(分割版) 実録!?驚異の魔宮、長野の山奥で悪魔の研究所が作り出した超能者を見た!!

雁鉄岩夫

第1話 9月10日

 5年前のあの日、それまで過ごしてきた所に知らない大人達が押し寄せて、いきなりみんなと別れることになった。


大人達はみんなの部屋に押し入り何から何まで奪い取って、僕らをどこかに連れて行き、そのままみんなをバラバラにした。そして僕らを知らない家族の中に無理やり放り込んだ。



***



 5年前新聞記者をしていた私は一つの真実をスクープした。それはいきなり私に接触してきたディープスロートを名乗る人物から私への告発で内容

は国家による遺伝子改造によってスーパーソルジャーを作る計画だった。


 スーパーソルジャーとは、特殊能力を持った兵士のことで、その特殊能力について噂では超能力だの身体能力向上だのとネット上で話題になったが国は国家防衛上の機密として最後まで情報が開示されることはなかった。調査取材の結果、結局は子供達に変わった能力を持った子供達は居なかったと言う国の調査報告書だけが出てきた。


 このスクープによって内閣支持率は低下し、最初は強気で知らぬ存ぜぬを貫いていた内閣も総辞職に追い込まれた。国会では野党の追及はなされたが。結局は防衛省と厚生労働省の役人が何人か国会で尋問を受けた後、減給などの軽い罰を受け事件はうやむやになった。


 このスクープの結果私は念願だった社会部から調査報道班へ移動となったが5年間それなりの仕事をすることはできたが手応えのある仕事はほとんどなかった。


***


 夏からの残暑がずっと続いて先週まで最高気温が35度を超えていたが、やっと涼しくなった9月10日3時過ぎの毎朝新聞社屋。だだっ広くタバコ臭い報道局のオフィスの隅の天井に調査報道班と書いてあるプラスチックの板がぶら下がっていた。


 ぐしゃぐしゃに書類が積み重なった机の唯一平らな狭い範囲で、私は少し遅い昼飯のカップのチキンラーメンを食べていた。

 

 周りの机には書類の山ができているが、机に付いて仕事をしてる人は誰もいなく、皆どこかしらの取材に行っていた。


 ズルズルとラーメンをすする音が周りに響く中、コクコクと遠くから足音が近付いてくる。


 次第に自分の方へ近づく靴音が後ろにくると、私は回転するイスをギギーっと回し後ろを向く。

 

 目の前には、スキンヘッドの中年男が腕をまくった雲村班長、立っていた。


「おい緒方、いま暇か?」


「なんですか?」

「なんですかじゃねえだろ、こんな早くに帰ってきて。良いでもあったか?」


「あんまり、ないっすねー」軽く答えると、キャップは髪のない頭を撫でながら。


「お前なー、もうちょっと真面目に仕事したらどうだ、他のみんなに示しがつかんだろ。」


「しょうがないじゃないっすかマトモなネタがないんだから。」


「だから探して来いって言ってるんだよ。5年前のお前はどこ言っちまったんだ。」


「分かりましたよ、じゃあこれ食べたら外回ってきますから。」と言うとデスクは。


「それなら、ちょっとこれを調べてきてほしいんだ。」と一枚のメモを渡してきた。


「なんですか?」と聞きながらメモを見ると、3件の事件が書いてあった。


「4月17日の川内市の交通事故と7月3日小牧市の水難事故、9月9日八王子の火事ってこれ全部23区外の事件じゃないっすか。この3件がどうしたって言うんですか?」と言うと、毛の無い頭をペチペチたたきながら。


「さっき匿名で垂れ込みが有ってな、どうもこの3件には共通点が有るらしいんだ。どうせ暇ならちょっと調べてこい。」


「共通点ってどんな?」


「知るか、自分で調べろ。」と言って歩き去っていき歩きながら、「給料分は働けー。」と大きなこえで念を押された。


 ちょうど昨日起きた事件が八王子だったので向かうことにした。


 電車を乗り換え、八王子に着いたのは5時前だった。そこからバスで現場に向かうと、着いたのは5時半で日が少し傾き始めていた。


 バス停から少し歩いた先の閑静な住宅街にその現場はあった。


 その住宅街には何処の家にも小さな芝生の庭があり、鉢植えや陶器の置物が飾ってある、いかにも夕方の建築屋のコマーシャルに出てきそうな家が並んでいた。


 何処の家も駐車場にはそう高くないフォルクスワーゲンなどの外車や国産の高級車が置かれていた。


 移動中にスマホで事件の記事を調べるとネットにはウチの新聞の記事だけがヒットして別のし新聞のネット版でどんなに探しても一件もヒットしなかった。


 事件内容は家に住む男子中学生がやっていた花火の不始末が原因では無いかと記事に書いてあったので、ちょっとした小火ぐらいだろうと、高をくくっていたがその予想は現場を見た瞬間覆った。

 

 事件現場は、住宅街を歩いていると両隣の家に植えてある木で遠くからは全く見えなかったがその家の前を通ると一本だけ抜けた前歯の様に急に現場が見えた驚いたが、しかし本当に驚かされたのは現場の燃え方だった。

 

 燃えた家は全く跡形もなく、少し燃え残った太い柱は、芯まで黒く焦げて、まるで何日もかけてじっくり焼かれる炭のようになっていた。


 そしてこれだけ家が燃えたのに焼けた家の両隣の家は全くなんの損傷もなかったのだ。


 普通の火事なら火の粉が飛び火したり熱の影響で窓ガラスが割れたりすのだが、ここの現場には、燃た家の両隣の被害が全くなく、現場の建物だけすっぽり何かのカバーに掛けられてその中だけで燃えた様な感じだった。


 事件の詳細によると当時家に居たのは主婦とその息子で、息子が夏に余った花火を使い切ろうとして起きた事件だと書いてあったかがこの燃え方は普通じゃなかった。周りで取材をしようと、現場の北側にある比較的新しい家を訪ねると、30代前半と思われる髪を後ろで纏めた背の低い女性が赤ん坊を抱えながら出てきた。


「昨日の火事についてお聞きしたいんですけどいいですか?」


「いいですけど、お役に立てるかどうか。」


「いえ、何でもいいんですよ。」


「刑事さんにも言ったんですけど、あの時立川さんの家が火事だって全然気づかなかったんですよ。」


「あんなに燃えてたのにですか?」


「はいー。夕飯を作ってたんですけど、消防車のサイレンが近くで止まったと思って外に出たら、凄い勢いで燃えてたんですよー。」


「こちらの建物には被害はなかったんですか?」


「ええ、全く。強いて言うなら庭の芝生が少しだけ燃えちゃったぐらいで。」


「なるほど。そういえば隣の家族ってどんな人かご存じですか?」


「ええ、知ってますよ。私達、2年前に引っ越してきたんですけど、もうその時には隣に住んで居たんです。けどすごく仲の良い家族で、時々敏雄くんとご両親の喧嘩の声が聞こえましたけど、 あの位の子供ってよくある事でしょ。いつもはすっごくいい家族なんですよー。本当によかったですよね、怪我はしてるけど由紀子さんと敏雄くんも命に別状はないって。聞いたし。」


「聞いたと言うと?」


「昨日の夜旦那さんが、見えたんですよ。」


「邦之さんですか?」


「ええ、火事の時はまだ仕事に行ってて無事だったらしいんですよ。」


「仕事っていうと?」


「公務員だって聞きましたけど詳しくは。」


「あの、今皆さんがどこに居るか分かりますか?」

「さーどうですかねー。忙しそうにしてたから聞かなかったんですよ。また改めて挨拶に来るって行ってたんでその時に聞こうと思ってたんですけどねー。」と言い終わる頃に抱えていた赤ん坊が泣き始めた。


「あら、ごめんなさい。」


「いえいえこちらこそお手数かけました。」

「もういいんですか?」


「はい、また何か聞きに来るかもしれないですがいいですか?」


「ええ、構いませんよ。そういえば昨日の火事の時もこの子泣いてたんですよ。もしかしたら火事に気付いてたんですかねー。」


「どうですかねー。」と言ってる間もずっと赤ん坊は泣き続けていた。


 その後も周りの住人に話を聞いて回ったがどこもおんなじ様な情報ばかりだった。その後最寄りの警察署に向かい取材をしようとするが何故か担当者が居ないと言われて取材ができなかったので、警察署の記者クラブに向かった。警察署の中にある記者クラブはどこも署内での禁煙が叫ばれてからタバコの匂いはしなくなったが、何年も壁に染み込んだヤニで壁は何処も黄ばんでいた。


 学校の教室ぐらいの部屋の記者クラブに入ると数人の記者がパソコンで記事を書いていた。


「毎朝新聞の記者はいますか?」と部屋中に声が響くと皆が一斉にこちらを向き、すぐに視線をパソコンに戻した。


 無視かよっ、しけてるなーっと思っていると、部屋の隅の机で記事を書いていた20代ぐらいで眼鏡をかけ目尻が少し吊り上がったキツそうな顔の女の記者が。


「毎朝さんなら3時過ぎぐらいに帰りましたよ。」っと気怠そうに返すと周りで書いていた記者たちが一斉に彼女を見た。


「あ、そうっすか。すんません。」と礼を言った後、警察署の裏口から外へ出ると太陽は沈んでいてその代わりに街灯の光で照らされていた。

 

 敷地の端の方に追いやられた小さなプレハブ小屋の喫煙室へ向かい近くに来ると、中から言い合いが聞こえたので、入り口の裏側で壁に寄って話を盗み聴くと若い男の声で「奴ら誰なんですか‼︎」と言うと歳を重ねた低い声で「わからん。本庁にヤマを取られるのは何回もあるが、あいつらみたいな奴はあんま見ないな。」と言った。


「どういう事ですか?」


「いゃーな、何となくの勘なんだがな、奴ら刑事じゃない様な気がするんだ。」


「刑事じゃない?」


「ああ。」


「じゃあ俺たちは何処の馬の骨ともわかんない奴らにヤマ奪われたんですか?」


「なあ上北、お前もうこのヤマ関わるの止めろ。」


「何でですか原口さん?」


「こんな事件に関わってもロクな事ない。何処の馬の骨か分からない奴らに関わらないほうがいい。」


「そんなの納得できないっすよ。」


「おい上北、関わらないでもいい事に関わると痛い目見るぞ、俺はそんな奴らをこれまで何人も見てきた。な。」と先輩刑事が諭す様にいうと、後輩刑事はいきなり歩き始め、バスッと引き戸を開けて、開けっぱなしでそのまま出て行ってしまった。


 一通り聞いた後、何食わぬ顔で喫煙所に入るとブラウンのスラックスに半袖のワイシャツを着た小太りで顔の大きい定年間近な印象の刑事がタバコを吸っていて一瞬私を見ると、窓の外に向き返った。


 私は背広のポケットからホープのスーパーライトを取り出し、口に咥え火をつけ深く煙を吸って、体の重荷がドット抜ける感じがした。


「あんた見ない顔だね?」っと声を掛けられたのにはびっくりした。


「エッ?俺ですか?」


「おめえ以外にこの中に誰がいるよ、記者さんかい?」


「あっ、はい毎朝の緒方です。」とタバコを咥えて背広の胸ポケットから名刺を取り出した。

「緒方公一か〜、いい名前だ。調査報道班ってのは警察みたいなことをやってるのか?」


「ええ、まあ名前はかっこいいですがね、やってる事は発表されたのをそのまま垂れ流してるだけですよ。」


「ああ、そうかい。」と言った後一吸いして口に含んだ煙をもわ〜っとはきだして「でその記者さんが、何でこんなところに?今日は大した事件も無かっただろうに。」


「ええ、いっつも居る奴が急用で、ヘルプたのまれちゃいましてね。」


「はっは〜、それはご苦労なこった。」


「いえいえ。」と言った後30秒ほど の沈黙があった。


「緒方さんよ〜。あんたさっきの話聞いてたんだろ。」


「バレました?」


「バカヤロー、俺はこれでも40年でかやってんだ。お前らみたいな若造の嘘なんてすぐ見抜けんだよ。」


「すいません。」


「まあいいやな。それよりあんた、昨日の火事を調べてんだろ?」


「ええ、まあ。」


「さっきの話だが、昨日の夜に何処の誰ともわかんない奴らが、資料全部持ってきやがった。多分警察じゃねえぞ。全身黒ずくめに白いワイシャツ。まるでメンインブラックだ。公安かもっと上か。まあこのヤマ追うんならあんたも気を付けな、ああゆう連中は限度ってものを知らねえ奴らがが多いから。」


「参考にします。」と言うと原口という刑事は喫煙室から出て行ってしまった。


 喫煙所の外を歩いていく原口と呼ばれていた刑事の背中を眺めてながら吸い終わったタバコを据置の灰皿に押しつけ火を消す。


 警察署を出て駅の方に歩いていく途中に班長に電話を掛けるとプルルルプルルルと鳴ってから直ぐにキャップが出た。


「おう、何かでたか?」無神経に大きな声が聞こえた。


「さっきのき現場に行ってから警察署に行ったんですけどね、あの事件怪しいっすよ。」


「何が?」


「詳しくは、会社に帰ってから話します。」


「おう、わかった。じゃあ待ってるからあ早く戻ってこい。」と話を終わらせようとするので話をつなげる様に、「ああ、あとちょっとキャップに頼みたいことがあるんですけど、いいですか?」


「おうっ、 なんだ?」


「昨日うちの新聞でこの事件の取材をした記者を探してもらっていいですか?こっちで会えなかったんで。」


「おう、わかった社会部のデスクに話、通しとく。お前この後どうする?」


「一応、この辺りの病院を回って被害者の家族から話を聞きたいと思ってます。」と言い終わるとプチっと通話が切れた。



***




 会社に着いたのは9時前で直ぐにオフィス行くとそこは男の汗の匂いが充満していて、3時ごろには考えられないほどの人が溢れかえっていた。皆翌朝の朝刊用の記事を締め切りである夜中の1時までに上げるため記事を書いていた。



 班長のオフィスに向かうと扉のガラス越しに、老眼鏡を掛けながら机の端に少し座りながら原稿を読んでいるキャップが見えた。ノックするとこちらに気付き、 持っていた原稿でわたしを入るう様に促した。


「失礼します。」とオフィスに入ると机の前にある 茶色のくたびれたソファーに座る。


「おう、よく戻ったな、で何があったんだ?」と言いながら目の前に座ったキャップに現場に行った時に撮ったスマホの写真を見せると、首に紐で下げていた老眼鏡を掛けた。


「こりゃ凄い燃え方だな〜。これがどうしたんだ?」


「さっき 八王子の現場で撮ってきたんですけど、両隣の家を見て下さい。


「何だこれ、全く燃えとらんな。」


「そうなんですよ。しかも 周りの人で屋内にいた人達は皆、 火事に全く気づかなかったって言うんですよ。」


「何でだよ。」


「今はまだ分かりません。」と言うと班長はスマホを返したあと、自分の頭を摩り出した。


「うーん。でもこんだけだ厳しいなスポーツ新聞じゃねえんだ。」


「でもそれだけじゃないんですよ。」


「さっきちょっと辺りの大きな病院に電話を掛けて調べてたんですけどね、被害者の家族がいないんです、しかもこの事件を記事にしてるのうちの会社以外にないんですよおかしいと思いませんか?」と言うとキャップはソファーから身を乗り出した。


「それでさっきの電話か。」と言われ自分も身を乗り出した。


「はい。さっき現場に行ったあと警察署の記者クラブを見てきたんですけど。うちの記者がいなくて話聞けなかったんですよ。もしかして警察署内部で記者クラブに対して圧力があったんじゃないかなって思って。で、どうでした?」


「記事を書いたやつは東山って女の記者らしいんだがな、さっき社会部のデスクに聞いたんだが今日は休みだって言うんだよ。」


「おかしいっすね、記者クラブで聞いたら3時ぐらいに社に戻ったってどっかの記者が言ってたんですよ。」と聞くとキャップは腕を組んだ。


「そりゃおかしいな。まあこの件は俺が調べといてやる。他にまだあるか?」


「はい。さっきの警察署の喫煙室で聞こえてきたんですけどどうもこの事件、所轄がヤマ横取りされたみたいなんですよ。」


「なんだよお前、そんな面白そうな話最初に言えよ。」と言われたあと、私は小声出「すいません。それでその横取りした奴らってのがどうも警視庁じゃないらしいんですよ。」


「じゃあ何処なんだよ?」


「さあ、なんでも昨日の夜のうちに資料を全部持ってかれたって、ベテラン刑事風の刑事が言ってました。その人が言うにはメンインブラックだって。」


「メンインブラック?映画のか?」


「はい。」


「じゃあ何だ、そいつら宇宙人追ってるってことか?大体何だよ、そのベテラン刑事風の刑事って?」


「よくは知らないんですけど、原口っていう、おじさんの刑事でした。」


「どっかで聞いた気がするな。」と言って班長は少し考えた後「なんか久しぶりにでかい陰謀の匂いがする。」と言い体を起こし嬉しそうに言った。


「真相に近づいたら殺されちゃったりして。」と冗談を言うと。


「大丈夫だ、それを俺が調査して記事にしてやるから。安心して死ね。」と本気か冗談か分からないくらい真剣に私の目を見て言ったあと、大笑いして「久しぶりにいい仕事してこい。」と激励された。


 私はキャップに殺されるのじゃないだろうか。

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