第52話 騎士王と聖剣使いの殺し合い、そして決着

「ハァァァァァ!!!!!」


ロイはプライスの魔法を魔剣で必死に防いでいた。

大剣を盾代わりに使い、食い止める。

そしてとうとう、打ち消す事に成功した。


「ハッハッハ!!!!! 流石は魔剣! 残念だったなプライス! 少々焦ったが、足止め程度にしかならなかったな!」


ロイは高笑いしながら、プライスをバカにする。

勝利を確信したのだろう。

プライスの渾身の魔法を防ぎきった上に、死をも覚悟した強大な魔法を打ち消したのだから。


高笑いするロイを見て、女王やダリア、バーゲンハーク家の者達は絶望していた。

イーグリットは、もう終わりだと。

聖剣ですら、勝てないのではロイに勝てる者は誰もいないのだから。


だが、その時だった。


ピシッ。


パキパキパキパキ。


「……ん? 何だこの音は? 魔剣から何か聞こえるな?」


ロイは魔剣を見る。

すると魔剣に亀裂が入っていたのだ。

いくら魔剣とはいえ、モロに聖火を浴びてしまったからだろう。


「な、何故だ!? 何故魔剣に亀裂が入っているのだ!? 私の魔剣は、他の連中の魔剣よりも多くの人間の魔力を注ぎ込んだ魔剣の中の魔剣! プライスの魔法をごときで壊れるはずが……ァァァァァ!!!!! 崩れていくゥゥゥゥゥ!!!!!」


大剣と化していた魔剣は、大きな亀裂が入った後、切先から崩れていき、最早剣の形を成していなかった。


無残にも地面に、粉々に砕けた魔剣の欠片が、落ちていく。

必死にロイは何とかしようとするが、何も出来ない。

ただただ魔剣が崩れて壊れていく様を発狂しながら見ているだけしか出来なかった。


そんなロイに、一人の男が近付いてくる足音が聞こえてくる。


「ヒッ……ヒィィィィィ!!!!! く、来るな! た、頼む来ないでくれ! いや、来ないで下さい! そ、そうだ! マ、マリーナ! エ、エリーナ! 近くに居るんだろう!? 助けてくれ! ま、魔剣が壊されてしまったんだ! お願いだから助けてくれ!」


ロイは大声でマリーナとエリーナに助けを求めるが、二人は助けに来ない。

代わりにロイの元に来たのは。


「無様だな。最後の最後まで人頼みとはな」

「プ、プライス……ああ……お前じゃない! お前じゃないんだよ! マリーナ! エリーナ! 早く助けに来てくれ! プライスに殺されてしまう! そ、そうだ! お前らでも良いや! おい、お前ら私を助けろ! これは命令だ!」


少ないながら、女王を守る為に残った騎士達に命令をするロイ。

しかし誰もロイを助ける者はいない。

残った騎士の殆どは、ベッツ家に敵対するバーゲンハーク家の息がかかった騎士達なのだから当然だろう。


「何故だ! 何故私を助けない! お前らァァァァァ!!!!! 覚悟しろよ! マリーナに頼んで魔剣の材料にしてやる! そして死んだ後はエリーナに頼んで、死霊騎士にしてやって俺の配下として使い倒してやるからなァァァァァ!!!!! 早く助けに来てくれ! マリーナ! エリーナ!」


プライスは、かつて騎士王であり自分の父親だった男の発狂し、喚き散らす姿を見て呆れ果てた。


「少し黙ったらどうだ? 最期くらい騎士として立派に死んだら良いと俺は思うぞ?」

「うるさい! マリーナとエリーナがいれば、私は助かるのにここで死んでられるか! お前も覚悟しとけよ! 騎士王の権限でお前も第二王女も勇者アザレンカもステファニーも処刑台に送ってやる! それだけでは足らん! ラウンドフォレスト、スパンズン、ボーンプラントは魔剣を作り直して必ず私の黒炎煉獄ブラック・パーガトリーで焼き尽くしてやる!」

「この状況でも尚、まだ自分が騎士王でいられると思っているのか……。おめでたい奴だ」


ロイに呆れ果てたのだろう。

プライスは聖剣で、ロイの四肢を無表情で切り落とした。


「あああああァァァァァ!!!!! い、痛いィィィィィ!!!!! プ、プライスゥゥゥゥゥ!!!!! そ、それが親に対してする仕打ちかァァァァァ!!!!! 恥を知れェェェェェ!!!!!」

「……」


プライスは、何も言わず。

四肢を切り落とされた痛みによってなのか、プライスに対して本気で怒り狂っているのかは分からないが、発狂しているロイをただ見ていた。


そして何も言わないまま、聖剣の切先をロイの首元に向ける。


「わ、分かった! 頼むから命だけは! 命だけは助けてくれ! そ、そうだ! お前を次の騎士王にしてやろう! 聖剣を持っているんだ、誰も文句は言うまい! 私は隠居する! もう、誰にも命令などしないと誓うから! 頼む! 殺さないでくれ!」

「……命乞いのつもりか? 四肢を切り落とされた以上、誰の世話になって生きていくつもりなんだ? お前は?」

「それは何とかする! お前にはもう迷惑を掛けないから! だから頼む殺さないでくれ!」

「……そうか、なら誠意を見せて貰おうか」

「誠意?」


プライスは聖剣の切先をロイに向けたまま、あることを聞く。


「お前の母親、カトリーヌ・ベッツはどこにいる? 奴はお前らのクソみたいな計画の発案者だろ? 捕まえて然るべき報いを受けさせてやらなければならない。死にたくないなら居場所を吐け」

「い、家に居るはずだ! 父さんにぶん殴られて鼻を折ってから調子が悪いみたいでずっと家に引き籠っている!」

「そうか、じゃあお前はもう用済みだ」

「え?」


プライスは、聖剣を構えた。

聖剣はまた聖火に包まれだす。


「聖剣よ、俺に力を与えろ。聖なる火を以て、俺に仇なす愚か者を焼き尽くせ。連天滅火スカイ・バーンアウト


プライスはロイを目掛けて聖剣を振り下ろした。


「ァァァァァ!!!!! 熱い! 体がァァァァァ!!!!!」


聖なる火は、激しく燃え空へと高く上がる。

そして、ロイの体と魔剣の欠片を焼き尽くしていく。

ロイは燃え上がる火柱の中で悲鳴を上げながら、のたうち回った。


が、すぐに力尽きて動かなくなった。


時間にして数分。

聖火は騎士王ロイと魔剣の欠片を焼き尽くして、消えた。

どちらも跡形も無く、灰にして。


ひとまず、王都の街と連中、そして女王とダリアは守れたな。

そんな事を考えながら、プライスは女王とダリアの元へ行く。


「すいません。庭園、ぐちゃぐちゃに荒らしちゃって」

「……良いのよ、プライス。そして、ありがとう。街を……私達を守ってくれて」

「あ、そうだ。ロイから聞いたんですけどカトリーヌが家にいるそうです。誰かに捕まえてきて貰って良いですか? 流石に俺はもう疲れましたね」

「フフッ、そうよね。後は私達に任せてダリアと二人でいなさい! ……あ、後でダリア以外の女の子と結婚した件については問い詰めさせて貰うから」

「え? 何で問い詰められるんですか? うおっと!?」

「……」


ダリアは黙ってプライスの腕を引いて、庭園を離れそのまま王宮内へと連れていく。

王宮内の人間は全員避難したのか、王宮内に誰もいることはなく二人きり。

しかも、残った騎士達はカトリーヌを捕まえに行く。

なので、しばらくは二人きりでいれるだろう。


「プライス」

「な、何だよ?」

「終わったでしょ? ロイを倒したのだから。……だから、あれ以上の事をして?」


ダリアは顔を赤らめながら、プライスにせがむ。

しかし、プライスはすっとぼけて。


「……ん~? あれ以上の事~? 何の事かな~?」

「なっ!」

「俺バカだから分かんないなあ……ちゃんと言ってくれないと……あれって何のこ……痛い痛い。痛いって! 本当腕つねるの辞めて! 後その生気を失ったような目! 怖いから!」

「……」


本当に怖いんだけど。

何なのこの目。

本当に真っ黒。

全く光が宿っていない。

魔剣に自我乗っ取られてんじゃないの? って思っちゃうくらい真っ黒。

前みたいにブツブツと呟いていないだけまだマシだけど。

……全く、照れ隠しだって気付けよな。


「そんなにご所望ならしてやるよ」


プライスは、笑いながらダリアを抱き寄せて、ダリアの唇を奪った。


不意を突かれたので、ダリアは驚いていたがすぐに目を閉じてプライスに全てを委ねる。


先程のソフトなキスと違い、人目を気にする必要が無かったからか、ダリアを貪るように激しいキスをするプライス。


確かにプライスには、ステファニーという大切な女性がいる。

だが、ダリアも同じぐらい大切で、好きなのだ。


プライスは自覚していた。

こうしてダリアのサポートをするのは、やはり自分がダリアの事を愛していて、まだ諦めていないからだと。


他の頼りない男にダリアが貰われる位なら、自分の近くにずっといて欲しい。


例え、ステフと同じように結婚などとまでも行かなくとも良いから、自分のそばで笑っていて欲しい。


我が儘なのは分かっている。

それでもダリアの事を。

愛しているんだと。


そんな自分の気持ちを伝えるかのように、ダリアを貪った。


どのくらいの時間が経ったのだろう。


二人の唇がようやく離れる。


「プライス……ずっと好きだった……。縁談を断り続けたのは、今日、貴方とこうなる為。一番じゃなくても良い……だから、貴方のそばにずっといたい。そして、酷い思い出しか無かったイーグリットで、これからは良い思い出を私達と一緒に作っていきましょう? 私、頑張るから」

「……ああ、ずっと俺のそばにいてく……すまんダリア、ムードをぶち壊すようで悪いが、今回の元凶の一人がお出ましのようだ」

「え?」


プライスが、自分ではなく別な方向を見ていたことにダリアは気付く。

さっきまで自分に対し、愛に溢れた視線で見ていたのに対して、プライスが憎しみを込めた目である人物がいる方向を見ていた。

ダリアもその方向を見る。


すると。


「あ……ごめんね。二人のムードをぶち壊しちゃって……いや、プライスに用があったんだけど……まさか、ねえ?」


申し訳無さそうにしながら、元凶の一人であるマリーナが王宮の奥から出てきたのであった。

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