《信頼》なんて使えないって、濡れ衣を着せて追放したのはあんただろう?〜俺のおかげで強化されていたクズ勇者たちの転落を尻目に、助けた王女様と《信頼》を集めて真の勇者を目指します〜
ふみきり
第一章 追放された俺と捨てられた王女
第1話 濡れ衣
「デニス、お前はもう追放だ! 勇者パーティーの一員とは認められない!」
王国公認の勇者マルツェルの、怒りに震えた声が響き渡った。
今、俺は訳も分からず、衛兵たちによって宿の床に組み伏せられている。
「まさか、《無能》による劣等感をこじらせて、犯罪にまで手を染めるとはね……。お前には失望したよ」
「ちょ、ちょっと待ってください、マルツェルさん! 何かの間違いで――」
「オイこらっ、動くな!」
顔を上げてマルツェルに抗議しようとするも、衛兵によって頭を押さえつけられる。
いったい、どうしてこんなことに……。
俺はただ、いつもどおりにマルツェルの言いつけを果たすため、裏町にひっそりと開かれていた露店から一本の魔法薬を買ってきただけだ。
目的を果たして宿の部屋に戻ってみれば、突然なだれ込んできた衛兵たちに押さえつけられ、こうして床に転がされた。
意味が分からない……。
「まさか、デニスがご禁制の魔法薬に手を出していたなんて。さすがの私もびっくりじゃん!」
マルツェルの隣に立つ女――勇者パーティーの回復、支援役を務める回復術師のイレナの声が聞こえてくる。
ご禁制?
いったい何の話だよ。
「お、俺はただ、いいつけを――」
「言い訳は見苦しいぜぇ、デニスよぉ! オレたちに罪を
再度抗議の声を上げようとするも、今度は別の男――同じく勇者パーティーで前衛を務める剣士ロベルトによって遮られた。
「衛兵、この危険な魔法薬は、オレが勇者としての責任できっちりと処分をしておく。魔法が使えない者には扱いの危険な代物だしな。……このクズの身柄は、お前たちに任せるよ」
「ご協力感謝いたします、勇者マルツェル殿! 危険な魔法薬が市中に出回る前にこのように現場を押さえられたのは、ひとえにあなたがたのご協力があってこそです!」
「これも勇者として当然の行いだ。身内を告発するのはさすがに心が痛んだが、放置しては王国の治安に重大な懸念が生じるしな。断腸の思いってやつだ」
「まったく、これだけ大切にされているっていうのに勇者様を裏切るだなんて、とんでもないくそガキですね」
衛兵たちはゴミを見るような目で俺を見下している。
「私たちもすっかり騙されていたじゃん。普段おとなしかったくせに、陰でこんな大それたことをしていたなんて……。あぁー、怖い怖い」
イレナは両手で自らの身体を抱き、ブルブルと震えている。だが、よくよく見れば、顔は薄ら笑いを浮かべているように見えた。
背筋がぞくりとした……。
こいつらは何を言っているんだ?
いつ俺がマルツェルたちを裏切った?
俺はただ、毎日毎日押し付けられた雑用を、泣き言も言わずにこなしていただけだ。
むしろ、裏切られたのは俺のほうじゃ――。
「まさか……」
そこで、俺はやっと気が付いた。
どうやら俺は、マルツェルたちに何やら濡れ衣を着せられたようだと……。
しかし、いったいどうして?
俺の身に何が起こっているのか、必死に考えようとした。このままでは犯罪者だ。たまったもんじゃない。
だが、衛兵によって無理やり立たされ、思考を乱される。
「このまま詰所まで来てもらうぞ、デニス!」
衛兵は叫ぶと、俺を強引に引っ張り、宿の外に連れ出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
元々、俺は高ランクの冒険者だった両親の才能を引き継いだのか、生まれつき際立って高い身体能力を持っていた。
残念ながら生まれた時に神から授けられたユニークスキルが、《信頼》という名の効果不明な無能スキルだったけれども、この持ち前の身体能力のおかげで、村の大人たちからは神童だ神童だとほめちぎられながら育ってきた。
こんな環境なら当然だとは思うけれど、俺は将来、どこぞの高ランク冒険者のパーティーの一員になれるものと信じて疑っていなかった。
そこへ、幸か不幸か勇者マルツェルの一行が村にやって来た。マルツェルは俺の才を見てなにかを感じたのか、かなり強引にパーティーへの参加を勧めてきた。
勇者からのお誘いだ。もちろん俺は有頂天になり、すっかり乗り気になった。
まだ未成年だった俺を手放せないと難色を示した両親も、マルツェルの強い熱意に押された形で、最後には旅立ちを渋々認めてくれた。
この世界は、特定のステータスが一定の値に達することを条件に、特定のスキルが使用可能になる。
当時の俺は持ち前の高ステータスのおかげで、年齢に見合わない多彩な――主に攻撃魔法関連のスキルを使いこなしていた。
マルツェル一行には広範囲の攻撃魔法を得意とするメンバーがいなかった。その弱点の補強に、俺はうってつけだったのだろう。
だが、ここからが大誤算だった。
地元の村から遠く離れたこの辺境の街バラトを拠点にした頃から、俺は全身から徐々に力が抜けていく謎の現象に襲われ始める。
症状が出てふた月も経つ頃には、覚えていたあらゆるスキルが使用不能になる水準にまでステータスが低下していた。
一方で、反比例するかのように、マルツェルたちは異様に順調なほどのレベルアップを続けていた。
取り残されたオレは焦った。段々と居場所がなくなっていく不安感にさいなまれるようになる。
その頃から、戦闘に出られなくなった代償として、マルツェルたちは俺に戦闘以外のすべての雑用を押し付けるようになった。
俺はパーティー内での居場所を確保する必要もあって、文句も言わずに率先してこなしはじめた。少しでもパーティーの一員としての貢献ができるようにと、泥まみれになってあちこちを駆けずり回った。
これから先も、変わらず高ランク冒険者を目指し続けたい。
それに、故郷から遠く離れた辺境の街にいる今、マルツェルたちに見捨てられては生きていけない。
パーティーから逃げ出したところで、街の人間は皆マルツェルの味方だ。マルツェルからの不興を買う事態を恐れ、きっと俺を助けてくれたりはしないだろう。
だから、どうしても勇者パーティーから追い出されるわけにはいかなかった。必死にしがみつく必要があった。
身体を蝕む原因不明のステータス低下さえどうにかできれば、再びパーティーに欠かせない戦力になれるはず。
この思いが、時折くじけそうになる心を支え続けていた。
しかし、思いとは裏腹に、今こうしてマルツェルたちにあっさりと裏切られた。
俺の心はぽっきりと折れようとしていた……。
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【新作公開しました】
「貴族の世界に絶望したので、幼馴染とのんびり生きようと思います~婚約破棄され実家からも追放された貴族の少女は、唯一の《水流魔法》で大海原を支配し、絶海の孤島に実家を超える貿易都市を造る~」
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