第5話 「目指せ真夏の一番星!」

タイトル 「目指せ真夏の一番星!」


 2017年~8月~真夏のインターハイ 

 

 水平線に沿って広がる闇を朝日が照らし始めそれらを消し去ろうとする頃、一心と流稀亜は合宿所の入り口付近で準備運動した後、スタートラインを決めてポーズをとっている。

「勝った方が牛タンね」

 一心がそう言うと流稀亜がうなずく。流稀亜は陸上選手の様にクラウチングスタートをしながら真剣そのものだ。それを見てぞっとする一心。「まじかよ…」

「いいよ」

 集中力を高めながらそう言う流稀亜。

「あ、ちょっと待って、テールスープと麦飯は大盛でもいいの?」

 一心は流稀亜の集中力を紛らわそうとどうでもいいことを話す。

「え?シン調べたの?」

「まあね、店によっては別々の所もあるみたい」

 流稀亜の表情が緩む。

「用意スタートで、スタートね。いい?」

 一心は流稀亜を確認するようにして見ている。

「用意…」

 流稀亜を置き去りして全速力で走る一心。置き去りにされた流稀亜は驚いている。

「え?シン?」

「ごめんルッキー、まともに勝負したら負けるからお先!」

 一心と流稀亜は初めて出るインターハイに心を躍らせて体育館までの到着を競争していた。目的は一番のりで体育館に入りシュートを決めること。先に3ポイントシュートを決めた方が勝ち。負けた方は昼飯を御馳走することになっていた。そんな子供じみた賭けを合宿所からスタートさせて猛ダッシュした。しかし、ズルをして先にスタートしたにもかかわらず途中で一心が抜かれそうになる。

「ごめんね」

「え?何が」

 一心の手が流稀亜の学生帽に触れる。

「あ、イケメンの帽子が…ずるいよシン!」

 一心はボールを持つとなぜか足が速くなるが、普段は走るスピードはそれほど速くなかった。しかし、流稀亜は違った。短距離走の選手並みに足が速い。今から陸上競技に変更してもインターハイぐらいなら出場できるほどの早さだった。そんな流稀亜とまともに勝負しても勝ち目はない。一心は笑いながら謝る。

「ごめん、ルッキー!ルールブックに書いてなかったから!」

「…イケメン卑怯な手は許さない」

 校門手前。あとは一直線に伸びる道を少し先に走る一心めがけて流稀亜が猛ダッシュしてきた。ぐんぐんスピードが上がる流稀亜。

「ゲ、やばい!」

 ほぼ同時に校門を抜けると急いで体育館の重い扉をお互いに開く。しかし開いた瞬間呆然とする一心と流稀亜。集合時間は7時30分。体育館に到着したのは5時45分。誰もいるはずのない体育館で一時間ほど汗を流すつもりだった二人はキョトンした顔をしていた。

「なんだ、お前ら早いな」

「…おはようございます…南禅寺さん」

 キャプテンである南禅寺はすでに体育館に到着して汗を流していた。

「早い…ですね」

「いったい…何時?」

「ああ、俺も少し前に来たところだ。落ち着くだろ、こうやってシュート打っていると」

「…」

「お前たちもか?」

「はい!」

 一心は南禅寺を心から尊敬していた。その日以来、一心は試合前に朝に体育館に寄ってシュート練習する事がルーティーンになった。



タイトル「真夏の激闘」


 1年の夏のインターハイは東北が誇る100万都市、仙台で行われた。総勢51校が一番星を目指して戦うその大会は6日間。様々なドラマが生まれる訳だが、どんなドラマが生まれても結果的に優勝するのは1校のみ。そう最後まで笑っていられるのは一校しかないのだ。優勝が期待された帝国高校は前評判では優勝候補の一角にあげられていた。だが、簡単に優勝できそうな雰囲気はない。帝国高校がいるAブロックを順調に勝ち進んだとしてもその年の5月に行われた「強者の集い」で優勝した北海道代表 本別国際高等学校は2メートルの双子の飯田兄弟に加えて高校ナンバーワンディフェンス力の持ち主、赤井 翼がいる。どちらにせよ簡単には行かない戦いになる。そしてもしそれに勝ったとしても反対側のBブロックには、超高校級と言われている今大会NO,1選手の三浦率いる大阪常翔学園がいる。おそらくこの3校の三つ巴になるだろうが、5月の能代市で開催された「強者の集い」では北海道代表の本別国際高校が優勝、2位が大阪常翔学園、3位が帝国高校だった…



 宿泊先の旅館「亘」の大広間「奥の中道」に帝国高校バスケットボールの部員が全員集合して座っていた。中央にはキャプテンの南禅寺 清隆がどっしりと構えて座ってる。応援団も含めて広間には総勢50人ほどが座っている。緊張感が張り詰めるその場所で全員が目を閉じ、南禅寺の指示で目を開ける。

「やめ~い!」

「…」

 一人一人の顔を確認するように目線を細かく向ける南禅寺。そしてその南禅寺が一度大きな声でいきなり罵声にも似た叫び声をあげる。

「優勝するぞ!」

 静まり返っている旅館のいたるところにその声が木霊する。静寂な空間に対して点を打つかのように庭先にあるししおどしが何度か響くと間をため込むようにしてまた南禅寺が話し始める。

「みんなも知っている通り、俺たち元名門の帝国高校は過去5年全国優勝から遠ざかっている。ベスト8やベスト4止まりになるにつれ全国から人も集まらなくなった。しかし今年、俺達に風が吹いた。情けない話だが3年生で試合に出ているのは俺だけ。でも決して、俺たちのレベルが低いからではない。1年の神木、暁、佐藤に加えて2年の折茂、関口、枡谷、全国のチームと比べても劣っているわけでない。最高峰のレベルでの結果だと思っている。だからベンチにいる3年、2年も胸を張って頑張ろう。そしていつでも変わって出れる準備をしよう。ベンチに座る全員、そして応援に来ているみんなと全員でこの大会、乗り切ろう。そして名門を俺たちの手で復活させよう!」

「おう!」

南禅寺が大きな声を張り上げる

「この夏は俺たちが制する!」

「おう!」

南禅寺 清隆 はプレーこそ派手ではないがここぞという時にはシュートを外さない公私ともに責任感のあるプレイヤーだった。バスケット選手としては特別優れているわけではないが一心は南禅寺のそのリーダーシップとしての舵取りの仕方を尊敬していた。

南禅寺が口を開く。

「神木!」

「はい」

「なんていってもリードガードのお前に大きな負担がかかると思うけどそんなの気にしないでいつも通りプレーしてくれ!」

「はい」

「神木、何か聞きたいことや言いたいことはあるか?」

 下級生の一心に対して南禅寺が気を遣ってそういうと一心は真剣な表情で考え始めた。

「何でもですか?…そうだな、何でもいいんですか?」

「いいぞ、好きに言えばいい」

 微笑む南禅寺。

「チャクラってあるんですか?」

 一心がそういうと驚いた表情をする南禅寺。流稀亜はまた天然発言が出たかと半分呆れた顔をしている。

「…チャックラ?」(こいつの頭は…お花畑か?)

「はい、南禅寺さんは有名なお寺の跡継ぎだって聞いてますが、チャクラってあるのかなって?」

「それを今聞くのか?ははははは」

 集まった大広間の「奥の中道」に笑いが漏れる。

「チャクラが何で必要なんだ?」

「いや、チャクラがあったら関口さんの肥満や折茂さんの剥げが治るかなって思って…」

「…ははははは」

 南禅寺をはじめ、その場の全員が大声で笑っている。そして折茂と関口が一心を睨み付けている。それを見た流稀亜が口を開く。

「…シン…イケメンでもまずいと思うよ今の会話は?」

「え?…何か変なこと言った?」

 折茂がやりきれない表情をしながら声を上げる。

「ちっちっちっち…誰が剥げだって?俺は少しだけ額が広いんだよ!」

「はははは」

 関口も不満そうに口を開く。

「そして俺は肥満じゃねえ。鍛えてるんだ!」

 関口は自信満々に言っている。

「はははっは」

 一心のその天然発言で緊張感のあったミーティングも笑いが絶えなくなった。

「ちっちっち、一心よ~」

 今度はお返しとばかりに折茂が口を開く。

「はい、何でしょうか?」

「ちっちっち、チャクラでお前も足が短いの治してもらえよ!」

「…」

「ははっははは」

「…短くないですよ。まだ成長期なんですから!」

「はははははは」

 笑いながら折茂また口を開く。

「ちっちっち、ひょっとしてお前、もう一つの脚も成長期かよ?デミタスコーヒーだな」

 折茂が口を開くと一心は顔を赤くしている。

「はははっはは」

 すると流稀亜が一心の肩を軽くたたく。

「シン…自滅発言だったね」

「何だよ、流稀亜まで」

 少しふてくされた顔をする一心だがその天然発言で緊張感のあったミーティングも笑いが絶えなくなりいい形で終える事が出来た。そんな中でも南禅寺は一人冷静にみんなの表情を確認するように見て何かを考えこんでいる様子だった。



 その後コインランドリーで流稀亜、佐藤と一緒に洗濯物が洗い終わるのを待っている一心。1年生は上級生の洗濯物をするためそれなりの量の洗濯物をこなしていた。入り口に付近にいた流稀亜が口を開く。

「いよいよ始まるね、9冠への道のりが…」

 流稀亜がそういうと一心が口を開く。

「そうだね。まずはインターハイ優勝…」

 佐藤は悔しそうな表情でそういう。

「ワシはスタメンでは出れんけど応援してるけんね」

「うん、でもノブも6人目の選手なんだからいつでも試合に出れるように常に体を動かして準備していてよ!」

「わかっとるけん!」

 そういったノブが入り口付近を見て少し驚いた顔をしている。一心と流稀亜が目線の先を見るとキャプテンでもある南禅寺がコインランドリーの前に立っていた。

「俺も仲間に入れろよ!」

 南禅寺が口を開く。

「南禅寺さん…何度も言ってるじゃないですか、洗濯は1年の俺らがやりますから」

 そういうと、コインを入れた後で洗濯機に洗剤を入れて自分の洗濯物を回し始める。

「…ダイジョブ。気が紛れるんだ、こやってバスケ以外のことをしていると」

「だったら、ワシらが洗濯をやってるけん、南禅寺さんはコンビニでも行って雑誌でも読んどどってください。その先のコンビニはイートンインもあるとです」

 佐藤がそういうと口を開く南禅寺。

「ありがとうな。でも感謝してるのは俺の方なんだ…」

「何をですか?俺たちだって南禅寺さんに…」

 そう話す一心の口元を止めて南禅寺が口を開く。

「…俺にはわかるんだ。今年は間違いなく俺たち、元名門、帝国高校の大きな台風がこのインターハイに吹く…そして台風の目はお前たち一年生トリオ、一心、流稀亜、お前たちだ。そして控えの佐藤も期待しているぞ」

「…南禅寺さん…」

「伝統とはいえ、そんなお前たちに後輩だからと言って自分の洗濯物を洗せるわけにはいかない…色々変えたいんだけどな…俺にはこうやって自分で行動して示すしかできなくて…すまない」

 押しつけがましい伝統の中には暴力や理不尽な事もあったが南禅寺はそれらをしたことがない。一人一人を呼んで、言葉で指導することはあったが、そういった理不尽な行為を自ら行ったことはなかった。しかし、全体をキャプテンという立場でまとめるに苦労もあった。口に出せば3年生や2年生のそういった上級生の人間の崩壊にもつながる。南禅寺は自らが自分のことは自分で行い、そして誰に対しても姿勢を変えないことで、行動でそれらのことに対して反旗して立ち向かっていた。

「南禅寺さん…」

 場の雰囲気が少し暗くなる中、大きな洗濯物を抱えてマートンがコインランドリーに入って来た。マートンは真っ赤なヘッドホンをつけてリズムに乗って歌っている。「はーるばる来たぜ大阪~愛しい笑顔一目ぼれ~俺は~武士だよ~…ようチビ助に、裏切者!」

 ヘッドホンを外しながら大きな声で話しかけてくるマートン。

「…」

 場の雰囲気を読み取らないマートンに困惑する一心と流稀亜は冷たい目線を向ける。

「どないした、ワシの登場に緊張してるんか?」

「…そんなわけあるか!音痴のチリ毛!」

「アホか!おまんに演歌の何が分かるんや!」

「演歌が分からないんじゃなくて、チリ毛音痴なだけだろ!」

「なんがチリ毛なんじゃい、ボケ!おまん、人のこと言えるか!自分の脚ようみてみ!不自然なバランスやで、どないしたらそないな超合金になるんや?まるで戦車やな?」

「はあ?身体的なこと言いますか?お前なんか、髪の毛だけじゃなくて眉毛までフライドポテトみたいにほっそいくせに!モーニングセットかよ!」

 一心が口を開くとすかさずマートンが喚き始める。

「どしょーまない、短足の分際でこの俺様にたてつこうとは、お前も身の程を知れ!」

 すかさず一心がマートンに噛みつく。

「おまえなんかヒュールリ~ヒュルリララ~って自分の不細工な顔に念仏でも唱えてろ!」

「ん…おまん…演歌聞くんか?俺も高校に入ってからハマったんよ!」

「え…まあ悪くないよな…」

「そやろ~」

 相槌をお互いに打つ一心とマートン。

「おまん何が好きやねん?」

「春桜」

「即答かい!…ええよな…泣けてくるわ。桃紅ちゃーーん!」

「でも優勝するのはウチだからね」

「アホかおまん!こんな小春日和に…まあ機嫌いいさかい、言っとけや~」

 意気投合している二人の間に入る、流稀亜。

「マートン、凄い自信だね」

「おまんが、帝国行ったこと後悔させたるわ!ほんでもって、来年からおまんも転校してワシとやればいい!」

 マートンの顔は本気でそう感じているような顔をしていた。そんなマートンに対して落ち着いた口調で口を開く流稀亜。

「マートン」

「なんや、その気になったか?そやな北の最北端は田舎で不便やろ?」

「あのね…能代は竜飛岬じゃないよマートン…」

「そうか?」

「兎に角…優勝するのはウチだよ」

 流稀亜がそういうと今度はたこ焼きを手に今大会のNO,1プレイヤー三浦 雄一 が突然訪れ口を開く。三浦 雅俊 大阪常翔学園3年生にして全日本ユースにも選ばれるいずれ日本の将来をしょって立つと期待される今大会NO,1プレイヤー。

「あかんわ…羊の群れは何人束になろうが所詮、羊の群れだな!」

 すると今度はマートンが口を開く。

「三浦さん!」

「なんや、おもろい話になっとるか?食うか?仙台のたこ焼きは味が薄いんや!かなわんな?おまん何してくれてんねん。試合前に挑発したら燃えるやろが、ケツに火ついたらどないすんねん。そっと優勝したらええんやで~」

 笑みを浮かべる三浦。一心が口を開く。

「優勝はうちが貰いますよ」

「そうか?決勝までたどりつけるんか?おまんら?ショーもない話ばっかして、実力がない奴らがやりそうな話やないかい。決勝まで来たら俺にいうたれやボケ!」

 すかさずマートンも口を開く。

「そや、ウチには今大会、超高校級と呼ばれている三浦さんがおるで!強者の集いはユースの大会後ですぐに合流したさかい、本調子じゃなかったけどな。今回は違うで!うちの優勝は間違いないで!三浦さんのパワープレーが全開や!」

「…」

 するとどこからともなく今度は、北海道代表の本別高校の双子ツインタワー飯田兄弟が通りかかる。


飯田  匠 (兄) 201cm  (センター)  


飯田 和樹 (弟) 203cm  (センター)


「誰が優勝間違いないだって?」

 飯田兄弟が同時に口を開きマートンを見ている。

「な…なんやおまんら、いたんか?」

 マートンが口を開くと飯田兄弟が同時に話す。

「まったく、大阪は先輩に対する口のききかたもなってない。マナーの悪い奴はバスケも下手…まあ持論だけどね」

「…」

 赤井 翼が飯田兄弟の陰から隠れて目の前に出てくる。そして独特のラップ口調で話しかけてくる赤井。独特の風貌でドレッドヘアーに日焼けしていてとても日本人には見えない。外見はブラジル人の様に見える。夜にも関わらず掛けているサングラスを一時的に外して顔を確認するとまたサングラスを耳にかける。そしていつものようにラップ口調で話し始めた。

「YO~YOイケメン?いや違うそうじゃない、SO、MEが本物、実物、借物、いや贋作、でも名前はウイング。そうウイッシュ!A・K・I そう俺はAKI、イエーイ~」

 あまりにぶっ飛んだ登場にその場の全員が驚いている。

「…」

「YOU、流稀亜君だっけ?YEI,YEI,準決勝まで勝ち上がってきてくれよ?HEY」

 流稀亜が口を開く。

「何の話ですか?当たり前じゃないですか!」

「WHY,ドリブル…少しは上手くなったのかな?OK~HEY」

 流稀亜は強者の集いで対戦した時に何度も赤井にボールを奪われていた。決して流稀亜のドリブルが下手なわけではない。赤井はディフェンスでリズムを作る選手でディフェンス能力がずば抜けていた。間違いなく、NO,1のディフェンス力の持ち主だった。その証拠に「強者の集い」でも、いつもなら1試合平均30点台中盤をたたき出す流稀亜はその試合で19点に抑えられていた。そして攻撃ではツインタワーの二人を軸にして基本に忠実で得点を重ねる堅実なバスケットを展開する今大会優勝候補NO,1の高校だった。

 流稀亜がとぼけた口調で口を開く。

「何の話ですか?」

「WHAT?HEY YOUボール何回、取られたんだこの俺様に?1,2,3,4,5…全部で8回かな?YOU得点屋って割りにはタウンオーバーが多いよねYEI~」

「この大会で最強が僕だって証明してみせますよ!」

「OH~また、その台詞かい?YOUこないだの「強者の集い」でも繰り返していたねYEY」

「…」

「WHY 最強にこだわる理由は知らないけど、YOUにはまだその称号は無理だよYEY~」

「…!」

 突然コインランドリーを訪れる折茂と関口。

「ちっちっち、デミタスこコーヒ~」

「おーっち、空揚げ~」

 狭い店内が大男達で更に狭くなる。せめぎ合う店内で肩がぶつかるような距離にいる全員。その光景はまるでチーマーが抗争しているようだ。南禅寺が口を開く。

「赤井さん、あんまりうちの後輩いびるのはやめてもらえませんかね?」

「ちっちっちっち、帰って来るの遅いから散歩に来てみたら…デミタスコーヒーどこにある?」

 折茂がそういうと関口が口を開く。

「おーっち、お前らまんつから揚げ買ってこいや。1キロな」

 関口のその発言を不可思議な表情でその場の全員が見ている。一瞬戸惑った後で、赤井が口を開くと次々に手を上げるように口を開き始める面々。

「HEY、TO・NI・KA・KU~優勝はまたウチがもらうから!」

「アホ抜ぬかせ、夕張メロンでもはよ帰ってくっときいや!」

 三浦がたこ焼きを口に入れながらそういうと南禅寺が口を開く。

「おっとうちも忘れてもらって困るんだけどね」

 赤井、三浦、南禅寺が互いに睨み合っている。三浦が口を開く。

「おまんの所は3位やろが!」

「…」

 怯んでいる南禅寺を加勢するようにして身長の低い一心が割って入る。

「それは昔の話ですよね!」

 全員が全員、格闘技の試合前の様に睨み合っている。そしてその場の全員が同時に口を開く。

「兎に角!…優勝するのはウチだ!」

 三浦が口を開く。

「アホ抜かせ!うちやで!」

 赤井が三浦に続く。

「WHAT?あづましくない?(落ち着かない?)優勝はウチってきまってるっしょ!GOOD!」

 十分自分たちの意見を言った後で気が済んだのかその後、各自コインランドリーを黙って出た。そしてコインランドリーの前の十字路をそれぞれ別々に別れていった。北側に向かったのは本別国際高校。東に向かったのは大阪常翔学園、西に向かったのは帝国高校だった。

 北の方角に向かった本別国際高校の双子の飯田兄弟が同時に口を開く。

「おい、ラップバカ」

「WTHAT?なれそれ、かりそめ、ひきそめ?酷くない~HEY!」

 体を揺らしながら踊っている赤井にあきれ顔の双子。その動きに対して同時に話し始める。

「あいつからの体つき、一回り大きくなっていたな」

「HEY,~YOU~良いことに気がつきましたね~YEY」

「…お前日本人?それともバカ?」

「SO YO~…特にヒラメ筋が強化されていたね…いやそこに目が行っただけかな?YEY」

「おい弟」

「何だ兄」

「こいつやっぱり…」

「バカだ」

 と同時に言い放つ。

「NE、NE,それって酷くない~ああ~リスペクト~YEY…まとめて僕が止めて見せるよ。ディフェンスは任せて置きな双子ちゃん、YO!」

「…」

 同じ頃、東に向かった大阪常翔学園の三浦とマートンはたこ焼きを食べながら歩いている。気分がいいマートンは赤いヘッドホンをつけながら自分で作曲した演歌を大音量で歌っている。下品な歌詞の歌に近くにいる女子高生が変な目線んで見ている。

「ケツの谷間に~滴が落ちた~そこは危険な密林地帯~」

 そんなマートンにあきれ顔で三浦が口を開く。

「マートン…お前ヘッドホン意味有るのか?」

「へ?なんですの?三浦さん」

「ヘッドホンの意味ないやろ!」

「なんでですの?」

「音が大きすぎてもれてるやないかい!ショーもない歌をこきやがって、こっぱずかしいわボケ!」

 マートンの頭をたこ焼きのソースが付いた手でどつく三浦。

「三浦さん、なにわての歌に興奮してますの?もう1曲歌いましょうか?」

「そやな興奮してきたわい!歌ってくれへん…って誰が興奮するんや!しばくぞ!」

「なんか、えらいすんまえへん」

「…そんなことより、奴らの顔つき…随分とまあ、逞しいなっとったなあ~」

「そうでっか?」

「おまん、いいライバル持ったやないかい!」

三浦がマートンの肩を叩く。

「ライバルちゃいますねん。あんなカス!」

「はははははカスはカスでも天カスは燃えるからのうははははは」

「三浦さん…全然つまんないっすけど…」

 三浦にどつかれるマートン。

「うるさいわボケ!」

「そんなことより、三浦さん。優勝しましょうや!」

「せやな。今回は俺たちが頂くで。待っとっても優勝なんてきいへんからのう。コイン集めるみたいに優勝のメダル集めたるで!」


 そして時を同じくして帰路につこうと歩いている、一心、南禅寺、流稀亜、佐藤、折茂、関口。南禅寺は何か考え込んだような顔して夜空を見上げている。

「どうしたんすか?南禅寺さん」

「…ちょっと思い出していたんだ。昔のことを…」

「昔のこと…ですか?」

「ああ…お前らはさ生で見たことないだろ。伊集院さんの世代を。伊集院さんの他にも打てば入る。そう言われた伝説の名シューター古堅さんっていう人に言われたことを思い出していた。俺は中学の頃、その人のシュートに憧れてたんだ。(古堅 要 ふるげん かなめ 伊集院と同期で9冠達成の立役者の一人で打てば入るシュート力に対して鉄の心臓を持つ男と言われてついたあだ名がアイアンマン。どんなピンチの場面や接戦の場面でも決めるあのシュート力は様々なシューターを目指す子供たちの憧れでもあった)

「でもこないだのOBが来てた時には来れれてませんでしたよね」

「ああ、伊達さんは古堅さんとはプライベートで仲が良くないからな。それにあの人は沖縄出身でなんていうかこう性格が独特なんだよ」

「今はどこに行ってるんですか?」

「スペインに行っているよ」

「スペイン?」

「俺、その古堅さんが3年の時に聞いたんだよ。どうやったらそんなに鮮やかにシュートを決められるんですかって?」

「何かあったんですか?」

「一応、俺は中学の時はエースで活躍してたんだけど、ここぞって時になると緊張して良くシュートを外してたんだ。そのせいで試合に負けたりもして、何度もそんなことがあるうちに一時期バスケが嫌いになったんだけど、9冠メンバーの試合を生で見たら凄くてさ…鳥肌が立ったよ。その中でも、どんな状況でも平気な顔してシュートを決める古堅さんに俺は見入られてな、それでどうやったらあんな風にシュートが入るか直接本人に聞いたんだ」

「何んて言われたんですか?」

 一心が目を輝かせるようにしてそういうと南禅寺も目を輝かせるようにして答える。

「何んて言われのか知りたいか?」

「はい」

「当ててみろよ」

 一心が考え込んでいると流稀亜が口を開く。

「んーん…集中力だ!」

 そして今度は折茂が口を開く。

「ちっちっち、違うべリングを見ろ!だべ」

 そして関口も

「おーっちちがうで、思い切って打てだいば!」

 そして佐藤が口を開く。

「んー流れに任せろ?」

 最後は一心が口を開く。

「ボールの軌道を考えて打て!」

「ははは、どれも違うよ」

「…」

「何も考えてないってさ」

 その答えに一同驚く。そしてまた一心が口を開く。

「?答えになってないじゃないですか!」

「だよな、要はさ試合を楽しむのを心がけてるって言ってた。俺の頭をなでながら言うんだよ。試合で負けたって死ぬわけじゃない。もしもブザービートがなる前に君がみんなから選ばれてシュートを打つことになっても楽しめばいいと、人を楽しませるよりも、まずは自分が楽しくあれって、そういわれたんだ」

「試合を「楽しむ」ですか…流石9冠達成者の格言ですね」

「ちっちっち、何偉そうに言ってるんだよ。この短足チビが。デミタスコーヒー買って来い!」

「おーっち神木、から揚げも買って来いよ!」

 ふてくされた一心は投げやりに口を開く。

「折茂さんはカフェインの取り過ぎで剥げてきて、関口さんは油ものを食べ過ぎで巨漢になってるんじゃないんですか?」

 流稀亜が口を開く。

「…シン…駄目だよそんなストレートに…」

 一心がばつが悪そうにしている。

「あ…やべえ」

 一心がそういうと折茂と関口が噛みついて来る。

「ちっちっち、神木!短足の分際で俺を剥げいうな!デミタスコーヒー追加だ!」

「おーちっち、俺のぜい肉は鍛えてるんだっていってるべしゃ。から揚げもついかだいば!」

 南禅寺が大声を出して笑う。

「はははは」

「ちっちっち、笑い事じゃないですよ、南禅寺さん」

「そうか、面白いぞはっはははは。3年のキャプテンの俺がそういってるんだ。それでいいだろ」

「ははははは」

 少し不満そうな折茂と関口。

「…」

「明日から始まる試合、俺達も楽しもう」

 南禅寺がそういうと全員が口をそろえて返事をする。

「はい」

 楽しむというのは、言葉では簡単だが遊ぶわけではない。相手との試合に精神的余裕が生まれる様に心を弾ませて楽しむように仕向けるのはある意味自分を落ち着かせる手段だ。南禅寺をはじめ帝国の選手はそのことを勿論理解していた。

 



タイトル「分岐点」


 開会式の会場までは、バスでの移動になった。40分ほどでつく距離だが朝が早くほとんどの選手がバスの中で寝ていた。一心の隣に座る流稀亜も寝ていたが会場に着く頃には変な夢にうなされているのか汗をかきながら独り言を言っていた。

「兄さん!来ちゃだめだ!」

 はっとして目覚める流稀亜に対してキョトンとした顔をしている一心。

「…ダイジョブ?ルッキー…」

 流稀亜の額が汗で濡れている。

「え、うん」

「ルッキー兄貴がいたの?」

「…え?」

 何故か流稀亜はその後、口を開かなかった。でも確実に何かを気にいしていたのは間違いなかった。

 全員がバスを降りると、いつものようにキャプテンである南禅寺が忘れ物がないか見ている。本来なら1年生や試合に出れない人間がやることなのに南禅寺はそんなことを自らが率先して行っていた。

「神木、財布忘れただろ?」

 合成革の茶色い二つ折りの財布。少し破けた場所がある使い古した財布だった。

「いいえ、そうかじゃあこのボロボロ財布は暁のか?」

「ちっちっち、ボロボロ財布ならやっぱ神木のだべ」

「おーっち神木、中身、入ってるか?」

「ははははっは」

「あの…僕のじゃありません!」

「ちっちっち、嘘はいけねえぜ神木!デミタスコーヒー1本な」

「おーっち、俺はから揚げな!」

「すみません、南禅寺さん。イケメンのです…」

「えええ!」

 全員驚いた表情をしている。几帳面かつ衛生的な面まで神経を使っている流稀亜がその財布を使っているとは誰も思わなかった。

「そうかお前は結構、物持ちいいんだな。俺も昔、姉貴に貰った財布ずっと使ってるんだ。お前のは?」

 そう言って南禅寺がほつれのある、布製のスポーツメーカーの財布を出す。

「…これは…俺のデス」

「…そうか、いい財布だな」

 南禅寺が上手くフォローして流稀亜の話がそれる。するとタイミングよく、先にバスを降りていた監督の石井が大きな声を出して叫んでいる。

「何やってんだ!開会式に遅刻するぞ!早くしろ!」

「はい」

 一心は流稀亜にそっと近寄り小声で話しかける。

「兄貴からの財布なの?」

「…」

 今まで一度だってされたことがないが、流稀亜は一心のその質問を聞こえないふりをしてそのまま一心を置き去りにするように速足で歩いていった。何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと思い、それ以来一心はそのことについて触れないようにしようと心に決めていた。

「神木!何やってんだ!早く来い!」

「ちっちっち、足が短いからおせんだよ!神木!デミタスコーヒー追加だぞ!」

「おーっち、神木、空揚げも追加だいば!」

 南禅寺に頭をこずかられる関口と折茂。

「二人とも大会前だぞ!いい加減にしろ!」

「…あ…はい」

 苦笑いをする関口と折茂をあざ笑う一心。何はともあれ、開会式が始まろうとしていた…

 無事に開会式も終えて5年ぶりの優勝を狙う元名門帝国高校は1回戦、兵庫県代表の姫路工業高校と対戦。好スタートを切った。開始から一心と流稀亜のコンビに加えて関口や折茂も要所でしっかりと自分たちの役割を果たして早い展開に持ち込み1コーターを24-10で終えると、2コーター目にはキャプテン南禅寺がこのクオターだけでも4本連続のスリーポイントシュートを成功させ52-26として勝負を決めた。相手チームのタイムアウトでベンチに戻るスタメン。

「よし!」

「南禅寺さん絶好調ですね」

「ナイスパス神木、お前のパスのおかげだよ」

「そうですか?ありがとうございます!」

 折茂に頭をこずかれる一心。

「ちっちっち、んなわけねえだろ!気を遣ってくれてるんだよ!南禅寺さんは!デミタスコーヒーな!」

「おーっち、神木、調子に乗ってるのか?足が短いのによく高い木に登るな。罰としてから揚げな!」

「はははっ」

 ベンチで笑いが漏れるほど好スタートを切った帝国高校だった。

「まだ試合は終わってない!気合入れていくぞ!」

「オウ!」

 ベンチから腰を上げて、コートに戻ろうとする一心に対して手で止めるようなジェスチャーをする南禅寺。

「神木!ちょっと待て!」

 驚く一心。

「はい?」

 南禅寺が前かがみになって一心のほどけた靴紐を治す。

「きちんと中に入れないとだめだろ」

 南禅寺は靴もひもをきつく縛るとほどけないように、更に中に入れてすっきりさせる。

「南禅寺さん、自分でやりますよ…」

「もう、いい。俺がやってしまったからな」

 微笑む南禅寺。するとまた折茂が一心をからかう。

「ちっちっち、お前はキャプテンに何やらせてんだ、デミタスコーヒー追加だな」

 関口も口を開く。

「おーっち神木、勿論から揚げも追加だいば!」

「嫌です!」

 すると笑いながら南禅寺が会話に入って来る。

「はははっはは、よし、試合が終ったらまとめて俺が買ってやる!気合入れていくぞ!」

「え?…あああ、はい!」

 


 第3クオーターに入っても帝国高校は攻撃の手を緩めず残り1分を切るころには85対56としてほぼ勝利を手にする。第4クオーターは主力を全員ベンチに下げて余裕を

見せ最終的なスコアは108対72で試合終了。初戦を無事圧勝で終えた。流稀亜と一心の顔にも笑顔が漏れた。流稀亜はその日、3クオター目でベンチに下がったのにも関わらず、1試合39得点をたたき出し得点ランキングで2位を獲得していた。1位は大阪常翔学園、超高校級と大会前から評判の高い超高校級の三浦が43得点をたたき出していた。


 その後、2回戦、3回戦を順調に勝利すると準々決勝を迎えた。準々決勝の相手は東京代表目黒諏訪山高校。目黒諏訪山高校は3年生エース星野 流星という絶対的エースがいる以外はこれといって上手な選手がいるわけでないがその星野の活躍で勝候補の一角でもある石川県代表の陸山高校を破る一旦となったのは間違いなかった。試合前に流稀亜は星野に声を掛けられた。

「よお、暁!」

 時代に逆行するかのようにリーゼントの髪型を整えながら星野が話しかけてきた。しかし流稀亜は星野のことを知らないようで驚いている。

「えっと…」

「…俺や!」

 驚いた表情の流稀亜。に対して苦笑いする星野。

「その…誰…ですか?」

「ヒントや上が、ほし…」

「…ほし…ほし…ほしいも?」

「そう俺は干し芋…って誰が干し芋じゃい!お前は覚えてないかもしれないが…」

「誰ですか?」

「あのな…」

「はい」

 星野が戸惑いながら口を開く。

「大体…覚えてないってな…クソ!中学の時の全国大会で2回戦でお前がいた初芝東中学に負けて以来なんだよ!」

「それはどうも…」

「今日はその借りを返す!」

「…すみません、僕はそれどころでないんです。最強を目指しているので~」

「何だと!」

「現在得点ランキング1位は三浦さんで平均得点35、7点。平均33点、7で僕は今、三浦さんに負けてるんで手は抜きませんよ!」

「望むところだ!…まあ次に進むのは俺たちだけどな」

 星野はそう言って流稀亜を睨み付けた。 




準々決勝


秋田県代表 帝国高校 対 東京代表 目黒諏訪山


帝国高校スターティングメンバー


南禅寺 清隆  186cm (シューティングフォワード)

神木 一心   176cm (ポイントガード)

暁 流稀亜   194cm (シューティングフォワード)

関口 悟    205cm  (センター)

折茂 和也   194cm  (シューティングフォワード)


目黒諏訪山高校スターティングメンバー


星野 流星   190cm  (シューティングフォワード)

松原 元    189cm  (パワーフォワード)

野中 明    200cm  (センター)

木村 博之   181cm  (ポイントガード)

高木 道夫   186cm   (シューティングガード)



 大会優勝候補の一角でもある帝国高校は序盤、緊張がある東京代表の目黒諏訪山に対して第一クオターから主導権を握っていた。

「イケメン、ダンク行きます!」

 流稀亜の速攻からのダンクシュートが決まり会場が大いに盛り上がる。それを悔しそうに見ている星野。そして星野も負けじとダンクシュートを決める。

「お返しだ!」

 しかし、その後は星野以外の選手が帝国高校のオフェンス力を抑えられずにどんどん点差が広がる。確かに星野は並の選手ではなかった。しかし第一クオーターこそ星野のオフェンス力が目立っていたが、それも第一クオーターだけだった。その後はボックスワン(相手チームのエースを5人で守るようなディフェンス。一人に対して集中するディフェンスで相手チームのエースをイラつかせ、相手チームのオフェンスのリズムを狂わせる役割がある)のディフェンスで星野を封じ込めて、徹底的に叩き潰した。

「クソ!」悔しがる星野。焦りとイラつきは隠しきれず、星野の簡単なパスミスやシュートミスも続く。

「あああ!」

 そして、そのボックスワンがうまく機能して第2クオーター中盤には12点差のビハインドをつけていた。しかし、優勝を狙う帝国高校は攻撃の手を緩めない。さらにゾーンプレスをかける。(補足説明 ゾーンプレスとは?バスケットボールのゾーンプレスとは…最初に説明させていただいた8秒ルールを覚えてますか?ボールを8秒以内にバックコートからフロントコートに運ばなければいけないルールです。要はこのルールに対して効果的なディフェンスの戦術で、8秒ルールを誘発させるオールコートプレスというバックコートからボールを出させない戦術があり、相手のミスを誘発する禁止技ともいえる攻撃的ディフェンスです。簡単な話、相手を焦らせて錯覚させたり嘘の現実を見せてわざとそこに誘い込んでボールを奪うという作戦です。運動量が激しいので体力に自信がある選手、戦術をよく理解した監督が一体となって初めて効率よくこなせる作戦で、これが完成形まで出来上がると10cmほどの身長差はあまりハンデではなくなります。バスケットボールは圧倒的に身長の高い選手が有利ですが、平面立体を制するにはこれを極める必要があります。ゾーンプレスは戦術的にも最上級、体力、技術面、精神力でも高いレベルが求められるディフェンスでありながらオフェンスのような究極の必殺技です。ゆえに下手にマネしても出来るものではありません…残念ながら選手の感やセンスも非常に必要です。しかし、それを補う練習方法はあります。個人練習としては低い姿勢を維持した練習、空気椅子のもっと低い感じの状態です。戦術は繰り返し練習して何通りもあるパターンを体で覚えるしかありません。中でも効果的でよく使われるのが2-2-1、1-2-2-。です)



「ゾーンプレス!1-2-1-1」

 一心が指示を出す。そして指先を1-2-1-1とジェスチャーを全員に送る。

「オウ!」

「1-2-1-1」

 襲い掛かるゾーンプレスになす術がない目黒諏訪山高校は何度もタウンオーバーを繰り返す。それが最悪の形で無限ループの様に繰り返された。

「クソ!」全線ですべて潰されるため、ボールを貰うことすらできない星野はイラつきを隠す事が出来ない。結局、その効果がってか第二クオターが終わるときにはそのゾーンプレスの効果もあってか


帝国高校 54 対 31 目黒諏訪山高校


 23点差となっていた。結局、帝国高校は3クオターが始まる頃には主力全員を下げようとしていた。特に一心と流稀亜は一年生ということもあって、まだこの先にあるだろう、決勝戦までのすべての試合を全力で戦い抜けるほど体力がないと監督の石井は判断していた。そのためここで休ませて温存させておきたい石井の思いがあった。しかし、得点王を取って最強を目指すと言っていた流稀亜は交代に応じずそのまま試合に出続けた。その時点で流稀亜はその試合、28得点を取ってプレーも波に乗っていた。

「今日はイケメンが得点王を貰います!」

 そんな流稀亜に対して監督の石井が檄を飛ばす。

「んがなば、いうこときがねえがらしかたねども怪我したらずぶんで責任とれや!」

(お前は言うこと聞かないから仕方ないけど怪我したら自分で責任を持てよ!)それは全日本にも入っていたこともある石井の経験上からくるアドバイスだった。試合は3クオターの後半には30点以上の得点差がついてた。

 あまり得点差が開き過ぎると相手が、激怒してラフプレーする場合がある。ラフプレーをして相手に八つ当たりすることで自分のフラストレーションを処理するためだった。長くスポーツ競技をしていると様々な場面でそんな場面を見ていた石井。これは様々なスポーツ競技においていえることだった。監督の石井はそのことを内心気にかけていた。そしてその石井の予感は3コーターの終盤に当たってしまう。


 3クオター残り2分を切るころに流稀亜はボールを貰うと、左右に素早くフェイントをかけてドリブル突破をするとカバーに入った星野が立ちはだかる。

「そう何回も行かせるか!」

 流稀亜は立ちはだかった壁の横を華麗にすり抜けるとリングに向かってダンクシュートに持ち込もうとする。

「行ける!」

「この1年風情が!させるか!」

 しかしその時、星野が流稀亜に対して危険度の高いファールをしてしまう。星野は流稀亜をブロックしたまま体制を崩して流稀亜に衝突する。空中でバランスを崩した流稀亜は着地の際に足首をひねってしまう。勿論、星野自身もわざとやろうしたわけはない。

「ゥ…」

 倒れこむと起き上がれない流稀亜はそのまま更衣室に向かった。監督の石井をはじめ帝国高校のベンチ、応援席の応援団、全員の顔が曇る。

「ルッキー…」

 その後試合は


帝国高校 101 対 74 目黒諏訪山高校 


 その点差で勝利したが流稀亜は明日の大事な本別国際高校の試合に万全の態勢で臨むことはできなくなっていた。

 試合が終わると医務へ急ぐ一心。ドアを勢いよく開けると流稀亜が怪我した部分にアイシングをしていた。

「どお?」

「そうだね、明日は何とか出れそうだよ」

「…本当に?」

「イケメンが出ないわけにいかないでしょ!」

「…」

 明るい表情で作り笑いしている流稀亜は痛みをこらえてそういっているのは明らかだった。そう言いながら歩き回って見せるが、ひねった左の足首をかばうようにして歩いているのが手にとるようにわかる。そんな様子を見て監督の石井が激怒した。

「暁!んがなばこんど俺のいうごときがねったいば!」

(暁!おまえはどうして俺の言うことを聞かないんだ!)

「…すみません」

「あやまって、すむもんだいじゃねべしゃ!なしてそんなにこだわらったが!」

(誤って済む問題じゃないだろ。なんでそんなにこだわるんだ!)

「…俺…最強を目指す…最強になるためにバスケやってるんで…すんません」

「馬鹿野郎!試合さ負げたら最強もクソもあるが!こん馬鹿けが!」

(馬鹿野郎。試合に負けたら最強もクソもあるか!この馬鹿!)

「…」

 流稀亜がひねった左足首は幸にも現時点では重症ではなさそうだが全力では動ける状態ではない。一心は明日の本別国際高校との試合をどうやって戦うか考えていた。

 


 

 

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