第9話 全異世界・表現力コンテスト

「うおぉ! IN☆STARのクラムちゃん!!

 本物だ!握手して欲しい!!!」


「ミーハー馬鹿タスケ、喜んでる場合じゃない……

 国会が、荒れてる……」


「クラムたそスコ、リア充死ね、皆仲良く、の3派閥に割れたな」



なんか知らんが、向こうは炎上している。

画面越しに仲間割れだろうか……?

ネット世界というのも大変なんだな。


「分散されたら、集まらない……

 力が足りなくなる……!!!」


「ツブラギちゃんがチャチャッと脱いで、

 自撮りあげれば解決じゃね?」


「……タスケ、絶許……」


「痛い痛い! つねらないでよ!

 こういう時に皆の心を一つにするなら、

 オッパイしかないでしょーが!!」


「……なら、お前が脱げ……」


「いや、俺そっち路線じゃないからムリ!

 せめてマッチョなカクタでしょ?」


「俺は別に脱いでも構わないが」


「良いのかよ! もうちょっと自分を大事にしろ!」


客観的に見て、とてもしょうもない喧嘩をしている。

俺たちはこんな奴らから、命の危機に晒されていたのか……


「なんだか向こうは大変そうですね〜!」


「あっ! そ、そうだね……!!」


こんな美少女とは話した事がなくて、

俺はキモい程にドモってしまった。というか確実にキモい。



クラムちゃんのフワフワな髪はグラデーションがかっていて、

一色で形容する事が出来なかった。

けれどクラムちゃんの可愛さも形容しきれるものではないので、

もはや言語化は不要だろう……


一言添えるとしたら、生まれて来てくれてありがとう、だ。



「……カクタとタスケ、あんたたちも一応アイドルでしょ……?

 頑張って勝負しなさいよ……」


「いやいやいや!

 あんな異世界テレビにも出てるような

 IN☆STARの女王に張り合える訳ないでしょ!」


「しかも俺たちのユニット名・

 ツインスターはIN☆STARののパクリと言われ、

 かつて炎上した事がある」


「酷いよねあれ?!

 俺たちの方が4年も早く活動してたのに!」


「あれからというもの……

 俺とタスケは狭いアパートに2人で暮らしながら、

 地道にトゥイッタランドの地下で活動を続けた……」



計らずしも、敵の人生に触れてしまった。

どうやら苦労してきたみたいだな……

せめて拡散くらいは協力してあげたい。


「……大体、なんでIN☆STARがここにいるのよ……」


「コンテストがあるって聞いたから、

 映えるかと思って撮りに来ちゃいました♪」


トゥイッタランドの苦節を聞いた後だと、

クラムちゃんの発言が太陽の様に眩しいな……


これにはあの3人もダメージがでかいだろう。

敵ながら、思わず同情してしまう。


「すごいですね〜、その表現!

 バズーカとかめっちゃ映えますよ!!

 写真写真っ♪」


そう言ってクラムちゃんは、

トゥイッタランドの3人を写真に撮り始めた。


カクタとタスケはシャッターが切られる度にポーズをつけていたが、

ツブラギだけは何故か俯いて震えている……

先程まではあんなにガンを飛ばしていた癖に、一体どうしたのだろうか?


不思議に思い、ツブラギの表情を覗き込もうとしたのだが……



「……写真に、顔、写さないで……!!!」



顔を上げたその瞳は、涙ぐんでウルウルしていた……


「盛れてるから大丈夫ですよ〜!

 めっちゃ可愛く撮れてます♪

 写真、アップしておきますねっ!」


「……っ!!!」


ツブラギが、悲惨な程に顔を真っ青にした。



あぁ、根暗の俺には分かってしまう……

盛れてるとか、そういう問題ではないんだ。

俺たちの様な人種は、自分の写メなんて携帯に残さない。

俺たちのカメラロールには、

自分の写真なんてピースしている手くらいしか残されていないんだ……

顔をアップするなんて、もっての他である。



写真を撮る前は、ちゃんと相手に確認しなくちゃダメだぞ!


そうクラムちゃんに注意しようかと思った時にはもう、

ツブラギは泣きながら廊下を駆け出していた。



「この恨み、文字数制限……!!!」



もう再起不能ではないかと心配したが、

捨て台詞を残せる程度の反骨精神は残っていて良かった……


カクタとタスケも、そんなツブラギを追いかけて慌てて走り出す。

カクタの走り方だけ、やたらキレキレのフォームだった。

さすがは筋肉だ……


「すごいですっ!

 トゥイッタランドの皆さんに勝っちゃうなんて!」


倒したのは間違いなく君の精神攻撃だと思うのだが、

どうやら命の危機は去ったようで安心した。


俺が緊張を解くと同時に、

ハテシナレイの弓矢も元通りになっていく。


「コンテスト面白いですね〜!

 見に来て良かったです♪」


「そのコンテストってのは、一体なんなんだよ?」


ツカサが珍しくマトモな質問をした。

そうそう、それなんだよな……

何故命の危機に晒されたのか、まるで理解出来ない。


「えっ? 神のページが更新されたのを見てないんですか??」


「神のページ……?」


「世界が分断された時、

 各異世界の表現者に届いた神の本の断片です。


 白紙のページではないので予定調和の効力はないですが、

 現在は誰でも読める様に共通言語化されていて、

 神様からの世界的周知などに使われています」


神のページって大層な名前のくせに、

やってる事はただのホームページだな……


「世界の分断とかは良く分からないけど。

 表現が使える俺の元にも神のページが届いてる筈って事か?」


「おそらくそうだと思うのですが。

 その世界に対応する記載のあった該当ページが、

 分断されて表現者たちに届いている筈なんですけど……」


「そんなものが届いた覚えはないなぁ」


「う〜ん、宛先が間違ってたんですかねぇ??」


神とか付くものが宛先不備で届かないって、

そんな馬鹿な話があってたまるか?


とはいえ、クラムちゃんには罪がない。

神様にクレームをつける方法も分からないしな……


「それなら、私が持っている神のページを見せてあげますね!」


そう言ってクラムちゃんが差し出した紙切れには、

こんな文章が書かれていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


拝啓・登場人物の皆さん


世界が混沌と化した昨今、いかがお過ごしでしょうか?


この度は神の子の反抗期により、

皆さんの運命に変更が生じました事、平に謝罪いたします。


起きてしまった不祥事に関しましては、

神の子文庫より出版されている

「男もすなる異世界転生といふものを女もしてみんとす」

をご一読ください。


私としましても異世界同士の侵略戦争というのは大変心苦しい為、

この度、全異世界・表現力コンテストの開催を決定いたしました!


世界が神の本を離れ独自の発展を遂げた事により、

表現は文字を越え、互いを吸収し合いどんどん多様化しております。

皆さんの素晴らしい表現を、心待ちにしていますね!


なお、最後まで勝ち残った表現は最優秀賞として、

神の子文庫より書籍化させていただきます。

どうぞ奮ってご応募ください。


神より


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



なんだこの、公募みたいなふざけた文章は……!!



そう思いながらも、俺は書籍化の文字に食いついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る