第27話 フラストレーション
- 対人戦交流試合 合技部 -
ペアで戦う人たちが集まる場所へ移って父親を見つけた。
もう戦う相手は話をつけてあると、同じ顔の子供2人とそれに似た顔の大人と引き合わされた。双子っていう種類の兄弟とその…母親だろうか。全員の髪の毛の色が薄い赤い色だ。
「まさかガドル家のご子息たちから御指名いただけるなんて、こちらとしても光栄です。今日はどうかお手柔らかによろしくお願いします」
「ふふ、以前の借りがございますので。今回はそちらの領分でお相手しますわ」
大人同士がニコニコ話しているけど、母親の顔は笑いながら眉毛が吊り上がっている。後ろにいる双子も怒っているようにこっちを睨んでいた。前にレンにぶっ飛ばされて怒っているとかかな。だとしたら最初からあっちは本気で来るだろうから気をつけないと。
「お前たち、いいか? まず落ち着いて互いの呼吸を意識しろ。もし疎通がいかなくなったら、声を掛け合ってもいい」
自分たちの枠の側に着いて、父親が俺とレンの肩を揺らす。「やっつけてこい」と背中を押され、2人で「はい」と返事をした。
「あの双子に何かしたのか?」
さっきより枠が広くて、真ん中へ歩く途中で何となくレンに聞いてみた。
「んえッ…しっしらねぇけど……なぁナナシ」
「なんだ」
「後で…さっきぃ何考えてたとか、教えてくんねぇかなぁ…なんて」
「「極錬」」
返事の前に重なった声が飛んできた。向かい側の双子だ。
「たかが対人戦でしか日の当たらない卑小な道場に…兄さんが随分世話になったみたいだね。お陰で皆から尊敬され、血気盛んだった姿が今では見る影もない燃え尽きた灰のよう」
「尊敬は他者の嫉妬も集めやすい。ガドル家の名に泥を塗られ、僕たちがどれだけの屈辱に耐えてきたか…」
「「せめてこの勝利で返上させてもらう」」
静かに怒りながら腰に下げていた先の丸い剣っぽいのを抜いて俺たちに向けてくる。まるで隣に鏡が置かれているみたいに同じポーズ。わざと臭くてふざけているようにも見える。それでもレンは怯えて口をパクパクさせていた。
「極道場ペア、極錬、極ナッシー。メローリップペア、ガドル・エン、ガドル・ミラ。両ペア、構え!」
まだレンが固まっていたので背中を叩いて戻してやり、俺も構えて2人で戦う時の練習を思い出す。
「始め!」
合図で俺の交差させた腕の上にレンが乗った。レンはいつもの構えで力を溜め、放つ瞬間に合わせて俺が力いっぱい打ち上げると高く高く飛び上がる。
上と正面から相手を騙す作戦。これを教えられた時、最初なんで俺が下なんだと思ったけど、飛んだり蹴ったりはレンの方が得意だし、昔から男は下っていうデントウらしい。
レンが上で相手の目を引いた隙に走って近づく。
俺に気付いて攻撃してくるかと思ったけど、双子はお互いに剣を合わせて弾き、ツルツル滑るみたいにして左右へ別れた。滑れるようになる生体質なのか。だとしたら強く打ったとしても弱点以外じゃ意味がないかもしれないな。上から見てるレンもそう思うはず。
剣が俺を挟み込むように突き立てられて、滑りながら突っ込んでくる。右側は手で顔を庇って守り、左側はしっかり見て避ける。一気に左側の剣を掴んで引き寄せ、降りてきたレンの蹴りを当てさせた。吹っ飛んで受け身を取っている隙にもう一人を狙う。
前へ攻めて、攻撃を右手で防いだらツルツル滑らないよう足を踏み、レンの蹴りを頭を下げて送り出す。
「?!」
途中、さっき吹っ飛ばしたはずのもう一人が剣を盾みたいにしてレンに突っ込んできた。受け身からすぐに滑って来たとしても速すぎる。
横からの剣を防いだレンが吹っ飛ばされて、一気に立場が逆になってしまった。2人からの攻撃が次々きて俺は防ぐことしかできない。鏡みたいな動きだったり、バラバラだったりで段々防ぐのも難しくなるし、右腕と違って左腕が痛い。
「ナナシ!」
右側からレンの声。何かやろうとする合図だ。
声に双子の目が一瞬いった隙に前蹴りで左の方を後ろに引かせ、右をレンと挟み込む。レンの回し蹴りを右はしっかり見て避ける。ここか。
回し蹴りが俺の方に来て、右腕で受け止める。レンはそのまま俺を壁にして跳ね、飛び蹴りで追い撃つ。肩に当たって滑りながら勢いを減らされていたけど、痛そうにはしていた。
レンが俺の近くに戻って構え、双子も揃って剣を向ける。最初の形に戻った。どう仕掛けるか、お互いに様子を見合う。
どちらかといえば、攻撃を入れた回数はこっちが多い。体力も余裕があるし、このまま待てば点数で俺たちの勝ちになるかもしれない。ただ気になるのが、あの双子がまだ見下ろしているような顔をしていることだ。怪しい。もしかしてツルツル滑ってるのは片方の生体質で、もう片方はさっきみたいに速く動けるやつだったりするのか。
予想しながらレンと目を合わせて攻撃を仕掛けた。レンが生体質の全力で突っ走り、避けた双子の間を抜けて滑りながら振り返る。
流石に今度は一人が後に続く俺のことも見ていて、それぞれ目が合った者同士で一対一になった。これは都合がいい。一対一ならレンに勝ち目は十分あって二対一に持っていける。それまで俺は耐えればいい。
剣は長く強いだろうけど素手より遅い。それに切れる剣じゃないし、俺の右手は叩かれても痛くない。油断して変な体勢にならなければ、なんとかなる。
……
…いや、おかしい。自分たちより大きい兄弟を倒したレンの強さを双子は知っているはず。普通だったら一対一にはしない。さっきの怪しさもあるし、何か秘密の作戦でもあるのか。だとしたらレンが危ないんじゃないか。
急いで打ち合いを止めて、後ろに退きながらレンを見る。相手が逃げながら戦っていて俺から少し離れた場所にいた。そして気づいた。
あっ、俺だ…
そう頭に浮かんだ次の瞬間、俺の相手がパッとレンの方のもう一人に向かって手を伸ばす。ロノイ君の時と同じだ。もう一人が滑りながら勢いよく引き寄せられて、重なった剣が俺に向けられる。
最悪だ。確かに先にやるなら俺になる。いや、でも2人を相手するのは痛くてもレンが来るまで防ぐことに集中すれば…?!
「…え」
「ナナシ!!」
レンの声が聞こえたのと同時に目の前が真っ白になった。何が起きたかもわからず、一気に全部の力が抜け落ちてチカチカと目がうるさいのに凄い眠気がやってくる。
- 約1時間後 医務室 -
「あっ目が覚めましたね。体は動く?」
真っ白な服のおばさんが笑ってお爺さんに話しかけるとこっちを見てくる。
「…はい」
「お母さんが頑丈に生んでくれて感謝ね。まだ痺れるだろうけど、軽傷で済んでるわ。それと右手の日焼けカバー、頑なにお父さんが外すなっていうから見れてないんだけど、痛かったりしない?」
…また気絶か。頭がボーっとして身体がビリビリする。でも剣を防ぐのにボコボコになっていた左腕が痛くない。少しずつ何をしていたのか、ここがどこなのかがはっきりしてきた。
「左手ありがとうございます、右も大丈夫です。…あの、試合はどうなりましたか?」
「う~ん…残念だけどね…」
おばさんはここの画面から試合を時々見ていて、詳しくはよく分からなかったらしいけど、怪我から見るに電気のビリビリを喰らったんじゃないかという。
武器に何か仕掛けるのはダメだし、そんな感じはしなかったから違うとすると、滑る力と引き寄せる力、それに電気…双子は3つ力を持っていたということになる。生体質の図鑑にそういう人はとても珍しいとあったから気をつけていなかった。
あの後、レンは俺が倒れても戦って最後は時間が足りなくて負けてしまったらしい。俺がいないから次の試合にも出れなかっただろう。それを考えると苦しい気持ちになる。
「凄かったのよぉ、怒っちゃって大暴れ。相当あの子に好かれてるのね」
「…レンたちは?」
「今は表彰式の途中かな。お父さんが来るまではゆっくりしてなさい」
おばさんは報告があるからと言って、結んでホウキみたいになっている髪を揺らしながら部屋を出て行った。体はもう動くし、レンたちの所へ戻ってもいいのだけど…
横になって天井をじっと見る。あの時、普通に考えればすぐに分かることだった。レンから離れていたのに気づかなかった。それにすぐ右手を使っていれば電気を避けられたかもしれない、もっと息を合わせて技を出せていれば一人倒せていたかもしれない…
レンの声…思い出したら、ずっと心配しながら戦っていたような気がしてきた。…苦しく、モヤモヤするだけの時間が過ぎていく。
どうしてだろう。最近、こんなことばっかりだ。
「……フゥ」
このままじっとしていると色々考えすぎてよくない。レンたちが何をしているかも気になるし、まだ外の様子でも見ていれば気分も軽くなるかも。そう思ってベッドから出た。
試合をやる広い場所に戻ると人が散り散りにいて、あちこちで片付けをしている。俺が横になっている間に全部もう終わってしまったらしい。
端っこ側の方に試合に出ていた人たちとその担当の人たちが集まって、何かおしゃべりをしているような感じだった。その中でもレンは目立つからすぐに見つけられる。人を避けて進み、やっと近づけた時だった。
「助かりました。丁度、息子もペアがいなくて練習に困ってたんです」
「いえいえ、こちらこそ。娘にもいい経験になったと思います」
ガヤガヤとしている中でレンたちが誰かと話しているのが聞こえてくる。見ると髭を生やした大きなおじさんと不機嫌そうなツンツン頭の男の子がいる。何の話をしてるのだろう?
「どうですか、いっそ息子とペアを組み直してみませんか?」
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