研究の成果

奈那美

第1話

ヒトミは職場の自分のデスクの椅子に座り、パソコンの画面を見つめていた。

両手はキーボードの上に置かれているが、動く気配はない。

だが仕事をしているポーズを取りながら、サボっているわけではなさそうだ。

その証拠に、小さいながらもブツブツ呟く声やうめき声のようなものが、ヒトミの口からこぼれていた。

 

「どうしたの?ヒトミ。ずっと唸ってるけど、具合でも悪いの?」

隣のデスクのユカリが尋ねた。

ヒトミとユカリは、入社時期は違うが歳が同じなので、普段から仲もよく、気やすく話す間柄だったのだ。


「ああ。ユカリ。ゴメンね。うるさかった?」

「ううん。うるさくはないけど、珍しいなと思って」


ヒトミはパソコンの画面から目を離し、隣のユカリの方を向いた。

ずっと画面を見ていたせいか、目が充血している。

「ああ、また目が真っ赤だよ。ほらほら休憩休憩。ゴハンしに行こう。」


ちょうど休憩を知らせるチャイムが鳴ったので、ユカリはヒトミを昼休憩に誘った。

 

行きつけのパスタ屋に入ると、ユカリは「ランチ二つね。」とヒトミの意見も聞かずに注文して、席に着いた。

ヒトミはユカリの向かい側に座るなり、ため息をついた。

 

「もう。ヒトミったらどうしたの?いつものあんたじゃないみたい」

「うん。私、どうしていいかさっぱりわからなくて」

「だから、何があったのよ。ユカリさんに話してみなさいって」

 

ユカリにうながされて、ヒトミは今朝からの事を話しはじめた。

「実は、今朝、課長に呼ばれてね・・・」

 

ヒトミが話している間に、テーブルに運ばれてきたパスタセットのランチを食べ終えたユカリは『冷めちゃうから、食べちゃいな』と、話を終えたヒトミに食べるようにすすめ、食後のアイスコーヒーを飲みながら言った。

「要は、来月の会議でプレゼンしろ…というわけね」

ヒトミは、サラダのキュウリをフォークでつつきながらうなずいた。

 

「無理だよ…やり方もわからないし、何からどう考えたらいいのかもわからないし。みんなの前で話すのも、怖いし」

「あんた引っ込み思案だしね。それにしても、売れそうな商品の企画を出せなんてね。もちろん、売れなきゃダメなのは当たり前なんだけど…課長ハードルあげすぎ」

「私には無理ですって、断ろうかな…」

「ヒトミ、自分で断れる?課長に直接」

「…れない」

「じゃあ、なんとかするしかないじゃない。…わかった。じゃあ、ユカリさんが力を貸してあげよう」

 

「え?」

「手伝ってあげるって言ってるの。1人じゃどうにもならなくて、うなってたんでしょう?午前中ずっと」

「そうなんだけど…一緒に考えてくれるの?」

「まさか。私には、私の仕事があるもの」

「え?だって、手伝うって」

「仕事の後に…よ。仕事中にヒトミが考えたことに対して、私の意見というか考えを言う」

「…うん。でも、仕事の後にって…いいの?その…デートとか」

「あ、そんなこと?気にしない気にしない。今、農閑期だし」

「…ありがとう。ゴメンね」

「いいってこと…食べ終わったら戻るよ。休憩時間終わっちゃう」

「あ…待って!」

 

ユカリの言葉に安心したのか、やっとヒトミはいつもの調子を取り戻して、パスタランチをものすごい勢いで完食し、オフィスに戻った。

デスクに戻る前に、ユカリはヒトミに『宿題』を出した。

それは『なんでもいいからヒトミの好きなもの、興味があるものを200個リストアップすること』

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