第64話 元家族の墓参り

 「久し振りだなー。イーグリットの王都に来るって」

 「僕は少し気が重いですよ……」

 「しっかりしなさいアザレンカ。勇者として任命されるのは二回目じゃないの」

 「……普通、二回目なんて無いんですよ? ダリアさん……」


 ウェアホワイトで聖剣と推薦状を貰った翌日、俺達四人は王都へと来ていた。


 女王様の元へと行き、アザレンカをイーグリット王国の勇者に戻してもらうためだ。


 流石にアザレンカが、氷の聖剣に選ばれたんだから、第一王子派もバカの一つ覚えみたいに、反対! なんて言えないだろ。


 それに、女王様も無視できないはずだ。

 イーグリットにある三本の聖剣を俺達が、手に入れているんだから。


 「プライス? どうしたの?」

 「……先に王宮へ行っててくれるか? 少し寄るところがあるんだ」

 「え? それなら私も行こうかな!」


 ステフは、俺に付いて来ようとする。

 だが、ダリアとアザレンカは察してくれたのか、黙ってステフを連れて先に王宮へと向かってくれた。


 「貴女はプライスの妻なんだから、少し察しなさいよ」

 「はいはい、ほら行きますよステフさん」

 「そんな~プライス~」

 「はは……」


 流石に俺が、これから行く所へステフを連れて行く訳にはいかないし……いや、連れて行きたくないの間違いか。


 三人は、王宮へと向かっていったが、俺は一人別な場所へと向かう。




 ◇




 「……悪かったな、お前らを殺した張本人がこんなにも来るのが遅くなってな」


 俺は実家の近くにある墓地へと来ていた。

 そう、ここにはかつて俺の家族だった、ロイとセリーナが眠っている。


 墓の下には、二人の灰が入った、頑丈で高価な壺が埋まっているらしい。

 本来なら、骨が入っているはずだが、俺が聖火で二人の全てを、灰にしてしまったので仕方ない。


 ちなみにカトリーヌは、あの恐ろしい計画の首謀者という大罪人なので、墓を作る事すら許されなかった。


 ロイもセリーナも大量に人を殺したのだから、大罪人扱いされておかしくないんだけどな。


 第一王子派の一部が、ロイとセリーナは、ライオネル王国の手先となったマリーナの計画によって、魔剣を使わされたせいでああなったと騒ぐから、ロイとセリーナだけは、墓を作ってやる事を許されたらしい。


 ……あんな振る舞いをしていても、意外と人望あったんだなあの二人。

 二人の墓には花やら食い物やらが供えられている。


 「ウォーター


 水魔法を詠唱し、ロイとセリーナの墓へ、水をかける。

 今でも、不思議な感覚だ。


 まだ俺も十九歳。

 ロイは四十六歳、セリーナは二十四歳。


 縁を切ったとはいえ、こんなにも早くロイやセリーナの墓へ墓参りをするようになるとはな。


 後悔は、勿論していない。

 あの二人を止めるには、ああするしか無かった。


 仮に、二人に情けをかけて、ダリアやアザレンカ、そしてステフがもし、命を落としていたら……それこそ、後悔していただろうからな。


 ……ただ、俺がもう少し家族と向き合っていれば、こんな事にはならなかったんじゃないか……とやっぱり思ってしまうのだ。


 ……まあ、マリーナとエリーナという裏切り者達がいたから、どうにもならなかったかもしれないが。


 そんな事を考えながら、二人の墓に手を合わせる。


 ……やっぱりダメだな、普通こういう時は故人との良い思い出が浮かんでくるはずなんだが、ロイやセリーナとの良い思い出なんか全く、浮かばねえ。


 むしろ、悪い思い出ばっかりだ。

 ロイには物心ついた頃から、嫌味を言われた事しかないから、ある程度の年になってからは、全く話すことも無かったしな。


 セリーナも同様だ。

 セリーナの場合は、訓練と称してリンチされ続けた思い出の方が、強いけど。


 マリーナやエリーナとは、それなりに良い思い出あったんだけどな。

 これ以上色々思い出しても、悪い思い出しか出てこなさそうだし、さっさと王宮に行くか。


 そうして、俺は立ち上がり、墓で眠っている二人へ話し掛ける。


 「じゃあな。ロイ、そしてセリーナ。もう俺がここに来る事はしばらく無いから。寂しいかもしれんが、少し待ってろ。さっさと、マリーナとエリーナもここに連れてきてやるよ」


 そう言って、二人の眠る墓を離れる。




 ◇




 まだ俺は、王宮へとは向かっていない。

 ロイとセリーナの墓の近くには、二十年近く過ごした実家もあるので、一応見ておこうと思ったのだ。


 「ああ……取り壊されてるのか。そんで、ここに新しい家を建てるのか……」


 実家があったはずの場所。

 既に実家は取り壊されていて、新しい家の基礎が出来ていた。


 聞いた話によると、中立派の貴族ウィーバー家が、ここの土地を買ったらしい。

 そして路頭に迷っていたベッツ家の執事や、メイドを再雇用したみたいだ。


 ……ウィーバー家か。

 ウィーバー家ねえ……。


 俺は少し嫌な予感がしていた。


 ウィーバー家現当主、ラックス・ウィーバーは王国騎士団に所属しており、ロイ亡き後のイーグリット王国現騎士王だ。


 というのも、このウィーバー家も現大賢者であるバーゲンハーク家と一緒で、ベッツ家を敵視していたのだ。


 それもそうだろう。

 ロイがいたため、ラックスは騎士王になることが出来なかった。


 それだけじゃない。

 ウィーバー家次期当主である息子のザラク・ウィーバーは、長い間王国騎士団内で、セリーナより下扱いされていたからな。


 ということは、言わなくても分かるだろう。

 勿論、ウィーバー家から俺は嫌われている。


 割とマジで俺って、第二王女のダリアと勇者の孫のアザレンカがいなかったら、イーグリットにいられなかったんじゃないか。


 騎士王と大賢者の家系に嫌われているということは、そういう事だ。


 まあ、バーゲンハーク家次期当主のアリスとは、そんなに仲は悪くない(色々相性が悪いというだけで)。


 だが、ウィーバー家次期当主のザラクと俺は、メチャクチャ仲が悪い。

 というのも、以前俺がボコボコにしてしまったホルツと仲の良い友人だからな。


 そもそも、ホルツと俺が犬猿の仲なのだから、ホルツと友人であるザラクと、仲が良い訳が無いのだ。


 ……いや、ザラクとはホルツがいようがいなかろうが、仲良くなれる気がしなかったが。


 「やあ、プライス。お墓参りかい? それとも懐かしくなっちゃったのかな?」


 ニヤニヤと笑いながら、かつて俺の実家があった土地から、ザラクがやってくる。


 ……チッ、新しい家の進捗でも、見に来ていたのか。

 ザラクがいると分かれば、こんな所には寄らずに真っ直ぐ王宮に向かったんだがな。


 「……悪いな。お前に構っている暇は無いんだ。もう、俺はベッツ家の人間じゃない」

 「つれないじゃないか、プライス。そんな態度だと、ウィーバー家は第一王子派を表明したくなるなあ?」

 「ああ?」


 ザラクの言葉に、懐かしみを覚えると同時に、腹立たしさもあった。


 そうだ。

 こいつはそういう奴だった。

 かつて俺が、ベッツ家の人間だった頃から。


 あの頃と変わらないなと思うと同時に、良い年して言動が変わらないのはどうなんだと思う。


 確か、セリーナと同い年だから二十四歳だろ?

 もうちょっとマシな奴いねーのかよ。

 ウィーバー家もよ。


 「プライス、君の言動次第では王国騎士団が第二王女に刃を向けるようになっちゃうなあ?」

 「……だから何だ? ウィーバー家や、お前のご機嫌を取れとでも言いたいのか?」

 「そんな事は言ってないさ、ただ今はウィーバー家の人間が、王国騎士団のトップである騎士王……だということを忘れて欲しくないだけさ」


 そう言って、ザラクは口笛を吹きながら、職人達が作業する現場へと戻っていった。


 ……あー面倒だ。

 どんだけ今のイーグリットは、派閥争いが激しいんだよ。


 イーグリット王国の未来を憂い、王宮へと向かう。

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