第20話 それぞれの戦い⑩~涼也~

俺は就職した介護サービス会社が、業務委託を受け負う市立の養護老人ホームにて働く事になった


直ぐに思い描いていた介護との、余りの違いに…いや仕事内容とかじゃなくて


市の職員と、介護サービス会社の職員の立場の違い。とか。 施設内で当たり前に行われている事の


余りの悲惨な惨状に


俺はショックを受けたんだ


-


涼也『あれ、新川さんどこか行くんですか?』


『子供にご飯を作らなければならないから帰らなきゃなんだよ』


涼也『 そっかもう夕方だもんね』


認知症のお年寄りにとって、施設内の廊下を歩き回るにはきちんと意味があるんだ


例えば 一日中歩いているおばあさんはさ


『子供にご飯を作らなければならない』


おじいさんは


『仕事に行かなければならない』


黄昏時と言われる夕方になれば


『子供を迎えに行かなければならない』


『夕飯を作らなければならない』


『家に帰らなければならない』


その人その人の深い理由があるんだ


涼也『新川さんは凄いね。 朝から晩まで働いて大変なのにさ。子供さんのご飯を毎日きちんと手作りしてさ』


『それが親と言うもんだよ』


俺は、新川さん。入居者のおばあさんと一緒に歩きながら、ちょっとでも気持ちが他に向くキッカケは無いかな?って探りながら…


『御厨くん、○○ちゃんは一時間も歩いてるの。『家に帰る』しか頭に無いし。もう車椅子に乗せて!』


涼也(…)


あり得ないだろう?お年寄りに向かって"ちゃん"呼びとかさ…


車椅子に乗せて=車椅子の後ろに紐を付けて廊下の手すりに…


『拘束』


お腹にベルトを巻いて… 車椅子から立ち上がれない様に…


なぜそのような事をされるのか分からないお年寄り達にとっては、恐怖でしかないよな


大声で叫んだり泣いたり


職員の都合を優先させるってマジあり得ないぜ


ショックだった。その行為に慣れてはいけないんだ。その様な、施設ここだけだよな?…初めに働いた所が、たまたまそういう施設であったと信じたいよ


大多数の施設が、その様な事をしていないと言い聞かせて…


慣れる事…受け入れる事なんて…納得が出来なかった…


俺は人への優しさを忘れない!その様な人間でいようと固く誓って…介護の仕事にやりがいはある。俺は、お年寄りが大好きだから…




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