退社

雨野 じゃく

退社

ます。

彼の中で苦悩の負債がたまりにたまっていきます。

しかし、彼にはこの一言が言えません。

「会社を辞めたいです。」

彼は自分を偽って生きてきました。

面接のときも、新入社員歓迎会の時も、働いている最中も、自分はこの仕事を否定しているとは周りには言えません。

そのことを主張することは、働いている従業員を否定することになるからです。否定された人間は、相手に対して攻撃をするのが常です。

さらに、もしそんなことを口にしてしまえば、自分はうそつきだと思われます。それもそのはずです。彼は自分を偽っていたのですから。

しかし、言わなければ一生苦しみ続けます。

彼は自己防衛のために他人に都合のいい生き方をするか、自己防衛のために自己主張をするかの二択を迫られています。

彼は精神は限界です。

彼は思い切って課長に告げることを決心しました。

彼は休日、携帯を手に取ります。

心臓は波打ち、手は震えています。その手で電話をします。

薄くコール音が鳴ります。

課長が電話に出ました。

きたっ

「お疲れ様です」

「ん?どうした?」

僕の声は震えています。

「突然ですが、会社を辞めさせていただきたく思います。」

「どうした突然、明日詳しく聞くから。」

そういってその日は終わりました。

それから後日、彼は上級職の面々と話し合いをして、何とかやめることになりました。

やめるまでの一か月間、確かに周りの人から敬遠されている感じはありましたが、特に怒鳴られたり、いじめられたりすることはありませんでした。

彼が辞めるという前に感じていた恐怖は、なにも実現しませんでした。

そもそも、何が起こるか、一切明確にしていませんでした、ただ漠然とやばいことが起こるんじゃないかと感じていただけだったのです。

彼は今、仕事を辞めてから自分を見つけ、その作業に没頭しています。

彼は生きがいを蓄え始めました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

退社 雨野 じゃく @Haruto_Okuyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ