第23話 歯を食いしばれ

あの後……

俺が意識を取り戻した時には、

ヒジリさんも義極の面々も姿を消していた。



ヒジリさんはツカサにいくつか質問をしていったらしいが、

ハテシナと何か関係があるのだろうか?


ハテシナについて色々と聞きたかったのに、

誰も俺が意識を取り戻すまで待っていてくれないなんて……


世界はなんて世知辛いのだ。



昨日の今日でコーヒーを飲むのは怖かったので、

俺はオレンジジュースを片手に、ふて腐れていた。



「昨日は大変だったなぁ、

 まさかタクオが死にかけるとは思わなかったぜ」


「私が着いた時は、泡吹いて気を失ってましたよ〜!

 あ、その時の写真見ます??」



クラムちゃん、倒れている人間を激写したらいけません。


しかしクラムちゃんの元気な笑顔を見ていたら、

突っ込む気力も失せてしまうな……



「クラムちゃん、

 俺たちは後どれくらい命の危機を迎えればいいんだ?」


「参加者名簿を見る限りでは、そんなに残ってないですよ!

 このまま順調に他のチームが潰し合ってくれたら、

 おそらく1、2回で済むんじゃないですかね??」



命は1つしかないというのに、

あと2回くらい死なないといけないのか……



「どう考えてもオーバーキルだろ……」



俺が絶望にうなだれていると、

店内にハテシナレイが入ってきた。


ハテシナが消えた代わりに、

こいつも図書カフェの常連と化していたのだが……


そういえば昨日は来なかったな。



「おい、ハテシナレイ!

 お前がいない間、俺は死にかけてたんだ……ぞ……?」



ハテシナレイの表情がおかしい。

怒りを沈めるのもやっとだという顔をしている。


いつもは涼しい顔をしているくせに、

一体何があったんだ……?



ハテシナレイは、まっすぐツカサの元へと歩いていった。



「ねぇ、君さ。

 本当に何も覚えてない訳?」


「??

 だからそう言ってるだろ」


「……そうか」



次の瞬間、ハテシナレイはツカサを思いっきり殴り飛ばした。


あれは完全に本気のやつだ……!!



ツカサが派手に転がって、椅子にぶつかり大きな音を立てる。

店主のおじさんが、心配そうにこちらの様子を伺っていた。



「いきなり何すんだよ!!!」


「ごめん、ムカついたから殴っちゃった」



ハテシナレイが珍しく素直だ……


いや、素直だから良いという訳ではない。

人の事は突然殴っちゃダメだ。



「待て待て待てハテシナレイ!!

 一体何があった」


「みんとす、日本語に訳しておいたから。

 これを読めば分かると思うよ」


「えっ、マジで……?!

 なんでお前にツカサの国の言葉が読めるんだ?!」


「前世で同郷だったんだよね。

 まぁ僕も忘れてたから、人の事は言えないんだけど」



それでもムカついたから殴っちゃった、

とハテシナレイは正直に念を押した。


そこまで言うなら仕方ない、と思わせる程の風格すらある。



「とにかく、それを読めば全部分かるから」



それだけを言い残すと、ハテシナレイは図書カフェを後にした。


おじさんに対しては申し訳ないと思っているのか、

キチンと頭を下げてから姿を消す。


なんだったんだ、一体……



「嵐のように過ぎ去っていきましたねぇ」


「クソっ!

 いきなり殴りやがって……!!」



全くだ。少しは落ち着け……と思うものの、

俺の為に一晩かけて翻訳してくれたというのなら、

感謝せずにはいられなかった。



ハテシナレイから渡された、分厚い紙に目を落とす。

これが、ずっと読みたかったハテシナの物語か……!!



「悪い! 今日は命の危機より読書タイムだ!!」



俺は2人の存在を忘れる程に、

無我夢中で文字へと目を走らせる。


その本は10万文字程度でそこまで長くはなく、

速読に慣れている俺は数時間で読み終えた。


そして……



「お前!!!

 なんで何も覚えてないんだよぉおおおおおお!!!」



読み終わった後。



俺もハテシナレイとは反対側のツカサの頬を、

思いっきり殴り飛ばしていた。

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