山の話
創作民話
第1話 何かの飯
ある若者の出身地にまつわる話です。東京の大学に通う若者の出身地は、中部地方の山奥にある小さな集落で、彼が大学3年生の夏に故郷の集落に帰省した時のことです。
私の故郷は、東京のアパートからだと電車とバスを乗り継いで4時間ほどかかる山奥にあります。特に集落へ向かうバスは1日4本しかないような場所です。バスを降りると蝉の声、熱いものの山奥なのもあって東京にいるよりは幾分かマシな気温でした。バス停から、小さい頃よくカブトムシを捕まえた懐かしい木や、錆びた看板を眺めながら実家に向かい、実家に入ると母が昼食の支度をしており、私に気づくと疲れたでしょうと声をかけられました。
しばらくするとちゃぶ台に料理が並び始め、母は仏壇と壁に打ち付けられた板(小さな棚のようなもの)にも小さくよそった食事を並べてからちゃぶ台に戻って昼食を取り始めました。
その日はやることもなかったので食後は昼寝と夕方に散歩をして、夜になりました。テレビのお笑い番組ボーっと眺めていると父が帰ってきて夕食が並び始めます。母はまた仏壇と壁の板にご飯を盛りつけた器を乗せます。今まで気にも留めませんでしたが、思えば幼いころから母も、亡くなった祖母も同じことをしていました。奇妙なのは神棚は別にあるということでした。「それ、何のためのご飯なの?何かのお供え?」と母に聞くと、わからないといいます。母も昔祖母に聞いたものの、やはりわからないと答えられたそうです。その地域の家にはどの家庭にもこの棚があり、だれにもその意味はわからないということでした。
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