第25話 ラウンドフォレストの夜、閑散
ラウンドフォレストの街は、夜だというのにまだ閑散としていた。
いつもなら夜になれば、酔っ払い同士の喧嘩に、夜の店の客の奪い合いに、色っぽい姉ちゃん達の客引きなどで人がごっちゃだった。
折角昼間に稼いだなけなしの金を、夜には使ってしまい、宵越しの金が持てない街、駆け出しの冒険者達を誘惑しまくる街、それがラウンドフォレストだったというのに。
辺りを見回しても、全然人の気配がない。
本当に俺は同じ街にいるのか疑わしくなってしまう。
……まあ、今の俺には好都合だけどな。
ホワイトウルフ数十匹分の牙と皮が入った大きな袋を持って歩いているとか、普段のラウンドフォレストだったら、ジロジロ見られただけでなく、金欠の連中に目を付けられて、喧嘩を売られまくっただろうし。
そんな小悪党達ですら、懐かしく感じてしまう。
陽気になった酔っ払いやゲロを吐いてる人達が沢山いた酒場周辺を通り過ぎても誰とも会わなかったせいだろうか。
はたまた、娼館付近で凄くイヤらしい格好をした色っぽい美人でスタイル抜群の姉ちゃん達に「今晩どう?」とか「お兄さん安くするよ」と声を掛けられないのが寂しいのかは分からない。
住めば都とは良く言ったものだ。
最初は何だこの無法地帯は……とドン引きしていたが、二ヶ月もいればその街の良いところも見えてくる。
紆余曲折はあったものの、アザレンカがダリアの力を借りてホワイトウルフの群れを討伐した。
ウルフ系モンスターが大量の群れを作ってしまっていた元凶のクラウンホワイトは聖剣の力で何とか俺が倒した。
だから数日も経てば、またあの騒がしくてバカみたいに遊んでいる連中がまた街に帰ってくるだろう。
俺はそう願っている。
……だから、ラウンドフォレストの領主様が。
折角、感謝されることしたのに台無しになるようなことするなよあいつらは……。
そんな事を考えながら歩き続け、中心街を抜けた。
そろそろ、ラウンドフォレスト領主の家が近い。
その証拠に見回りとしてラウンドフォレストに派遣されている王国騎士団の人間が数人いる。
あ、俺に気付いたみたいだ。
騎士が数人、俺の方へ警戒しながら向かってくる。
「そこのお前、今はホワイトウルフの群れが街に下りてくるかもしれないから、ラウンドフォレストの領主様のご命令で家にいろというお達しがラウンドフォレスト内に出ているはずだがって……プ、プライス様!? これは失礼致しました!」
慌てて、騎士の一人が俺に跪く。
四人騎士がいるが、一番年上であろう騎士だ。
他の三人の若い騎士達は、俺を知らないから困惑している。
げっ、黄色い腕章をしてる奴もいる。
俺と同い年の新人騎士じゃねえか、まさか知り合いじゃねえだろうな?
俺は少し心配していた。
王都での俺の同級生からの評価は決して高くはない。
比較対象が優秀な俺の家族だからだ。
……お前が勇者と第二王女とパーティーなど組めるわけが無い! とか言われそう。
しかし、その心配は杞憂に終わった。
「おいお前ら! 騎士王ロイ様と大賢者マリーナ様のご子息であり、セリーナ様の弟君であられるプライス様だぞ! 野蛮なライオネル人の山賊集団から第二王女と王家御用達の農園を守ったという、ベッツ家の名に恥じない優秀なお方だ! 頭が高いぞお前ら!」
跪いていた一番年上の騎士が、若い騎士達に一喝してくれたせいで若い騎士達も慌てて俺に跪いた。
いやいや、辞めてくれよ……。
あれは、ダリアの強化魔法があったからライオネルの山賊集団を一蹴出来ただけなのに、大事なことが伝わってないよ。
……まあ、多分親父辺りが自分の周りからの評価を上げるためにどうせ言い触らしまくったんだろ。
都合の良いところだけを切り取って。
縁談の場では聞いてないぞ! ってキレてたけど。
流石だわ、俺の親父は。
疎ましく思っている俺すら利用して、自分の今の位置を維持しようとするんだから。
どうせ王都の連中は騎士王は人を育てることも一流とか持ち上げているんだろうな。
目の前の騎士達の様子を見ているとそう考えざるを得ない。
王都の連中や王国騎士団の人間は騎士王の親父に少々信頼を寄せ過ぎていると思う。
一番最初に俺をダメな奴と決めつけたのは他ならぬ騎士王である俺の親父だというのに。
まあ、仮に俺がどんだけ剣技の訓練をしても俺は親父クラスにはなれないから仕方ない。
しかも、出来ない人の気持ちが分からないのも親父だし。
……魔法勝負だったら親父の事を瞬殺出来るんだけどなあ……なんて考えても叶うことの無い勝負だから、俺が騎士王である親父に勝てる時は来ないので、俺も俺で騎士王の親父の事を利用する。
今に始まった事じゃないけどな。
「俺に跪いたりしないで下さい。国に仕え、王家や国民を守る皆さんの方が、俺なんかよりよっぽど立派なんですから」
「……ありがたきお言葉でございます、プライス様。我々には勿体無いお言葉でございます」
「そういえば、勇者と第二王女見ました?ラウンドフォレストの領主の所へ行ったって聞いたんですけど」
「ええ、プライス様が命の危機に瀕しているから、領主様に頼んでラウンドフォレスト内にいる騎士を森の洞窟へ派遣させたいと。後、何故かは分かりませんが、第二王女は勇者に担がれていましたが」
「……」
やっぱりダリアに俺が掛けた拘束魔法まだ解けていなかったのか。
……いや、歩けない状態なんかで領主様の所へなんて行くなよ……。
何様なんだよダリア。
あ、第二王女様だった。
「領主様の家へ、俺を案内ってしていただく事出来ますか? 実はこの件の報告も兼ねてるんです」
俺は、ラウンドフォレストの領主の家に案内してもらうことを頼みながら、俺が担いでいた、大きい袋に入っているホワイトウルフ数十匹分の牙と皮を見せる。
すると、目の前の若い騎士達は大層喜びだした。
「やった! これで外出自粛が解除されるぞ!」
「森で心置きなく修行出来ますね!」
「ようやく、ラウンドフォレストが日常を取り戻す日が来た!」
良かった良かった。
正直、ラウンドフォレストに派遣されているのに酒も飲みに行けない、色っぽい姉ちゃんとも遊べない、稼ぎたい時に森で稼げないとか、損した気分になるだろうしな。
「まさか、ホワイトウルフの討伐もプライス様が!?」
「違いますよ。これは、勇者がやったんです。ですが、洞窟内でクラウンウルフに遭遇してしまいまして、第二王女がいたから勇者に頼んで第二王女を逃がして貰ったんですよ」
「なるほど……それでプライス様が命の危機に瀕しているとお二人が焦って街に戻って来た訳だったのですか」
……本当は、クラウンホワイトだけどな。
ま、クラウンホワイトが出たなんて言ったら大パニック間違いなしだし、何より一人で討伐したなんて信じて貰えないだろうし。
「運が良いことにクラウンウルフが山の方へ行ってくれましてね、隙を見て、ホワイトウルフの牙と皮を回収して戻って来たんですよ」
「それはそうでしょう。いくらプライス様が中級魔法までを全部使えるとはいえ、相手は上級モンスターなのですから」
「はっはっは、俺もまだまだ親父やお袋には敵いませんよ」
「しかし、クラウンウルフが出たのは心配ですね……。プライス様、ホワイトウルフ討伐の件の報告も兼ねて、クラウンウルフ出現の事も領主様にプライス様から報告して頂けますか?我々が案内します」
「分かりました。案内お願いします」
何はともあれ、領主の家に案内してもらえそうで良かった。
問題は、クラウンウルフが現在も森の中に出没しているかのような嘘をついた事だ。
……もう俺が倒しちゃったんだけどな。恐らく今回の元凶であろうクラウンホワイトを。
これで、クラウンウルフ討伐の為に森に王国騎士団派遣とかになったら結構な数の人間に怒られるよな。
嘘がバレた時に。
……まあ、黙ってればバレないよな?
俺は嘘がバレませんようにと祈りながら、騎士達の案内でラウンドフォレストの領主の家へと向かうのだった。
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