雪を溶く熱(Ver. 2) 美冬ちゃんと女王さま
蜜柑桜
第1話
みなさんこんにちは。
僕は美冬ちゃんの一番の友達のしろくま、ティート・チェーザレ・アレクサンドル・コリオラヌス・ヴィットーリオ=マクシミリアン・リチャード・ルイ・フィリップ八世です。
え? 長い? そんなそんな。かのポーランド王国ルイス・フェリペ・マリア・フェルナンド・ペドロ・デ・アルカンタラ・アントニオ・ミゲル・ラファエル・ガブリエル・ゴンザガ・シャヴィエル・フランシスコ・デ・アシス・ジョアン・アウグスト・ジュリオ・ヴァルファンド陛下に比べたら僕なんて。
「ねえテト」
って美冬ちゃんはどこかの小さなキツネに似たリスみたいな名前で呼ぶのですが、美冬ちゃんなので僕も許してます。あの白い空飛ぶ乗り物のお姫様は僕も尊敬してますから。
ほかにもう一人、僕をそう呼ぶ男の子がいたのだけれど、ここのところは会っていません。急に美冬ちゃんにも僕にもいじわるしだして、遊びに来なくなっちゃったんです。
昔は優しかったんですよ、秋人くん。でも突然乱暴になっちゃいました。僕もぶんぶん振り回されて、あやうくもこもこの尻尾の糸がぶちっとしちゃったんです。美冬ちゃんのお母さんが針と糸で手術してくれたので、いまでは代わりにまんまるのボタンがついてます。戦いの勲章です。
「ねぇテト」
なぁに美冬ちゃん、いまちょっと、ご挨拶の最中ですよ。
「ねえ、ピンポン鳴らなかった?」
美冬ちゃんがそういうと僕の足が宙に浮きました。あぁ待って待って美冬ちゃん。知らない人だったら出ちゃいけないって、お母さんが言っていたでしょ。
あ、良かった。美冬ちゃん、ちゃんと背伸びして「インターホン」の画面を覗き込んでます。すると美冬ちゃんの目がまんまるになりました。
ぐえ。
美冬ちゃん、いきなり抱きしめないで。痛い。
「テト、秋くんだ」
え?
うわっ。
あぁ良かった。ソファの上です。美冬ちゃん、いくら僕がもこもこふわふわだからって、いきなり投げないで。ってあれ? 秋人くんが来たんですか?
ガチャガチャ、ガチャ。
急に僕の背中がひやりとしました。今日は外が吹雪だったんです。今でもやんでないじゃないですか。美冬ちゃん、寒い。
「……秋くん?」
「美冬ちゃん」
あ、本当に秋人くんの声です。でも美冬ちゃん、僕見えないです。起こして。
「秋くん、どしたの」
美冬ちゃん、ちょっと緊張してます。秋人くんがいじわるしていたからでしょう。でも優しいから気になるんですね。
「どうしよう美冬ちゃん、僕、明日になったらここから連れ去られちゃう」
「え?」
「美冬ちゃん助けて。僕、雪の女王様に……あぁっもう行かなきゃ……」
びゅぅおおおおおと風が唸る音と一緒に秋人くんの叫び声が聞こえます。「秋くん! あきくん?!」という美冬ちゃんの呼ぶ高い声が外にすうっと消えていくのが分かります。何が起こってるのでしょう。
ばたん、かちゃり。ぱたぱた。ぽすっ。
「テト」
はあ、やっと視界が明るくなりました。美冬ちゃんの顎が僕の頭の上に載っています。胴回りにある美冬ちゃんの手が冷たいです。
「テトどうしよう。秋くんが雪と一緒にいなくなっちゃった」
ええええ!?
「どしたのかな、なんで急にうちに来たのかな」
ええええ!? 驚くところそこ? 美冬ちゃん、突然消えるのは超常現象だよ?
美冬ちゃんのため息が頭の上で生暖かいです。
ぐえ。
美冬ちゃん、痛い。突然力入れるのやめて。
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