第3話 9月12日
9月12日
昨日は1時過ぎに寝たため、いつもより遅い8時半に起きた。
ホテルの朝食バイキングに向かうと、フロントのカウンターには新聞が何紙も置いてあり、地元の地方紙を取り、朝食を食べながら読んだ。
内容は特に気になることは特になく強いて言うなら桜島が噴火した事ぐらいしか気になった記事は無かった。朝食を食べ終わり、フロントに新聞を返しに行くとふと4月の事件の事を思い出したので丁度フロントに居た感じの良さそうな20代ぐらいの女性従業員に事件の事を覚えているか尋ねる事にした。
その事件は地方の交通事故だったため、地元の地方紙にしか記事が載ってなく、記事自体もとても小さく、簡潔に短い文が載っていただけで、軽トラックが建物に突っ込んだと書いてあったが余り状況が分からなかった。
「すいません、ちょっと聞きたいことが有るんですけど。」と言うと彼女は私に笑顔を向けた。
「はい、なんでしょうか?」
「だいぶん前のことなんでけど、この辺りで4月に交通事故があったの知ってる?」
「4月ですか?」
「はい、なんかこの辺りのビルに突っ込んだって新聞に書いてあったんだけどわからないかな?」
「建物にですか。どうだったかな。」と彼女が思い出そうと頑張っていると、フロントの裏から男性従業員が出てきて、彼女の後ろを通る時、彼女が「ねえねえ。」と呼び止め事情を話した。
「4月の交通事故で建物に突っ込むか。」と言ったあと。「あっ。」っと思い出したように言った。
「思い出した?」と聞くと。
「ハイハイ、思い出した。」と言ったあと、女性に向かって「あれだよあれ。交番の二階。」と言うと彼女も「ああ。」と目を見開いて思い出したようだ。
「交番の二階って?」と聞くと男性の方が言った。
「交番の二階に軽トラックが突っ込んでたんですよ。」
「軽トラックが交番の二階に?」と信じられない様に言うと男性が。ポケットからスマホを取りがした。
「いやいや、本当なんですって、丁度通勤中に見たんで、写真に撮りましたもん。」と取り出したスマホを操作してこちらに見せた。
そこには本当に、鉄筋コンクリートの交番の2階の大きなガラス窓があった部分に軽トラックのキャビンの部分がすっぽりと埋まっている写真があった。
「うわ、まじか。この写真貰っても良い?」
「ええ、良いですよ。LINEでも良いですか?」
「ああ、良いよ。後さあ、この場所ってどこか教えてくれる?」と聞くと男性従業員はきょとんとした顔をして「場所ってここの隣の交番ですよ。」
「へっ?」と驚いた後、彼から送られてきた画像を見ると交番の奥に確かにここの建物が写っていた。
例の交番は一旦ホテルを出て左に歩いて30秒ほど行った大きな交差点の角に有った。
交番は流石に5ヶ月も経っている為、軽自動車は撤去され窓ガラスも綺麗に修復されていた。
しばらく交番の前に立っていると中にいた小太りの警官が不審に思ったのかアルミ冊子の引き戸をシャーっと開けて出て来た。
警官はホテルの従業員と違い鹿児島弁なのだろうか、とても訛った話かたで声を掛けてきた。
「どうかされましたかね〜。」
「あ、いやここが4月に凄い事故があったって聞いたもんだからちょっと見にきたんですよ。」
「ああ〜。ありゃ凄かったですよあの日は大変だった。何たって二階の窓に車が突っ込んだしその後別の所で中学生が倒れたとかで救急車もきたからね。」と言って警官は交番の中に促してくれた。
「中学生ですか。」
「あんたどこからきたんですか?」
「東京からです。」
「ほー、そりゃ随分遠くから。この街は新幹線の駅が出来ても全く観光客が増えんで、何も無いのによくきましたなー。今時シャツとスラックスで旅行なんて珍しい。」
「丁度法事だったんですよ、親がこっちの出身なんで。初めて来てみたんですけど本当に何もなくてびっくりしました、って地元の人にこんな事言ってすいません。」
「いーやー、良いんですよ本当のことだから。」
「それより二階に車が突っ込んだって、大丈夫だったんですか?」
「ああ私丁度その時この交番にいたんですけどね、びっくりしましたよ。私は丁度トイレ行ってたもんだから、その時の事は観てないんですけどね。」
「そうですか、で何で二階までも車が飛んで来たんですか?」
「それがね、そこの交差点の真ん中あたりにマンホールがあるでしょ。どうもその時に山の方で雨が降ったみたいなんですよ。えっと何てったっけな?凄い雨が降るの。」
「ゲリラ豪雨ですか?」
「あー!そうそれ、ゲリラ豪雨。それが局地的に降って下水が鉄砲水みたいになってたまたまあそこの下水道の圧力が上がったとかで、丁度そこの上にいた車にマンホールが当たってここまで飛んで来たって事らしいけどね。」
「そんな漫画みたいなことって有るんですか?」
「いや〜直接観てないもんで私にはどうとも言えませんがね、事故が起こって直ぐに外に出たけど、マンホールが空いてたり、はしとらんかったんですよね〜。私はどうも怪しいと思ってるんですけどね。」
「映像とかには写って無かったんですか?」
「いやねそこがもっと変なとこなんですけどね。この交番にも防犯カメラが付いてて、映像データが警察署に直接行ってるんですけどね。ちょっと警察署が行く用事があって、ついでにちょっと映像でも観てみようと思ったんだけど、何故かその日付のデータだけ削除されてるみたいでねって。こんな事部外者に言っちゃダメだった。今言った事聞かなかた事にしといてくれんかね。」といきなり不味そうな顔をして忘れる様言われたので、苦笑いしながら「はははっ。」と適当に返した。
「そう言えばあんた仕事は何してるね?」
「あ、公務員です。」
「何ね、あんた同業者かね、それじゃあよかった。お互い最近コンプライアンスとかうるさいでしょ。」
「ええ。お互い様です。」
「いやーよかったよかった。ここは田舎で暇だからついつい話し込んじゃうんだよね。」と笑いながら言う警察官を見て、良い人なのは分かるけどこれで良いのかと、警察組織のコンプライアンス教育を心配してしまった。
その後交番を出てから暫く交差点の周りを歩き事故現場が映りそうな場所にカメラが設置してあるお店や建物を回ってみたが、何処の店も映像を5ヶ月も保存してないか、事故当時警察に提出したまま帰ってきていないという回答だった。
日が傾き始めた頃、私は交差点を少し離れた、住宅街にいきなり見えてくる古びた喫茶店に野前を歩くと洋食の良い匂いにが漂ってきて、調査に夢中で昼食を食べていないのを思い出し吸い込まれるようにドアの取手に手を掛けた。ドアを開けると内側の上のところについたベルがカランカランと鳴り、中に入ると少しレトロな感じの木製の机やカウンターが置かれていてほのかにタバコの香りがした。
少し高いカウンターの席に座るとすぐにカウンターの奥から眼鏡をかけた30代ぐらいの綺麗な女性が出てきた。
褪せたデニムのシャツにブラウンのスカートを履いたどことなくレトロな姿はこの店にあっていて、何処か店が昭和レトロな雰囲気が漂っていた。
「いらっしゃい。」と言って彼女はラミネート加工された一枚のメニューと布のおしぼりを私の前に置いてカウンターの奥に戻っていくと。
私はメニューに一通り目を通して、書いてあったナポリタンスパゲティとアイスコーヒーを大声で頼ん無と奥から「はい。」と返事が返ってきてそれから数十秒後にアイスコーヒーが直ぐにが出きた。
「ナポリタンちょっと待ってくださいね」と何処か色っぽい声で言った後彼女は再びカウンターの奥に入って行った。
奥にある厨房からは包丁の音は聞いているといつの間にかフライパンが何かを焼いている音も聞こえてきて、その後ケチャップの焼ける匂い漂ってくる。
こんなに食事が我慢できそうにないのはいつぶりだろうかと考えていると5分ほどしてから彼女がナポリタンを持って出てきた。
「お待たせしました、ナポリタンスパゲティーです。」と言って出てきたナポリタンは麺が太くて鮮やかなオレンジ色の昔ながらと言ったものだった。
「頂きます。」と手を合わせてナポリタンを食べると懐かしい味がしてフォークが止まらなくなり5分ほどで食べてしまった。
「ご馳走さん」と手を合わせると彼女は私をチラッと見て少し笑った。
「何ですか?」
「ゴメンなさい、口の周りに着いてるから、ケチャップ。」と彼女は新しいおしぼりを出してくれた。
「いやー、ありがとうございます。うまかったですこのナポリタン。」
「こちらこそありがとうございます。あなたこの店は初めて?」
「はい、ちょっと法事で東京から来てて。」
「やっぱり。訛ってないからそうなんじゃないかなって思ったのよ。」
「お姉さんも訛ってないかないね?」
「実は私も東京から来たの。」と言うと、彼女はステンレスのポットを持って近くに来て少し減っていたアイスコーヒーをなみなみ注いでくれた。
「いいの?」
「いいのよ、どうせ置いといたって悪くなっちゃうんだから。」
「じゃあ遠慮無く。」
「平日ってあんまり人が来ないのよ。」
「へー。」と言いながら私はバックからホープを取り出し一本口に咥えると彼女はどこからか取り出したライターをタバコの前に出し火を付けた。
「ねえ、私も一本もらっていい?」
「ああ全然いいよ。」と箱を開けて彼女に差し出すと彼女は目の前に座り一本取って口に咥えたのですかさず私もライターを取り出し火をつけてやった。
「ありがとう。」と言った彼女は長い髪を後ろで一つに束ね始めた。
「産まれはここなの?」と彼女に聞くと。
「うん高校卒業までずっとここで大学から東京。元々このお店はおばあちゃんのお店でね、5年前におばあちゃんが亡くなって以来ずっと閉めてたんだけど、1年前にこっち帰って来て貯金をはたいて綺麗にして今は私が店主をしてるの。」
「へー。」と相槌をしながら煙を吐く。
「見た感じそんなに新しそうじゃないのに、結構お金かかったの?」
「見た目はねあんまり綺麗じゃないって言うかレトロな感じが好きだったから極力そのままにしたのよ。でも厨房とかトイレとか防犯カメラとか色々変えたわ。」と聞いて耳を疑った。店内を見渡すと店の奥から大きなガラス窓の方に向かって店内を一望出来る位置にカメラがあった。この店の大きなガラスの窓から事故現場の交差点まで50メートル以上はあるが写りはするかも知れなかった。
「もしかして、4月のカメラのデータって残ってる?」とダメ元で聞いてみる。
「たぶんあると思うけどどうしたのそんな血相変えて?」
「交差点ですごい事故があったって聞いてちょっと興味が有ったんだよ。」
「事故って交番に突っ込んだ?」
「そうそれ。」と言うと彼女は少し不審そうな顔をしながら奥のパソコンまで案内してくれた。
パソコンの前に彼女が座り事故があった日の映像データを調べる。
「事故があったのって朝だったわよね?」
「確か朝の8字半過ぎごろだったはずだ。」と言うとデータの時間を動かすバーのカーソルを動かす。
「じゃあこの辺りかなっと。」と言って再生された画面の中央に映るガラス窓の奥に確かに交差点を通る車が見えた。
「ちょっと早めるわね。」と彼女は映像速度を1.5倍に上げそのまま数十秒映像を見た時、確かに交差点の中央で車が宙に浮く映像があった。
彼女は「驚いた、車ってこんなに飛ぶのね。」とびっくりした様子で一時停止した画面を見ていた。
「この映像、少し貸してくれないか?」と言うと彼女は少し疑う様な顔をして。
「いいけどこんなの何に使うの。」と言った。
「出来ればあまり聞かないで欲しいし絶対誰にも言わないで欲しいんだけど、俺は記者なんだ。」と言いながら財布から名刺を取り出して彼女に渡した。
「あ〜、そう言うわけね。でもこんな映像がそんなに必要なの?」
「この事件だけだとローカルニュースでやってるびっくりニュースかも知れないけど別の事件の鍵になるかも知れないんだ。」
「USBメモリー持ってる?」と言われてバッグまで取りに行ってから彼女に渡すとそれをパソコンに差し込み、データをコピーし、それを私に渡し「タバコのお礼にあげるわ。」言った。
彼女から受け取ったUSBメモリー手に、店お出ようとお勘定を頼むと。
「あら、もう帰るの?」
「ああ、本当はもっと居たいんだけど、早く出ないと東京に帰れないから。」
「今日中に、東京に帰るつもなの?」と言いながら伝票をレジに打ち込み「660円お願い。」と言うのでつい。
「安っ!と言ってしまった。」
「ここら辺物価安いから。」
「ああ、そうだお姉さん名前なんて言うの?」
「私!?、私は白鳥絵理子。」
「白鳥絵理子か。データありがとな。またこっちに来たら今度は何か奢るよ。」
「もしかしたらこっちが東京にいくかもしれないからその時にお願い。」と彼女は言った。
「必ず電話して。」
店を出ると絵理子は店の外まで見送ってくれて、私が見えなくなるまで彼女はそこに居たので、私は何度も後ろを振り返り恥ずかしがりながら何回も手を振ったら彼女も振り返してくれた。
こうやって見送ってもらうのっていつぶりだろうか、こう言うのも昔の映画みたいで良いなと思った。
彼女が見えなくなる頃、ケータイがなり画面には公衆電話と書かれていたので通話ボタンを押すのを躊躇ったが、一応画面をタッチし耳に当てると聞き覚えのある中年男性の声だった。
「お前さん、緒方か?」
「はい。」
「俺が分かるか?」
「もしかして原口さんですか?」
「ああ、警察署ぶりだなあ。元気か?」
「はい、それよりどうしたんですか公衆電話からなんて?」
「いやな、お前さんと別れてから、ちょっとお前さんのこと調べさしてもらったんだよ。」
「はい。」
「でな、驚いたよあんた5年前の超能力の事件スクープした奴だったんだってな。」
「昔の話ですけどね。」
「まあ、そんな謙遜するなや。ところでな、お前まだ火事の事件追ってるか?」
「ええ、一応。」
「今日の夜、会えるか?」
「えっ、今日ですか?」
「欲しくねえか、情報。」
「いやいやいや、欲しいです欲しいんですけど今せんだいに居るんですよ。」
「はあー、せんだい?そんなの新幹線で2時間も掛からないで来れるだろ。」
「ああ、そっちのせんだいじゃなくて、鹿児島の方なんですよ。」
「鹿児島?」
「そうです、一応新幹線で帰るんですけど、今から駅に行くんで今日中に帰れるか分からないんですよ。」
「そうか、そりゃダメだな。」
「あ、そうだ原口さんに会うの自分が信頼してる人でも良いいですか?」
「できれば本人がいいんだがなあ、じゃあ明日にするか。」
「ちょっと待ってください。その人私の上司でこの調査を命令した人なんですよ。」
「上司?」
「はい。雲村って言う人です」
「雲村?」
***
緒方から電話があったのは17時過ぎの事だったで原口と言う刑事が情報をくれるかも知れないから、会いに行ってもらっても良いですかと言うことだったので23時を過ぎた頃、緒方に教えられた八王子駅から少し離れた商店街にある焼き鳥屋に向かった。
外観はいかにも昔からありそうな小汚い感じで若者は入り難い雰囲気を出していて、出入り口のガラス越しに中を見ると想像通りで梁や天井には厨房の換気扇が吸い切れなかった煙のせいでススや埃で真っ黒になっていた。
席は厨房の前にカウンターで数席あり入り口から見て一番奥の席に半袖のカッターシャツを着た、見覚えの有る中年男性が一人タバコを吸いながら、一合サイズのKIRINと書いてあるコップでビールを飲んでいてた。
入り口の引き戸をガラガラと開けると奥の席にいた中年男性はちらを向き私と目があって片手でこっちに促した。
「やっぱり原口さんでしたか。」と恐る恐る話掛ける。
「おお、緒方に雲村って効いたときはまさかって思ったけどやっぱりお前か。」と嬉しそうに背中をぱんぱん叩かれる。
「久しぶりだな。」と言いながらポケットからタバコを取り出すしながら店の親父に瓶ビール を頼んだ。
「お前、まだエコーなんか吸ってんのか?」
「原口さんだって昔はわかば吸ってたじゃないですか。」と言うとカウンターに置いてある普通より縦に縦に長いタバコの箱を見て「パーラメント吸うなんて、出世してブルジョワジーに染まったんじゃ無いですか。」と反撃した。
「馬鹿、警察は年功序列で給料が上がってくんだよ。おめえらみたいな貧乏人と一緒にするな。」
「何ですかそれ?」懐かしみながら冗談を言い合った後「それにしても本当に久しぶりですね。」と話を変えた。
「ああ、そうだな、お前が上司と喧嘩して文化部に飛ばされて以来だろ。」
「じゃあ、10年前だ。」
「そうか、どうりでお前の頭も殺風景になるわけだな。」
「うるさいですよ。でそのあと文化部でも上司と喧嘩して、直ぐに今いる、調査報道班に入ったんです。」
「ほー、じゃああの緒方って奴もそこの奴か?」
「はい、カワイイ部下です。」
「にしちゃあ、ずいぶんおっさんだな。」
「見た目はね。でも中身はまだ新卒の新人みたいに青いですよ。」と言うとカウンターの中から瓶ビールと冷えたコップがき他ので置いてあった飲みかけの瓶ビールを自分で入れようとするが原口さんが先に取って、注ぎながら「昔のお前みたいだな。」と返事をした後軽く乾杯をし。
「あいつね5年前におっきいスクープとったの知ってます?」
「ああ、ちょっと調べた。」
「で、内閣が解散して、普通の記者ならちょっとぐらい嬉しくなって天狗になるじゃないですか。」
「ああ。」
「でも、当時の総理大臣だった大友熊八が何の罪にも問われなく、そのまま議員を続けて3年前には与党の幹事長にまでなったのを見て、ふて腐れちゃったんですよ。」
「昔のお前よりもガキだな。」
「はい。」
「まあ一応はちゃんと仕事やってるんでいいんですけどね。昔より勢いがなくて。でそんなあいつが珍しく今回やる気になってて、もしかしたらあいつが一皮剥けるんじゃないかと思ってるんですよ。」
「スランプか。」
「はい。」
その後二人で酒を飲みながら思い出話に花を咲かせた後本題を切り出した。
「ところで原口さん、緒方に用事って何だったんですか?」
「ああ、そうだったな、懐かしくて忘れてた。」と隣の椅子の上に置いてあったバックから取り出したのはA3サイズで紐で綴じてある封筒だった。それをそのまま私に渡し、私は周りをキョロッと見回し誰もいないことを確認すると、捜査資料のコピーが薄い冊子になって入っていた。
「これって。」
「ああ、捜査資料のコピーだ。って言っても現場の写真とか消防の報告書とか大したものはないがな。」
「どうしてコレを?」
「いやなあ、この事件は現場を一目見た時引っかかるところがあったんでたまたま横取りされる前にコピーしてたんだよ。」と言い終わる頃に、入口から引き戸が開く音がした。
私と原口さんは一斉に入り口の方を向くと、暖簾をかき分け入ってきたのは疲れた顔をした緒方だった。
「緒方。お前間に合ったのか?」
「はい、キャップは会えましたかって、原口さんじゃないですか。会えたんですね。」
「おう。」と原口さんは緒方の方にコップを軽く持ち上げて挨拶をした。
「原口さんすいません。」
「いや気にすんな、久しぶりに顔なじみ会って楽しいかったよ。」と原口さんは嬉しそうに言った。」
「緒方よく来れたな。」と私が聞くと、緒方は俺の横に座ろうとするので、横の席に置いていたバックを素早く持ってもう一つ横の席に置き「あ、すいません。」と言いながら座って、「いや〜大変でしたよ、一本遅れてたら姫路で一泊でした。あ、そうだコレお土産です。」とミニボトルの焼酎を二本取り出して私たちに渡した後にマスターに生中を頼んだ。
「それより、何か2人共ずいぶん仲がいいみたいですけど、もしかして知り合いですか?」
「ああ、昔雲村が社会部にいて警視庁に張り付いてた頃にこいつが新人で入ってきた時からだ。」
「最初に緒方から名前を聞いた時から何か聞き覚えがあると思って会ってびっくりしたよ。」
「え、ていうことは原口さんって警視庁に居たんですか?」
「おう、自慢じゃないが高卒から40年間現場一筋よ。」
「警視総監賞も何回か貰ってましたよね。」
「まあ昔の話だ。」
「じゃあ何で今はこんな田舎の警察署に居るんですか。」と緒方が聞くと「おう、随分卒直に行ってくれるじゃねえか。」とにやにやしながら原口さんが答えた。
「そうだぞ、緒方はっきり言うな、年下でエリートの上司を殴ったら飛ばされたんだから。」
「うわって事は二人とも似たもの同士って事ですか。」
「うるせえ。」私が言うと緒方は私が持っている封筒を見つけた。
「それが、原口さんが言ってた奴ですか?」と言うので、「ああ。」と言いながら封筒を緒方に渡した。
「コレって、捜査資料じゃないですか。こんなの良いんですか。」
「そりゃばれたら良くないだろうがこれはコピーだから大丈夫だろ。」と何ともなさそうに原口さんが言った。
「そう言えば二人に見せたい物が有るんですよ。」
「おいおいそれは俺が見ても良いのかよ。」
「原口さんも見ておいたほうがいいかも知れません。」と緒方が言う。
「どう言う事だよ?」
「それと言うのも私達がこの事件を調べ出したのは垂れ込みなんですよ。」と緒方が言った。
「垂れ込み?」と聞き返す原口さんに私が答えたえる。
「そうなんです、匿名の垂れ込みだったんですけどね、八王子の事件と、7月に小牧で起きた水難事件、それと4月に鹿児島の川内で起きた交通事故は繋がりがあるって物だったんです。」
「ほー、それで緒方は川内に居たのか。」
「はい。それで小牧と川内の事件を調査したんですけど。どの事件も不自然なんですよ。小牧の事件は水難事故が起こりそうもないほど小さな小川だし、川内では軽トラックが交番の二階に突っ込んでたんです。それに八王子と小牧の事件は両方共事件後に行方不明になってる人が居るし。それで見てもらいたいのがやっとの思いで探して出したのが川内の事件発生時の動画データです。何故かどこのお店や建物のカメラのデータがなくって苦労しました。」
「ほう、じゃあ見せてくれ。」と言われた緒方はバッグの中からパナソニックの小さなパソコンを取り出し原口さんと私の間に置きUSBメモリーを出して映像を再生し出した。映像はどこかのお店の防犯カメラの様で、画面の奥にある大きなガラス窓がありそこから見える外の道路は少し光が強くなっていて不鮮明でかろうじて車通りが見えた。
すると次の瞬間、動路の上辺りに空中を進む一台の何かが見えた。
「どうですか?見えたでしょ。あれこれ回ってコレが限界でした。」
「何かが飛んでるのは分かるんだが何が写ってるのは解く分からんな。」と原口さんがいつの間にか掛けていた老眼鏡を外しながら言った。
「やっぱりですか。」
「大体映像が粗いからなあ。」と原口さんが言った後私は「緒方、明日ちょっとここに行ってこい。」と言いながら紙ナプキンにある住所を書いた。
「何処ですかここ?」
「知り合いのパソコンオタクだ。この映像をなんとかしてくれるかもしれない。」
「分かりました。」
「おい、結局この三軒の事件の共通点ってなんだ?」と原口さんが言った。
「全部の事件でおかしな事象が起こっている事ですかね。」緒方が言った。
「おかしな事象か。」と原口さんは少し考えた後緒方に向かって「超能力みたいだな。」
「「超能力?」」と私と緒方は2人で聞き返した。
「ああ前に緒方がスクープした時雑誌とかで眉唾な記事がいくつも上がってただろ。スーパーソルジャーは超能力者だったてな。」
「確かにそんな話がネットとか週刊誌とかでもありましたけどほんとにあるわけないじゃないですか。」と緒方が言うと原口さんはニコッとして「じつはなおれ、そう言うオカルト話好きなんだよ。」と言って、私は昔原口さんとオカルト雑誌の話をした事を思い出した。
「そういえば原口さん昔そう言う雑誌買ってましたよね。」
「そういえば、お前ともそんな話したな。」
「まあ緒方、今回の事件は不思議な現象が起きてるのは事実なんだから、先入観なく取材しろよ。どっちみち今ある証拠だけで記事には出来んしな。」
「班長酔ってます?」と呆れた顔で答えた。
「緒方、困ったときに俺にも言え、もうすぐ定年でいつも暇だからいつでも連絡してこい。」と原口さんが激励すると緒方は「あの〜、他に金銭的な援助とかって無いんですか。」と恐る恐る確認する。
「俺は上司として応援はするぞ。金はない」と言い横の原口さんを見て「そうだ緒方原口さんは定年マジかの天下の公務員だから原口さんに頼め。」
「班長、バカにしてるんですか。」
「すまんすまんそんなに怒るなよ。記事になるまではお前は休暇扱いだからその間は俺が建て替えてやるよ。お前もちょっとは貯金しろよ。」
「お前ら、餓鬼みたいだなはっはっはっは。」と原口さんが笑いながら言った。
その日は気付いたら1時を過ぎるまで呑んでいた
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