第75話 勇者候補の治療
「何で俺が、第一王子派と組んでいた人間の為に、わざわざ駆り出されるんですかねえ?」
フルーレとの戦いが終わった直後、俺は王宮内にいた……というよりは中立派の人間に来るように要請されたため、ダリアと一緒に嫌々来ていた。
ちなみにアザレンカとステフは俺達とは別行動だ。
アザレンカは、女王様が現騎士王のラックス・ウィーバーと処遇について話し合いたいとの事なので、ラックスが逆上するなどという事は恐らく無いだろうが、女王様がラックスと一対一で話し合いたくないらしく、アザレンカに護衛を命じたので、アザレンカは女王様と共に王宮内の別の部屋へ行った。
ステフは、訓練場に転がっている死体や瓦礫と化した魔剣の後始末とレビーの手から離れ、訓練場内に落ちたままの状態の風の聖剣の監視。
聖剣がレビー以外の他の人間を選ぶとは考えにくいが、風の魔法を使える人間が聖剣を手に入れようとするかもしれないので、一応聖剣の監視をするという訳だ。
そして、俺とダリアは中立派で現大賢者のマット・バーゲンハークの要請で、王宮内にある他国からの要人を迎えるための部屋に向かっていた。
その部屋には、先程フルーレに四肢を切り落とされたレビーが運ばれていた。
そこに、イーグリット内でも腕利きの医者と王国魔導士団内でも特に回復魔法に優れた魔法使いを集めて、レビーの治療をしているらしいが、なかなか難航しているみたいなので、俺とダリアにマットはレビーの治療を手伝うように要請をしたという訳だ。
「
「でも、ザラクに彼女を助けるように頼まれていたのよね? このまま彼女を見殺しにすれば、恨まれるわよ?」
「……分かってるよ。というか、彼女を必ず助けるためにダリアも呼ばれているんだから、しっかりサポート頼むぞ? ラックスが第一王子派と繋がっていたのは驚いたけど」
「……分かってるわよ。彼女に罪は無いわ。利用されただけですもの」
正直な気持ちを言うと、俺もダリアもウィーバー家の為に彼女を救うのは乗り気では無かった。
ここで彼女を救ったとしても、俺達の味方になる事は無い。
そんな気がしていたから。
だが、ここで彼女を見殺しにすれば、第一王子派だけでなく中立派からも反発されるだろうし、何よりマリンズ王国が何を言ってくるか分からないので、彼女を助けるという選択は、俺達のためであり、イーグリットのためでもある。
「おお、よく来てくれたなプライス。部屋には今、彼女以外誰もいない。早速、レビー殿を頼む。ダリア様もよろしくお願いします」
目的の部屋の前で、マットが待っていた。
何が頼むだ。
俺達が断れないのを分かっていて要請してきたくせによ。
個人的に頼むとかじゃなくて、大賢者として要請してきやがったのも余計に腹立つ。
笑うんじゃねえ。
全くアリスといいマットといいこの親娘は、昔から俺を苛立たせる天才か?
「……さっさと部屋に入るわよ」
ダリアは察したのか、余計な事は言うなと言いたげに、俺に釘を刺して部屋のドアを開けて入っていった。
「言っとくけど、体力を全回復して元通りなんて事は出来ねえからな。回復魔法を使える奴や医者はすぐに動けるようにしておいてくれ」
「分かった。では、頼んだぞプライス」
何とか俺も余計な言葉をマットに言わずに、部屋へと入る事に成功した。
「酷いわね……彼女もまさかイーグリットで魔剣の餌食になるとは思っていなかったはずよね」
「……あんまり同情は出来ないけどな。組む相手を見誤ったのは彼女だ」
ダリアと二人きりということもあって、思わず俺は本音が出てしまう。
とはいえ、四肢を失ったレビーの姿は痛々しいものだった。
今は魔法によって無理矢理眠らされているのだろうが、このままの状態で目が覚めたら、彼女はとんでもない痛みと絶望に襲われる事になる。
流石に、それはあまりにも可哀想だ。
「プライス、お願い」
「ああ、分かってる」
ダリアが俺に強化魔法を掛ける。
そして俺は聖剣を引き抜き、彼女に復燃治癒を掛ける準備をする。
力を貸せ聖剣。
この人を助ける事は、イーグリットの……いや後々俺の得になる……はずだ。
「聖剣よ、俺に力を与えろ。聖なる火を以て、俺の為にこの者を救え。復燃治癒。」
プライスの詠唱により、聖火が出始める。
聖剣の刃が聖火に包まれ、切先から出た聖火がレビーを包む。
「……あら? アザレンカに復燃治癒を使った時と詠唱が違うわね?」
「よく覚えてるな。復燃治癒は二種類の詠唱があるらしくてな。どうしても救いたい大切な人の場合と今回のような場合では違う詠唱になると聖剣に教えられてたんだよ」
「……その言い方だと彼女の事はどうしても救いたい人間では無いように聞こえるわね」
「わざわざ言わせんな。ダリアとステフとアザレンカは俺にとって特別な存在に決まってんだろ」
「そうね。そうよね」
俺の言葉に満足げに頷くダリア。
二人きりだからこんな事も言えるけど、他の人間がいる前では絶対に言わせないで欲しい。
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