第27話 領主の娘、女勇者一行のご機嫌を伺う
ラウンドフォレストの領主達と言い争いになりかけた次の日の朝、俺は王都にいた。
まだホワイトウルフの牙と皮を売りに出していなかったので、ラウンドフォレストで売るより王都で売った方が高値で買い取って貰えると思い、俺は珍しく朝早く起きて、
素材の買い取りもやっているし、何よりお互いの身の上を知っているというのが安心だ。
アザレンカはラウンドフォレストのギルドへ行き、ホワイトウルフ討伐の報告と報酬の辞退をしに、ダリアはアザレンカがいた部屋が汚すぎると宿屋の部屋の掃除をするとの事だった。
宿屋の人間に頼むと無駄なお金が掛かると言って、ダリアがやると言ったのは良いが大丈夫なんだろうか?
……後、アザレンカはロクな服も武器も持っていなかったのにどうやったらダリアが思わず汚いって言っちゃうくらい部屋を汚せるんだよ?
二人の心配をしながら俺は馴染みの武具店へ入る。
「いらっしゃい!……ってプライスじゃねえか! 久し振りだな! 素材を売りに来たのか?」
「久し振りって、先月も来たじゃないですか。ゴンザレスさん」
店に入るなり、武具店の店主のゴンザレスさんが嬉しそうに話し掛けてくる。
王都では数少ない、俺が不愉快な思いをせずに話せる人だから貴重ではあるが。
「で? 今日は何を売りに来たんだ?」
「ホワイトウルフの牙と皮ですね、数十匹分あります」
俺は店のカウンターにホワイトウルフ数十匹分の牙と皮が入った大きな袋を乗せ、中身をゴンザレスさんへ見せる。
「凄いな、これ……どうしたんだ?」
「ラウンドフォレストで大量発生したんですよ。それで依頼で討伐したんで、証拠として見せた後は、ここで売った方が高く買い取って貰えるかなと」
「なるほどな、何匹分あるか奥で数えてくるから少し待っててくれ」
ゴンザレスさんは俺が渡した大きい袋を抱え、奥の部屋へと入って行ったので少し待つ事にしよう。
◇
「しかし、本当に凄いな。ホワイトウルフ四十八匹分の牙と皮が入っていたぞ? 一日でそんなに討伐したのか?」
ゴンザレスさんは、笑いながら出てきた。
四十八匹か、大分討伐したな。
まあ、ホワイトウルフは全部アザレンカが討伐したんだがな。
「俺一人じゃないですからね。仲間と一緒に討伐したから、一日でそのくらいの数を討伐出来たんですよ」
俺のこの言葉を聞いたゴンザレスさんは驚いていた。
大量のホワイトウルフの牙と皮を見せた時も大して驚かなかったのに今の俺の言葉に何を驚く要素があったのだろうか。
「……まさか、プライスから仲間なんて言葉が聞ける日なんて来るとはな。ずっと一人で修行してるって聞いていたからさ」
そういえば、ゴンザレスさんにも国に仕える人間になる為の修行中なんだって言っていたな。
よく考えれば、一ヶ月前の俺を見ているのなら俺の口から仲間なんて言葉が出てくるのはビックリするのは当然だろう。
あの時の俺は、全てに失望してただただ毎日を惰性のように生きていただけだったからな。
「まあ、昔からの知り合いがいたから一緒に依頼を受けたんですよ。新しく出会った訳じゃないですから」
「それでも、仲間と思える存在がプライスに出来た事がオレは嬉しいよ。これはちょっとしたサービスだ。金貨五枚で買い取ろう」
ゴンザレスさんは嬉しそうに店のカウンターへ金貨五枚を出してきた。
結構良い値で売れたな。
「こんなにホワイトウルフって価値ありましたっけ?」
「王都の方にはいないからな。一匹辺り銀貨十枚位にはなる。四十八匹だから、本当は金貨四枚と銀貨八十枚なんだが、プライスに仲間が出来た記念だ。金貨五枚の大サービスだ。受け取ってくれ」
「良いんですか?ありがとうございます」
「若者が遠慮なんてすんなよ! っと、そろそろ予約の客が来るみたいだな……じゃあ、プライス! また、素材を売りに来いよ! お前の持ってくる素材で作る武器は評判が良いんだ!」
そう言って、ゴンザレスさんはまた奥の部屋へと入っていった。
金貨五枚あれば、一ヶ月は食いっぱぐれることは無いな。
……いや? アザレンカの食事代を考えると足りないか?
とりあえず、ラウンドフォレストへ戻ろう。
素材を売ってしまえば、もう王都には用がないので、またいつもの宿屋へと
◇
昼過ぎ、俺達は宿屋の受付近くへと三人で集まっていた。
それぞれのやることを終わらせたのもあるが、集まった理由というのは、ノバが宿屋に俺達へ用事があると来ていたからだ。
キャロにノバが待っている所へ連れていって貰うと、何故かノバは武器と防具を身に付けて待っていた。
「……何してんだお前」
「騎士達から聞いたの。クラウンウルフが山の方へ逃げていったんだって? だから、一緒に討伐しに行くよ」
しまった……。騎士達へついた嘘が領主達に伝わったのかよ。
……ああ、正直に伝えれば良かった。
どのみち聖剣に選ばれたのが俺って領主達にバレるんなら、騎士達にも正直に聖剣でクラウンホワイトを倒したって言えば良かった。
「ノバさんって、クラウンウルフを倒しに行けるほど魔法や剣技の能力ありましたっけ?」
アザレンカは、困っている俺のフォローをすることなくノバに実力があるのかと聞く。
気付けよ、俺がついた嘘だって。
残念ながらダリアも気付いている様子は無い。
「無いかな」
「「ええ……?」」
はっきりとノバにクラウンウルフを倒す実力は無いと言われ、ダリアとアザレンカは困惑する。
内心、俺も困惑しているが。
「どうする? プライス? ダリアさんとノバさんを守りながらでクラウンウルフ討伐いけるかなあ?」
「いけるわけねえだろ……アホか。そもそもなんでノバは付いてこようとするんだよ」
クラウンウルフが出たというのがまず俺の嘘なので、討伐が出来る訳が無いのだが、そもそも仮にクラウンウルフがいたとして、実力も無いのにノバはよくクラウンウルフ討伐に同行しようと思うな。
まず、領主様に止められるだろ。
俺達三人は勿論難色を示した。
が、ノバから返ってきた返答は意外だった。
「現在のイーグリットの勇者アザレンカの力と聖剣に選ばれたプライスの力をこの目で見定めたいの。私達、ラウンドフォレストの人間が、第一王子が次の王になるのを支持するか、それとも第二王女が次の王になるのを支持するかを決めるためにね」
「「!」」
ダリアと俺はノバの言葉に驚いた。
ラウンドフォレストの人間はまだ、第一王子が次の王になることを支持していないという事実が分かったからだ。
「意外だな? ノバ? てっきりお前は第一王子派だと思っていたぞ? 王家からの圧力とはいえ、ダリアへの協力を拒否したんだから」
「……聖剣一本で国が滅んだケースなんて珍しくもないでしょ? プライスはもう、自分の目的の為に王都の兵士達を壊滅に追い込むことが出来る力を手に入れている。そうなれば、第一王子派の人達はプライス相手に戦わなければならなくなる。もしその時に私達が第一王子派だったら、ラウンドフォレストもただじゃ済まないでしょ?」
ノバは笑いながら、俺が持つ聖剣を見て話す。
王都の兵士達や第一王子派を壊滅に追い込むか。
それは、最終手段だろうけど。
まあ、俺なら間違いなくやるだろうな。
王都の連中に俺はそこまで情を抱いてはいない。
「それに、私だって自覚していたよ?私を含んだラウンドフォレストの人達がアザレンカに対して冷たくしていたことや悪口を言っていた事を。もし、私達が第一王子派を表明すればアザレンカは全力で私達を潰せる口実が出来るじゃん」
意外にも、ノバはアザレンカに対して申し訳なさそうにしていた。
……違うな、アザレンカのパーティーに第二王女と俺がいることを知ったから、アザレンカのご機嫌を取ろうとしてるだけか。
「ぼ、僕がそんなことする訳……いや、その時になってみないと分からないかな。僕はプライスとダリアさんの味方だから」
「ちなみにアザレンカは氷属性の上級魔法使えるからな、敵に回ればお前ら凍死させられるぞ?あ、俺が敵に回ればお前ら骨ごと灰になるから」
「嫌な事言うね……勇者のパーティーとは思えない」
「女王の決めたことに反抗するんだから、この位の気概が無いと駄目よ。むしろ頼もしいわ二人とも」
「第二王女はこの二人のストッパーになってくれるかなって思ってたんだけど……期待出来なそうだな……これじゃ」
勇者パーティーの俺達三人が全員好戦的なので、ノバも半ば諦めといった感じで呆れていた。
◇
結局、話し合いの結果クラウンウルフの討伐(俺の嘘なので討伐不可)をノバを連れて四人でする事になってしまった。
……仮にクラウンウルフが出てこなくても俺の嘘だなんてバレないだろ。
というかバレないで下さい。
「じゃあ、プライス行こっか」
「!?」
背中に柔らかい感触が伝わる。
そう、ノバに後ろから抱きつかれたのだ。
何だこれ、ダリアやアザレンカとはまた違った感触だ。
「ちょっと、ノバ?何でプライスに抱きついてるの?」
「そ、そうだよ! こんな人前で!」
何故かダリアとアザレンカはイライラしながらノバがどうしてこんな行動を取っているのかを聞く。
「いや、瞬間移動する為でしょ? 昨日、第二王女もアザレンカも私の家出た後、プライスに抱きついてたよね?」
「「あ」」
ダリアとアザレンカはバレてたのか~と言わんばかりに顔を真っ赤にして頭を抱えていた。
いや、そりゃバレるだろ。
だって昨日領主様の家を出た瞬間にお前ら怒りながら俺に抱きついてきて「帰ろう!」って二人して言ったから、その場ですぐ瞬間移動使って宿屋に戻ったんだから。
見られていない訳ないだろ。
……まあ、俺もノバに急に後ろから抱きつかれてビックリしていないと言ったら嘘になるが。
「ほら、また夜になったら面倒な事になるからさっさと行くぞ。昨日クラウンホワイトと遭遇した洞窟の前に移動するからな」
「き、昨日は冷静じゃなかったわ……」
「あーもう! 昨日の僕のバカ!」
二人とも言い訳をしながらいつものように俺に抱きつく。
「モテモテだね? プライス?」
「頭突きしてやろうか? ノバ?」
「なんで!?」
からかう気満々の顔していたからだよお前が。
「はあ……瞬間移動」
面倒な事になったなと思いながら昨日、クラウンホワイトと命懸けの戦いをした洞窟へと移動した。
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