第28話 女勇者一行、掃除をする

瞬間移動テレポーテーションによって、

俺達四人は昨日、クラウンウルフが出た(俺が付いた嘘)洞窟の前へと着いた。


「うわっ……臭っ!」

「何この悪臭!?」

「臭いだけじゃないよ! 虫が大量に発生してるよ! 気持ち悪い!」


俺に抱きついていたはずの三人は目的地の洞窟前に着くやいなや俺から離れて、鼻をつまみだしたり、手で自分の鼻や口を覆ったり、魔法を使って虫を駆除しようとしたりと各々違う行動をしていた。


……いきなり臭いとか言われたから、俺が臭いのかと思ったじゃないか。

クンクン。

うん、俺からは嗅いだだけで鼻をつまみたくなるような、悪臭はしないな。


「……うん? うげっ!? 何だこの生ゴミみたいな悪臭は!? アザレンカまさか昨日体洗ってないのか!?」

「酷い! あんまりだ! 確かにプライスと再会するまでは一週間ぐらい体を洗ってなかった時もあったけど! プライスが一緒のパーティーメンバーになってからは、毎日体洗ってるよ!もしもの時に備えて!」

「「ええ……」」


俺も三人と同じように悪臭に気が付いた。

最初、またアザレンカが体を洗わなくなったのかと疑ってしまったが、この頭が痛くなるような臭さは、ボロボロだった頃のアザレンカを思い出すぐらい臭い。

そして、さらっと一週間ほど体を洗っていなかった時期があるというアザレンカの発言に対してダリアとノバがドン引きしていた。

……後、もしもの時に備えてって何だ?

普通に理由無くても毎日体は洗えよ。


「すまん、アザレンカ半分冗談だ。恐らく、昨日大量に凍死させたホワイトウルフの死体が溶けて腐っているんだろう。夏が近いから最近暑いしなあ……」

「本当に失礼だ! プライス! 後半分冗談って半分は本気って事!? ……あ、でもこの大量のホワイトウルフの死体を作ったのは僕だから、結局この悪臭は僕のせいなのか……」

「いや昨日、クラウンホワイトを討伐した後、すぐに俺もダリアとアザレンカを探したかったから、ホワイトウルフの牙と皮だけ剥いだだけで、俺もホワイトウルフの死体の処理をするのをすっかり忘れていたな……」


しかし、これじゃ洞窟の中に進めないな。

悪臭も酷いが、ホワイトウルフの死体に群がる大量の虫を何とかしなくては。

仕方ない。

全部灰にするか。

こんなことの為に聖剣の力を使うのは気が引けるがこれは致し方ない。


聖火トーチ

俺は聖剣によって強化された火属性魔法を詠唱し、洞窟前に無惨に放置されたホワイトウルフ二十数匹の死体と死体に群がる大量の虫を燃やす。

すると、数分も経たない内に死体と大量の虫は全て灰と化し、聖火は勝手に消えていく。


「これも、聖剣の力なんだ? プライス?」

ノバは興味深そうに、俺が使った魔法を見ていた。


そりゃそうだ。

自分の燃やしたい物を燃やしたら勝手に消える火属性魔法なんて物は無い。

自分の燃やしたい物の近くに、燃やしたくない物があるけど、燃やしたくない物には必ず引火しないなんて火属性魔法はそこまで便利じゃない。


ダリアもアザレンカも不思議そうに見ていた。

多分、昔からよく余計な物まで火属性魔法で焦がす俺を二人は見ていたからだろうな。


「灰もしっかり回収しなきゃだな。手分けして袋に入れて回収するぞ」


洞窟前に大量に出た灰を四人で手分けして常備していた袋に入れた後、三人が休憩している間に、瞬間移動で王都の実家に戻り、実家のメイドに回収した灰の処理を頼んだ。

……さあ問題は、洞窟内にあるクラウンホワイトの灰をどうするかだな。

十メートルもの巨体だったから、灰の量も相当だぞ。

若干憂鬱になりながら三人の元へ戻る。



洞窟内に入ると嫌な予感がして、思わず苦笑いをしたくなるような事が起こっていた。


洞窟内にも二十匹ほどホワイトウルフの死体があったはずなのだが、そのほとんどが綺麗に食べ尽くされ、骨も粉々になっていたのだ。


「これも、ホワイトウルフの死体……だよな? これで何回目だ? 食べ尽くされたホワイトウルフの死体を見るのは?」

昨日俺がクラウンホワイトを討伐した所へ近付けば近付く程、この現象が多く見られる。


「死体を食べる動物なんて、パッと思い付くのはハイエナくらいよね」

「僕もそう思いますけど、この付近にハイエナなんていました?」

「流石にハイエナはいないよ。というかイーグリットにはいないんじゃないかな?」

三人もホワイトウルフの死体が粉々の骨だけになっていたり、跡形もなく残っていなかったりしているのを見て、色々話している。


死体を食う動物なら俺もハイエナぐらいしか知らないが。

魔物だったら話は別だ。

平気で腐った肉とかも食べるし、共食いだってするからな。


「あ、ここだよ。昨日俺がクラウンホワイトを倒した場所。何だこの灰の量は……。改めて見ると凄いな」

「……何これ。この灰の量ってもしかして相当な大きさだったんじゃないの?」

「普通クラウンウルフって五メートル位なのにさ、十メートル位の特大サイズに加えて希少種のクラウンホワイトだぜ? そりゃ、ダリア達を守りながらなんて戦えねえよ」

「……それをプライス一人で? しかも、何あれ? ……足? 太くて大きい」


ノバは、興味深そうに近くに転がっていた肉塊の元へと行く。

幸い、その肉塊は洞窟内が涼しい為そこまで腐敗は進んでおらず、ホワイトウルフの死体のように食べられても大量の虫に集られても居なかった。


「これ、クラウンホワイトの足だね? 明らかに普通のモンスターの足とは思えない物が四つもあるなんておかしいし」

「クラウンホワイトは四足歩行。つまりプライスは足を聖剣で斬り落としてから、聖火の力でクラウンホワイトを灰にしたわけね」


洞窟内に転がる四本の巨大な足を見て、二人はすぐに分かったみたいだ。

何だ何だ? ダリアもアザレンカも?

今日の二人はやけに賢いじゃないか。

いつものように斜め上の答えを期待していたんだかな。

……などと言うと絶対に怒られるので黙っておく。


「ご名答。逃げられたりすると面倒だったからな。でも、クラウンホワイトの足は食われてなかったみたいだな」

「脂が乗ってないからじゃない?」

「脂の乗った物ばかり食べてるから、お前は太るんだぞアザレンカ」

「それだけじゃないわ。昨日領主の家でも出されたお菓子を全部食べたのに、普通に宿屋に戻ってからもご飯食べていたし」

「え? 宿屋に戻った後まだ何か食べたの? あんなに食べたのに?」

俺だけではなく、ダリアやノバもアザレンカが急激に太り出した事は気にしていたみたいだ。


……普通に昨日、宿屋で飯食ってたから領主様の家で菓子を食いまくってたなんて俺は知らなかったな。

というか、通りで俺も客なのに菓子の一つも出て来ないのかが分かったな。

アザレンカが全部食いやがったのか。


「せ、成長期! 成長期だから! 栄養はほとんどおっぱいとお尻に行ってるから!」

そう言いながら言い訳っぽくセクシーポーズを決めるアザレンカ。

辞めろ、そんなことしたらお前の着ているローブが破れるだろ。

ただでさえ、キツそうだったのに。


「「……」」

どちらかというと俺はアザレンカの着ているローブの心配をしていたのだが、ダリアとノバは死んだ目をしながらアザレンカを見ていた。


「……胸やお尻だけじゃなくて、お腹にも栄養行ってるクセに……」

「……私に喧嘩を売っているのかしら? あの肉塊は?」


……二人が小声で何やらブツブツと呟いていたが、触れてはいけない気がしたので、俺は近くを見回りするフリをして、黙って二人から離れた。



「この灰の量は、私達じゃ無理だから一回ラウンドフォレストに戻って、専門の業者に依頼して回収して貰うことにしよう。お金は私達が持つから心配しないで」

一時間近く、クラウンウルフを探したが見つからなかった(そもそも俺の嘘なんだから見つかる訳がない)ので、ノバがラウンドフォレストに戻ることを提案してきた。


「アザレンカと俺の実力を見たかったんじゃないのか?」

「……謙遜しちゃって。この洞窟内を見れば流石に分かるよ。アザレンカとプライスの実力の凄さがね」

ノバの言葉を聞いて、俺は一安心した。

ダリアとアザレンカもノバのこの言葉には嬉しそうにしていた。


「よし、それじゃあラウンドフォレストに戻る……前に討伐するか、アザレンカ?」

「うん、ここは僕に任せて」

恐らくダリアが一応、強化魔法を掛けていたのだろう。

こちらに近づいて来ているモンスターの気配を俺とアザレンカは感じ取っていた。


「……え、嘘? 何かいるの?」

「私も全く分からないわ」

ダリアとノバはまだ分かっていないみたいだ。

まあ、この二人はお嬢様育ちだから野生の動物の気配を察しろなんて事は無茶だろう。


「何だあれは? 熊か?」

「うわっ……熊は熊でもあれグリズリーじゃない? もの凄いスピードでこっち向かって来ているよ?」

モンスターでは無かったが、野生のグリズリーが来たみたいだ。

これはこれで厄介だぞ。

しかも、中々大きい。


「聖火はもうちょっと近付いて来ないと使えないから、アザレンカ頼んだぞ」

「分かった。絶対零度アブソリュート・ゼロ!」


アザレンカがまた、絶対零度を使う。

すると、猛スピードでこちらに向かって来ていたグリズリーは悲鳴を上げることもなく、洞窟に入る前辺りで、凍死し地面に倒れる。


「こ、これがアザレンカの本当の実力……」

ノバは上級魔法を当たり前のように使うアザレンカを見て、呆気に取られていた。

「聖剣は使えないけど、やっぱりアザレンカは勇者なんだって再確認出来るわね」

ダリアは満足げに頷く。


「グリズリーの口の周りが血まみれだったから、恐らくホワイトウルフの死体が食われていたのは、グリズリーの仕業だったんだな」

「山が近いから餌を求めて森に降りて来ちゃったんだね」

「……グリズリーの死体の処理もクラウンホワイトの灰の回収ついでにやって貰うか」

グリズリーを仮に討伐したとしても大して金は貰えない。

それならば放置しておこう。

どうせ専門の人間に依頼するんだし。


「じゃあ戻るか、ラウンドフォレストに」

「宿屋じゃなくて、私の家に移動するようにして? 色々伝えなきゃいけないことあるし、何より灰の回収とかで、汚れちゃってるでしょ? お風呂入って行きなよ?」

「……え、じゃあ俺は汚れたお前ら三人に抱きつかれるのかよ」

「「「我慢して」」」

「はい……」


目的を果たした? 俺達四人はラウンドフォレストの領主様の家へと向かった。

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