第7話 9月16日 ①

9月16日


 PSI研究所は北海道の中央部に位置する町の外れにあった。


 金が無かったので、月刊アトランティスへ取材に行った次の日にキャップと会社近くの公園で会い現金5万円を借りるとその足で羽田空港に向かいそこから飛行機で14時に帯広空港着いた。空港の外に出ると昼だと言うのに随分と肌寒くスマホで気温を調べてみると20度だったで急いで荷物をまとめて出てきたので着るものは夏服だけしか持って来なかったことを後悔した。



 そこから電車に3時間揺られその間に2回ほど乗り換えてやっと着いたのがPSI研究所の最寄り駅の街にで、スマホを見ると19時を過ぎていた。


 スマホの転機アプリを見ると気温は13度で、半袖のシャツでは寒過ぎたので、商店を探して下着を重ね着するために買おうと思ったが、駅の周りには全くお店がなく、飲食店がチラホラあるのとコンビニが一軒あるだけだった。


 ひとまず予約をしていたおホテルに行きチェックインして荷物のキャリーバッグを部屋に置いたあとホテルのカウンターでこの近くにユニクロみたいな店はないかと聞いてみると、衣料品の店は近くになくこの辺りの人は、だいたい電車で2つ目の大きな街にあるお店に車で行くということらしいので諦め、なくなく近くのコンビニへ行きその日の夕食と缶ビールを買って部屋へ戻った。


 部屋でシャワーを浴び、ホテルの寝巻きに着替え、ベッドの端に座り目の前に、部屋に備え付けの小さなテーブルに弁当を置きながらテレビを見ていて、日本めの缶ビールをプシュっと開けた時電話が掛かって来た。


 この状況、前にもあったなと思いながら、電話をみると班長からだった。


「なんですかキャップ。」


「何ですかは無いだろ、一応心配して電話してやったのに。」


「そりゃすいません。」


「それでどうだ、研究所には行けたか?」


「いや、最寄の町には着いたんですけど、もう遅かったので、明日行く事にしました。」


「そうか、結構遠いのか?」


「どうもここから車で1時間ほど掛かるみたいです。」


「随分遠そうだな。」


「はい、この街来た時寒かったんで下着でも買おうと思ってお店を探したらこの辺りそういうの全く無いんですよ。こことんでもない田舎ですよ。」


「まあ頑張れよ。」


「それより、東山って記者見つかったんですか?」


「いやまだ見つかってない。」


「何処行ったんですかね?」


「暗殺されてたりしな。」


「誰にですか?」


「警察に。」


「縁起でもないこと言わないでくださいよ。俺も殺されるかも知れないじゃないですか!!」


「ああ、そう言えば原口さんがお前に、人手が足りなかったらいつでも言えって言ってたぞ。」


「原口さんが?」


「今日ちょっと電話したら、(俺はもう退職だから有給消化しなくちゃならないからいつでも休んでやる)だと。老人の暇つぶしだろ。」


「いいんですかそんなこと言って。」


「本人に言うなよ。」


「分かりました。」


「まあ、気を付けて取材しろや、じゃあな。」と言って一方的に切られたので、ビールを一口飲んだ。



***


9月15日


 朝の10時にホテルを出ると空が曇っていて、周りの建物が低いため空が異様に低く見えた。


 ホテルの玄関には最近では見ないタイプの角張った古いセドリックの個人タクシーが待っていて横にはオデコから頭頂部にかけて剥げた運転手が立っていた。


 見るからに70歳を超えてる様に見え身長は低く、ブレザーを着る老人は私を見るなり「緒方様でしょうか?」と気の抜けたの様な声で勢い良く言ったので「はい。」と答えると後部座席のドアを開けてくれて私が座るとドアをバンッと閉める懐かしい音がした。


 そのあと車の後ろから回り運転席に着くとエンジンを入れ一度車が動き出すとブルルーンとすごい勢いの排気音がして体がビクッとなったあとゆっくり車が動き出した。


「あれ、お客さん驚きました?この車ちょっとイジッてあるんですよ。」と言われ、人は見かけによらないなと思いながら運転席のバックミラーを覗くとニコニコしていて確信犯だと感じた。


「ちょっとだけ。」


「いやね、外から来る人はみんな驚かれるんですよ、ははっ。」


「何で改造したんですか?」


「そうだな〜、何でだったっけかなあ。あっそうだクマ除けです。」


「あー、すずの代わりですか。」


「いや、嘘です。」


「え?」


「いや、本当はね暇だったからなんですよ。」


「暇?」


「そう暇。いやね、この街でタクシーやってるのって僕とあと一人だけなんですよ。でどうせクルマを改造しても仕事に食いっぱぐれること無いだろうと思ってやっちゃったんですけどね。」


「けど?」


「みんなもう一台のタクシーにばっかり予約する様になっちゃったんですよ。」


「でしょうね。」


「はい。でもその話には続きがあるんですよ。」


「続き?」


「ええ。それでこっちの売り上げが減っちゃったから私、値下げしたんですよ。そしたら売り上げばんばん上がって仕事しっぱなしで忙しくなっちゃったんですよ。」


「良かったじゃないですか。」


「いや〜、それはそうなんですけどね、私仕事がそんなに好きじゃないんですよ。」


「え?」


「だからもう一人の奴と居酒屋に飲みに行った時に、もう平等にしようって言ったんですよ。」


「お二人は仲良いんですか?」


「え!私ですか?」


「はい。」


「一緒に住んでますよ。あれ、言ってなかったでしたっけ?」


「えっ!?言ってないです。」


「嫌ですねー年取るのは。今流行りのルームシェアですよ。」


「はー。でもまだこのクルマすごい音するじゃ無いですか。」


「ああ、それは、奴の車にもマフラー付けたんですよ。」


「えーーー!?じゃあ問題解決するどころか悪化してるじゃないですか。」


「いやね、それがこの街、老人ばっかでしょタクシーが近くに来たのがすぐに分かるからいいって言われる様になったんですよ。人間万事塞翁が馬ってやつですな、昔の人はよく言ったもんだ。ははは。」


「はー?」と言いながら田舎の特殊な社会問題を垣間見た様で変な気分になった。


「そういえば、PSI研究所って所はどんな所ですか?」


「ああPSI研究所ね、私は前を通った事はあるけど入った事ないんですよ、住んでる奴は知ってますけどね。」


「芹沢四郎さんをですか?」


「はい、私小中高と同級生ですよ。」


「そうなんですか。どんな人ですか?」


「最近は会ってないけど時々街まで買い物に来てるみたいですよ、ガキの頃はいい奴でした、勉強ができて運動もできて顔もいいそれに家がお金持ち。学校に1人はいる。優等生ですよ。この辺りも昔は人が一杯いて学校の生徒数も凄かったんですよ。その中でいっつも学年トップでした。」


「へー。」


「で大学進学の時だったかなこの街出て東京に行ったのが。それから全く帰って来なくってね、東京の同窓会にも一回も来なかったですよ。」


「東京に居たんですか?」


「そうそう、東京の東京大学。」


「へー、専攻とかって何だったんですかね?」


「えーっと何だったかな確か理学部とかじゃなかったっけ。」と言われ想像する芹沢博士の想像図は眼帯をした男になっていた。

 

 走り始めて10分もすると窓の外は深い森に包まれ、道路の両側を5メートルほど入れば木が鬱蒼と茂っていた。それから20分は殆ど同じ風景で、時々道路標識がある位だったので、ホテルでよく眠ったにもかかわらず、再び寝てしまった。


「お客さん着きましたよ。」と言われ、外を見ると霧が立ち込めていて、お金を払い外に出ると目の前に大きく立派な二本の岩の柱が出できた門があり、その奥には手入れがされてない為か草木が伸び放題の庭がありその一番奥に古い豪邸があった。


 玄関に行くと表札の下に『PSI研究所』と書いてあるプラスチックの板が貼られていて呼び鈴を鳴らすと家の中でジジジジと音がしたあとトントントンと近付いてくる音がした。


 音は近くで止まり鍵穴からガチャっと音がして少しだけ扉が開て間から何者かの目がこちらを覗いていた。


「どなたですか。」と年配の男性の声がした。


「毎朝新聞の緒方と言います。」


「毎朝新聞ならもう取っとるけどねえ。」


「いや、販売店じゃなくて記者をしてるものです。」


「記者ですか。」と男性が言った後扉が閉まり、中でガチャガチャ音がした後再び扉が開いて「どうぞ入って下さい。」と言われ中にはシャツにネクタイを締め茶色のベストを着た男性が立っていて中に通された。


 中は天井が高く吹き抜けの階段があったりと豪華な内装だが、どこも古くなっているようでどこか色褪せていて廊下やちょっとした台の上など色々な場所には書類の束や資料などが置かれて繁雑な印象がした。



 応接間の様な所に通され、ソファーに座るとベストを着た男は目の前に座っていて、よく顔を見ると若い頃はモテただろうと思うダンディーな見た目の男だった。


「はじめまして芹沢です。よくこの研究所のことを知りましたね。」


「月刊アトランティスの岡部さんから。」


「岡部、ああ彼ですか。先月東京で会いましたが、元気ですか?」


「はいおととい初めてあったんですけど元気そうでしたよ。手紙で連絡するって言ってましたけど来てませんでした?」


「いえまだ来てないと思いますけど。」と芹沢博士は書類が大量に置かれた机の上を見た。


「それじゃあいきなり来てすいませんでした。一応電話をさせて貰ったんですが繋がらなくて。」


「ああ、それはこちらこそ、この家はでかいのに私1人しか住んでないし未だに黒電話を使ってるのでなかなか受話器を取ることができないんですよ。」


「はあ。」


「それで毎朝新聞の方がどういった用でしょう?」


「超能力について意見を聞きたくて来ました。」


「本州の新聞社が珍しいですね。」


「今、ある事件を追いかけていて、ちょっと映像を見てもらえませんか?」


「映像ですか?」


「はい。」といって私は三軒の事件をまとめた資料を芹沢教授に渡し数分軽く読んだ。


「火事に水難事故と交通事故ですか。確かに文字だけ見ればこれらの事件は普通の事件じゃないですね。」


「そえれと、これもと言って」といってバックからパソコンを取り出し、映像を見せた。


「この映像が超能力者の仕業じゃないかと言うことですか。」


「いや、まだ超能力と断定したわけじゃありませんが、可能性の一つとしてはして調査してる所でして。」


「大手の新聞社にしては随分柔軟な考え方をしますね。手の込んだ冷やかしなら丁重にお引き取り願おうと思ったんですが。わかりました力になりましょう。」


「ありがとうございます。それで単刀直入に聞きますが超能力は本当に有るんですか?」


「はい、超能力は実在します。20年以上前の冷戦の頃は、どこの国も多かれ少なかれ超能力研究をされてました。緒方さん、ちょっと来てもらいたいんですけど良いですか?」といわれ案内されたのは、屋敷の二階にある芹沢教授の研究室だった。研究室は足の踏み場もないほどの書類や書籍、証拠物件や写真などが山積みになっていて、壁には世界地図が貼ってあり何枚もの写真が画鋲で留められていた。


 研究室の一番奥に大木で出来た大きな机がありその上も資料で埋もれていたが、唯一天板が見える所に一台のノートパソコンが置かれていて芹沢博士はパソコンの前の古い木製の回転椅子に座り、横にあるスツールに勧められた。


 教授はある映像ファイルを開きはじめ、そこには広いコンクリート張りの窓のない体育館みたいな場所の真ん中に一台の古いセダンの車が映っていて暫くすると、1人の髪の長く若い女性が車まで近付いて車に触れ、暫くするといきなり彼女と反対側に車が吹き飛び画面に揺れとノイズが入って映像は止まった。


 その車の吹き飛び方は川内の事故の映像を連想するものだった。


「この映像は?」いうと教授が椅子をくるりとこっちに向けた。


「私がある筋から入手した実験映像です。」


「実験ですか?」


「はい、今から20年以上前にソ連で行われた、超能力者の能力実験です。ソ連崩壊時のごたごたで流出したものです。」


「ソ連ですか?」


「はい、他にもアメリカや中国の計画や実験の資料も多少あります。」


「そもそもこの研究所はどういったことを行っているんですか?」


「一応、PSIつまり超心理学の中でも超能力のサイコキネシスとテレキネシスの研究を行なっていますが、どうしても日本じゃ研究対象が居なくて、今はもっぱら海外の論文研究と、非正規ルートで資料などを集めています。」


「非正規ですか?」


「はい、特に多いのは旧ソ連の研究資料です。さっきも言った様に崩壊時に大量に世界に流出した事もありますがソ連は特に規模が大きくかったですから、今世界中で取引されているもののほとんどはソ連のものです。」


「当時西側陣営ではどうだったんですか?」


「勿論行ってました。というより今も行われているでしょうね。それ以外にイギリス、フランス、イスラエルなど色々な国で行われていますが特に研究されているのがロシア、アメリカ、そして日本です。日本のは5年前に事件が有りましたからご存知でしょう。あの事件は確か毎朝新聞さんのスクープですたね。」


「はい。」


「あの事件は惜しかったですね。」


「惜しかった?」


「不謹慎と思われるかも知れませんが、あの計画で被験者達に能力が発現していたら、世界的に超能力が実在することが証明され、一層研究が進んだでしょう。」


「教授はあの実験は超能力者を作り出す実験だと思ってるんですか?」


「はい、その可能性は十分にあると思っています。」


「失礼ですが、教授は超能力者にあった事は?」


「あります。」


「その方は今どこに?」


「亡くなりました20年前の事です。それは私の娘でした。」


「すいません。」


「いや良いんですよ、昔の話です。クロイツフェルトヤコブ病という治療不可能な病気でした。それ以来、医師として務めていた私は病院を辞め、ここで研究をしています。と言っても全く金にならないので親の遺産を食い潰している所ですよ。」と言って教授は少し窓の外を見ていた。


「すいません、話が逸れましたね、それで何でしたっけ?」


「ああ、じゃあ先程ロシア、アメリカ、日本が研究されていると言っていましたがなぜ日本なんです?」


「元々超能力の研究を最初に行ったのは日本だからですよ。」


「日本がですか?」


「はい。事の始まりは第二次大戦中のフィリピンでした。その頃日本軍はフィリピンを占領していて、その過程である孤島にたどり着いたんです。」


「フィリピンの島ですか。」


「はい。その島には二つの部族がいて部族の中には1人ずつ祈祷師というかシャーマンが居たらしいんですが、調査をするうちにそのシャーマンにはある種のテレパシー能力があるこことが分かったんです。」


「テレパシー能力?」


「そうです、まあどうも大まかに相手の気持ちが分かる程度のものだったみたいですがね。そして陸軍がその能力に目を付け研究をし始めたんです。でそれを研究していたのが731部隊です。」


「731部隊って関東軍のですか?」


「はい。」


「でも731部隊って生物兵器とか細菌兵器の研究部隊でしたよね。」


「確かにそうです。そもそも最初に調査をしていたのは陸軍の軍医学校でした。しかしより詳しく人体実験をする為に、当時大規模に捕虜を使って人体実験をしていた関東軍の731部隊の管轄になったんです。731部隊は当時陸軍軍医学校と頻繁に人材交流をしていましたし、731部隊自体が拡大指向でしたからそういった経緯もあるんでしょう。」


「人体実験とは主にどう言った事が行われていたんですか?」


「そうですね、単刀直入に言うと一般人を超能力者にするって言う事です。」と言われて耳を疑った。


「ちょっと待って下さい、私は岡部さんから子供が思春期にポルターガイストを起こす事がある聞きましたが子供を人体実験に使ってたってことですか?」


「いえ、子供だけじゃありません。大人でも成れる可能性があります。ポルターガイストは元々素質がある子供しか起こせません。」


「ちょっと難しいですね、つまりポルターガイストを起こす子供達は生まれながらに素質があるが人間は全員人工的に超能力者になれる可能性があるってことですか?」


「そう言うことになります、少し長くなりますが仕組みを説明しましょうか?」


「お願いします。」


「分かりました。最初に超能力が発見された部族のシャーマンにはある習慣がありました。何か分かりますか?」


「習慣ですか?」


「カニバリズムです。」


「食人ですか。」


「はい、そもそもその島のシャーマンはシャーマンの一族しか成れなかったんですが、その一族の中に生まれるテレパシー能力がある者がシャーマンになる権利が有るのです、そしてその者がシャーマンになる時、老衰で死ぬ直前のシャーマンの首を切りとり脳味噌を取り出し食べるのが習慣でした。」


「なかなかグロテスクですね。」


「はい、もう今は行われていない様ですが。そして陸軍はその習慣に目を付け、人体実験をしたんです。戦後それらの資料はソ連の中立条約破棄によって満州に侵攻して来た時に押収されました。そのためソ連の当時の資料が多く残っています。アメリカはソ連に資料を押収される前に本国に戻って来ていた資料などを731部隊将校の戦争責任を免除の代わりの司法取引に使われました。」


「その実験ってまさか。」


「はい、そうです人間に特殊能力がある人間の脳組織を摂取させるんです。」


「やっぱり。」


「単刀直入に言うと超能力者を作るにはプリオンが重要な役割りを担ってたんです。」



「プリオンって昔問題になった奴ですよね。確か狂牛病の原因だとか。」


「はいそうです、ただ戦争当時はまだプリオンが原因だとまでは判っていなかったみたいですがね。」


「じゃあそれでプリオンと超能力はどの様に繋がるんですか?」


「それはですね、緒方さんそもそもプリオンとはなにか知ってますか?」


「何なんですか。」


「まあ、問題になったのは20年近く前ですから無理もないですよ。プリオンというのはタンパク質の一種で私たちも持っている物です。」


「肉とか大豆とかのですか?」


「はい、そもそもタンパク質とはアミノ酸が鎖状に連結したものがいろいろな形に織り込まれた様なものなんです。そしてプリオンが原因で起こる病気や超能力は異常な状態で折り畳まれたプリオンが全ての原因です。」


「ちょっと待ってください、では超能力は病気の一種の様なものってことですか?」


「そういうことになります。過程が一緒で結果が違うだけです。ただ超能力を得るための織り込まれ方をしたプリオンを摂取したからと言って必ず超能力者になれるというわけじゃなく途中でクロイツフェルトヤコブ病などのプリオン病になることもあるんです。」


「タンパク質を摂取しただけで感染みたいなことが起こるんですか?」


「プリオンタンパク質には原因はまだはっきりしていませんが感染作用があるんです。そして私の娘もそのクロイツフェルトヤコブ病になって死にました、プリオン病と呼ばれる病気は全て現代医学では治療する事は出来ません。緒方さん私がずっと超能力を研究しているのは何故娘が死んでしまったのか知りたいからです。そしてここからは私の仮説ですからオフレコでお願いたいんですが。」


「はい。」


「この国は国民を使ってこのプリオンの研究をしていたんじゃないかと思うんです。」


「どういうことですか?」


「例えばある一定の基準を満たしている者は検査や治療のついでにプリオンを何らかの方法で摂取させられていたのではないかということです。」


「まさか、そんなことが行われていたら国民はみんな超能力者かクロイツフェルトヤコブ病にかかってることになっちゃうじゃないですか。」


「しかし現に娘はその病気になって死にました。」と急に強い口調になってと言われ私は何も言い返せなかった。


「すいませんつい熱くなってしまいました。」


「いやこちらこそ。」

「私が今言ったことは憶測の域を出ません、しかし5年前の事件の後も日本や世界では超能力の研究は行われています。今回緒方さんが持ってきてくれた映像も超能力の可能性は十分あります。特に1件目と2件目の事件は共に中学生が消息不明になってます。緒方さん、それにちょっと思ったんですけどこの子供たちって5年前のあの事件の時の子供達と年齢が一致しませんか?」


「それって、まさか。」


「緒方さんあの時の子供達ってあの事件の後どうなったか知ってますか?」


「その辺りは公表されていませんが噂ではみんな里親に出されているはずです。」


「そうです。そして当時は能力が発現していなかった子供たちが今になって発現し始めたとは考えられないでしょうか。」




***



 芹沢教授と話をした後タクシーを呼んでもらい数十分してから芹沢博士と玄関へ向かうと外はまだ霧が立ち込めていて、反対車線の路肩に止まっているタクシーが何とか見える程度だった。


「ああもうきてますね。」と芹沢博士が言うと、街の方向からブーっとバイクのエンジン音が遠くに聞こえ道路の街の方向を見ると霧の中に小さな日からが現れその光はエンジン音が大きくなるのと同時に光の強さを強めていった。


 すると霧の中から郵便局の赤いスーパーカブが目の目の前でブレーキを鳴らして止まり、降りてきた若い男の郵便局員は私たちの方を見て。「芹沢さんは?」と尋ねると芹沢博士は「私ですが。」と右手を少し上げた。それを見て局員は「郵便です。」と言って一枚の葉書を渡した。芹沢博士は葉書を見るなり「ははは」と笑い出した。


「どうかしたんですか?」



「え、ああこれ見て下さいよ岡部さんが、あなたが来るって連絡をよこしてくれたんですよ。」その手紙はアメリカのお土産なのか荒野に一本の道が通っていてその横の立て看板にエリア51と書かれている写真に、あの見た目から想像が出来ないような達筆な字で挨拶が書いてあった。


「3時間おそかったですね。」と芹沢博士を見ると少し頭を掻きながら「やっぱり子機のある電話に変えないといけないですね。ははは。」と笑って言った。


「お客さんのらないんですか〜?」と止まってるタクシーの方からさっき聞いた、気の抜けた感じの声が聞こえて来たので、芹沢博士が。「おう、小太郎かちょっとだけまてよ。」と慣れた返事をした。


「芹沢お前も居たのか。霧で気付かなかったよ、久しぶりだな。」


「最近元気か?」


「まあボチボチだ、お前は?」


「最近太ったよ。」


「外に出たほうがいいぞ、こんな家に引きこもってたらすぐ歳を取るから。」とタクシーの運転手の話を聞いて私は、あんたが言うかと心の中で思った


「そうするよ。」と言うと芹沢博士はこちらを見て「まだ色々話したいですが小太郎もああ言ってるんで、そろそろ行ってやってください。」といわれ私はタクシーに乗った。


タクシーが走り出すと再びマフラーの凄い音がした。


***



 研究所へ行った日の夜20時に私は空港に停まっているこの日最後の東京行き便の一番前の座席に座っていた。


 前を見ると女性の客室乗務員が扉を閉め枠をなぞる様にチェックをした後、壁に着いている簡素な座席を倒し座った。


 次第にエンジン音が大きくなり滑走路に向かって暫く地面を動いて行くと滑走路の端に止まりエンジンの音がさらに大きくなると短距離走の様にいきなり凄い勢いで座席に押し付けられると、次第に前方が上がった様な感覚がし機体は空中にいた。


 窓から外を覗くと空は暗く下には街の夜景がよく見え、機体が上昇していくと同時に街の明かりは小さくなっていき、私は外を見るのをやめた。


 機体が水平飛行になるとベルトを外し飲み物を配る客室乗務員にビールを一杯貰い胸ポケットに入ったオレンジ色の取材手帳を取り出し教授の話を思い出す。


 5年前の子供達が今回の事件に関係してるかも知れない、と思うとこの仕事の限界を思い知らされながら私は5年前の事件を思い出す。

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