トッケン!! 〜変身(かわ)る仮割(かわ)る物語〜

七熊レン

Ⅰ トッケン

プロローグ 本物の大物

 体育館を満たす、水を打ったかのように沈んだ空気。

 どよめき、疎らな拍手すら起こさせないてくれない、気力のさ。



 高校の文化祭で見せられた映画は、それほどまでの、駄作っりだった。

 まだ幼稚園児の灯路ひろ 出夢いずむですら、とんだ地雷だったと。

 それしか理解出来できないほどのチープさ、意味不明さだった。



「……っ!!」



 そんな中、出夢いずむの隣に座っていた、同い年くらいの少女が突如、椅子いすから立ち上がった。

 かと思えば少女は、入口付近の物販コーナーに置かれていた、これまた突貫工事っりが伺える、如何いかにも安物な剣を拝借し。

 両親の声を無視し壇上に登り、観客を見下ろした。



「お、お嬢ちゃん?

 どうしたのかなー?」



 舞台袖で観ていた、部員とおぼしき男子が、マイクを持ちながら少女に声をかける。

 少女は、彼から強引にマイクをも奪い、前髪で顔を隠したまま、しゃべり出す。



「……なる……」



 その場にた全員が困惑する中、視線を独り占めにした少女は、ハウらせながら、叫ぶ。

 まるで、このホールのみならず学校中……世界中に響かさんとするほどの熱量、声量で。



「……なる。

 もっと大きくなって、この学校ガッコ入って、私はっ……!

 私は、『トッケン』になるぅっ!!」



 出し物の残念さを払拭するほどのインパクトを放つ、勇敢で型破りな少女。

 そんな彼女の姿を、出夢いずむは無言で、羨望の眼差しで見詰めていた。

 


 両親も、先生も、ショーに出て来る人達ですら及ばない、格好かっこい姿。

 自分の世界にも本当に実在した、本物の大物……ヒーローの勇姿。

 それを出夢いずむは目に、脳に、心、記憶にしかと焼き付けていた。



 あれから、10年もの時が経ち。

 15歳になった出夢いずむは夢の中で、そんな幼き日のワン・シーンを思い出していた。



「……」



 何故なぜ、このタイミングで、こんな夢を……?

 起き抜けの頭をフル活用し、理由や心当たりを検索する。

 しかし当然、答えは出ず。


 

 出夢いずむは伸びをしたあと大人おとなしく現実に戻ったのだった。

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