たれつだよ。君が怒るのもわかるがね、そこをわかって欲しい。」


「・・・・」何も言い返すことができず、立ち上がって部屋を出ようとすると。


「田中君わかってるな。」


「・・・はい。」と捻り出すのがやっとだった。


 オフィスへ帰ってくる間に自分なりに怒りを抑えてオフィスに東山を呼んだ。


「どうだ出来たか。」


「はい、今出来上がりました。」と東山は元気良く言って印刷した記事をデスクに置いたので一通り目を通す。細かな事まで簡潔に書いてありいい記事だった。


「どうだった、現場は。」


「あの火事どっかおかしいです。」と言って横した写真は異様に一軒だけ燃えた写真だった。


「よく出来てるな、御苦労さん。今日はもう上がっていいぞ。」


「本当ですか。」


「ああ、ゆっくり休め。」


「あの、部長大丈夫ですか?」


「何が?」


「なんか怒ってるみたいだから。」


「いや、怒ってないよ。いいから早く帰れ。」


「分かりました。」と言って機嫌良く帰っていった。


 東山が帰るのをみるとパソコンを取り出し、東山の記事を要約し一本の短い記事を書くと構成

担当に渡し朝刊に載せるように指示をした。



 

 物思いに耽りいつのまにかコーヒーは冷めていたので飲む気が失せ、再びタバコに火をつけた。


 東山には悪いと思うが今でも思うのはあの小さな記事が圧力に俺が抵抗できる唯一の方法だった。 


 あの記事を出された後、社主に再び呼び出されたが、あまり咎められる事はなかったのは社主もこの現状に満足していない証拠だろう。


 社主の気持ちもわからないでもないところが今の俺の悲しい現状だった。


 さっき雲村との別れ際に言った言葉にはそんな感情が悔し紛れにこもっていたと思うと言い訳みたいで気恥ずかしくな離、雲村は察したのだろうか考えてしまった。




*    *    *




 東山と図書館で新聞のバックナンバーをみて3件以外にも似たような事件がないか調べていたが、なんの収穫がないまま、閉館時間になってしまったため、東山と別れ携帯を受け取りに池谷さんのところへ行くと、パソコンの前で忙しそうにキーボードを叩きながら顔の向きも変えずに答えた。


「すいません、まだこの電話の解析終わってないんですよ。」


「やっぱり大変ですか?」


「そうですね、元々が国家の情報機関が使ってた物ですからね。結構かかりそうです。」


「そうですかー、困ったなー、携帯今日持って帰っても良いですか。」


「ああ、それは大丈夫ですよ。」


「えっ、良いんですか?」


「はい、データはコピーしてあるんで、後は解読するだけです。」


「あ、そうなんですか、じゃあ。」と言ってもテーブルに置いてある携帯電話を取り上げた。


「ああ、緒方さん。」


「はい?」


「ちょっと聞きたいことがあるんですけどい。」


「はい。」

「その携帯のデータ解析にちょっと時間がかかりそうなんですけど、解析より先にリストの方先にやって良いですか。」


「ああ、大丈夫ですよ、どっちかというとリストの方優先で。」


「分かりました。いや、この解析ちょっと時間がかかりそうなんですよ。」


「どのくらいかかりそうですかねえ?」


「もしかしたら一週間ぐらいかかっちゃうかもしれないです。」


「そんなにですか?」と話した後、そこを後にした。


*   *   *






 深夜1時59分、ある広い地下駐車場、5年ぶりに来たここは前も埃っぽく薄暗かったが、その時から時間が止まったかのように何も変わっていなかった。


 ディープスロートと名乗る相手との待ち合わせ時間までに少し時間あったので事前にコンビニでコーヒーを買って飲みながら待っていた。


 前の時もそうだったが、ディープスローとが時間より早く来たことも遅れたこともなかったので待つ事はわかっていた。


「早かったじゃないか。」と後ろの方からディープスロートの声がしたので。


「まあな。」と言いながら振り返ると、ディープスローの顔がちょうど車の影に入っていてよく見えなかった。


「お前たちはどこまでわかってるんだ?」


「それはこっちのセリフだ。」


「5年前の事件とこの事件は繋がりがあるのか?」と言うと少し時間を開けてから彼は再び口を開いた。


「ああ。」


「じゃあ、超能力は本当に有るのか?」


「事件を見ればわかるだろ。」


「はぐらかすな、はっきりいってくれ。」少し語気を強めて聞くと言いにくそうに「ああ。」と答えた。


「消えた子供たちは何処へ連れて行かれた?病院にいたスーツの男は?奴らは誰だ。」問い詰めると彼は落ち着いて「まあ、落ち着けよ。」と冷静に言った。


「奴らが何処のどいつかは俺にも分からんが、この国にも超法規的措置を行える実行部隊がいくつか有る。あまり目立つとお前も目をつけられるぞ。」と言われ昨日の家の事を思い出した。


「ああ、で子供は?」


「そっちなら幾らか思い当たるところがある。君は医療法人石井会を知ってるか?」


「いや。」


「そうか、なら人能研は覚えているな?」


「ああ。」


「君が5年前にしたスクープのお陰で人能研は解体されて研究資料や資材は類似の国家機関や研究機関に移管された事は知ってるな。」


「ああその事は5年前に調査して記事にしたが詳細は、政府が国防に著しく害する情報が含まれてるとかで情報開示された書類は全部黒く塗りつぶされてて分からなかった。」


「そうか、石井会は以前からプリオン病の研究を積極的に行っていた民間の医療法人だ。人能研との共同研究をしていた事実もある。」


「人能研の研究を石井会が受け継いだ?」


「確証はない、だが石井会は3年前に新しい研究所を長野の山奥に作った。人能研の研究所に似ていると思わんか。」


「山奥の研究所。じゃあそこに子供たちが収容されてるって言うのか?」


「どうだろうな、俺はもう簡単に情報に接触できる立場にない。」


「最後に聞いて良いか?」


「あんたは誰なんだ?」


「ディープスロートだ。」


「ウォーターゲートを暴いた記者も正体を知っていたから記事になった。」


「だが、お前は前に記事にしてるじゃないか。灰色な事をやっているのはお互い様だ。」と言われた時だった。


 後ろから車が動き出すエンジン音がしてからコンクリートでタイヤが鳴く音が辺りに響き渡った。


 音の方向を向くと、黒いバンがすごいスピードで近づいて来たので考えるまもなく奥にある柱の裏に隠れる。


 バンはキキキキーっと音を立てながら止まり勢い良くスライドドアが開くとカツカツカツカツと幾つもの足音がディープスロートのいた方向へ走って行った。


 柱の裏でうずくまり足音が聞こえなくなった頃恐る恐る柱越しにバンの方向を見るとディープスロートは見当たらず、バンの中から背の低い女性がスタバのカップを持ちながらちょこんと降りて来た。


 この場所には不釣り合いな女性に目を奪われよく見ると一見、丸の内に居そうなOL風でベージュのワンピースに淡いピンクのカーディガンを羽織ってい小さな肩掛けのバックをかけていた。異様な光景に見とれていると、彼女は少し距離がある私の方に向かって。


「あのー。」と可愛く大きな声を出してるように片手を口に添える仕草をして話しかけてきた。


「・・・・」問いかけを無視してみる。


「あのー。緒方さんですよね。」と再び可愛く話しかけられたが自分の名前が出て我に帰って。


「はい。」と返した後柱に持たれながらゆっくり立ち上がり恐る恐る柱の影から出た。


「あ、いたいた。怪我とか有りませんでした?」と聞かれながら捕まったときスパイ携帯を奪われないかと思い近くに止めてあった車の下に素早く滑りいれた。


「大丈夫です。」と訝しむように答える。


「よかったー。ちょっとこっちに来てもらえませんか?」と言われてほんわかした話し方で安心した私は近づき彼女をみると顔が小さく体も細く女優のように可愛かった。


「あ、はい。」


「ほんとにすいませんでしたー。びっくりさせちゃって。」


「いえ。」


「あ、すいません挨拶がまだでした、私政府の職員の者です。」


「なんで僕の名前を?」


「それは話せないんですけど私たち、実は今逃げてった男性を追ってるんですけよー。」


「彼は誰なんですか?」


「すいません。それは言えません。」


「じゃあ、僕になんかようですか?」


「お願いがあるんですけど、彼が接触を取ってきたら連絡をもらいたいんですよ。」


「私がやると思うんですか。」


「出来れば国の安全の為に国民として協力して貰いたいんですけど。」


「貴方とどう接触すれば良いんですか?」と言うと彼女は「あ、すいませんコレを。」と小さなバックから渡してきた名刺には070から始まる11桁の番号だけが書いてあったそれ以外何も書いてなかった。


「どこに繋がるんですか?」

「私につながります。あ、後私達に会った事は記事に書かないでくださいね。貴方の同僚の方を殺さなくちゃいけなくなっちゃいますから。」と言った後どこからともなく黒いスーツとサングラスを嵌めた男が彼女の横にやって来て、近く耳もとで何かを呟いた。


「すいません、緒方さん私たちはもう行きますね。」と彼女は言って男と二人でバンの後部座席に乗り込むみスライド扉が勢い良く閉まり猛スピードで走り去って行き、まるで何もなかったかのよう最初の光景がそこにあった。


 夢じゃないかと疑いたくなったが手にはさっき持たされた名刺が確かにあった。


 周りを見渡して、誰も居ないのを確認した後名刺を無造作にジャケットのポケットに入れさっきまで隠れていた場所の近くに停めてある車の下を覗き込みスパイ携帯を回収した。

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