4
慎一は、小さく戻った
すでに周囲は記憶の残滓である。
炎に包まれて、なかば焼け落ちている廊下も、軽く跳んで渡ればいい。
あの惨劇の部屋はどうなったか、気になって途中で確かめると、部屋のみならず、屋敷のその一角が吹き飛んでいた。
「十年前、本当の焼け跡のありさまは、どうであったのだろうな」
「石造りの玄関ポーチ以外は、ほとんど全壊した。台所のプロパン・ガスが爆発して、一階の一部は木っ端微塵に吹き飛んだ――そう新聞に」
「なるほど、焼け跡の帳尻は
十年前の記憶では、そのポーチの先の前庭に
念のために辺りを検めながら、元の門前に戻る。
「もしやと思うたが、やはりいないな」
「
「俺にもわからぬ。こんな先の読めぬ仕事は初めてだ。そもそも
「ああ」
「万一下手を打てば、こっちも
「……ああ、知ってる」
「俺はふだんの仕事だけにしたいよ。ありふれた陰火や、外に
ふと、慎一は聞きとがめた。
――人?
同じような言葉を、今夜、
これまでは気にとめる余裕がなかったが、そもそも管生が自力で竹筒から出ることはない。管生が人を食ったとしたら、
いや、いくらなんでも――。
慎一は思い直した。
「野武士でも食ったのか?」
「夜盗だよ。五人ほどまとめて呑んだ。あれはすこぶる
「近頃?」
「おう。十年前の話よ」
慎一は、思わず肩の
「何をする無礼者! 鼻を囓るぞ!」
「……どこの誰を食った?」
「
「十年前、この館の現物が燃えて、しばらく後の話よ。例の火付け盗賊たちが、どこぞの港から海に逃れたという話があったろう」
「ああ」
「どこに居ようと追いかけて、見つけて呑んでしまえ――そう
「まさか……」
「そう恐い顔をするな。若輩だったおぬしと違って、もう
「でも……本当の犯人は……」
「まあ、そこは確かに違っていたがな」
「
「…………」
「ま、正直、俺はただ美味いから食ったのかもしれぬ。しかし
「……ああ」
慎一も、なんとか納得する。
「それから、もうひとつ」
「――人の色恋は、俺にはわからぬ。化けてからは
「…………」
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