第9話 嫌いな方の姉との再会

「あー疲れた……本当ふざけんなよ……」

結局俺は一晩中、王国魔導士団の訓練所の修理をやらされる羽目になった。

いや、確かに訓練所を壊したっていうか焦がしたのは俺だけどね?

でも、そもそもの発端は新しい魔法の実験をしようと言ったエリーナ姉さんなのにさ。


「プライスと違って明日仕事だから」と言って夜には帰った。


全くそんなに正式な王国魔導士団の一員ってのが偉いんですかね!?

ちなみに俺は無事王国魔導士団をクビになった。

まあ、そもそも臨時採用だからどのみちクビにはなっていたはずだけどさ。


来年、魔法使いの試験を仮に受けたとしても絶対落ちるだろ俺。


魔法使いになれたとしても王国魔導士団には入れないパターンも考えられるな。


はい、無事来年も定職には就きませんっと。


というか、俺は定職に就くなんてのは難しいと思う。

王都の人間やイーグリット国内のギルド関係者には名前も顔も知られているし、何より俺を知ってる人達は俺が騎士か魔法使いになると思っているからな。

他の仕事をやりたいんなら他国に出るしか無い。

幸い金はある。

ただ、他国で使えるかは知らんが。

ま、新しい魔法を覚えたお陰で今までよりも戦いやすくなるから、適当にモンスターや害獣や害虫駆除でもやってれば金は稼げるだろう。

後はその魔法を活かす為にダリア様に会いにいって、無詠唱ノーキャスティングを教えて貰うだけだ。

俺がまだ王都に留まっている理由なんてそれ以外ない。

つまり、俺が王都に居るとしても後三日間ぐらいだろうな。

用事が終わったらすぐにでも瞬間移動テレポーテーションしていつもの宿屋に戻るんだ。


しかし、俺が用事があるダリア様はまた新しい縁談相手と会わされているらしい。

ま、今回の相手だけは辞めておいた方が良いかもな。

今回の相手はよりにもよってライオネル王国の王子だからな。

ダリア様がライオネル王国の王子と結婚すれば、第一王子がイーグリットの次の王になるのが確定してしまうのも問題だが、何よりダリア様は俺が蹴散らしたとはいえ、ライオネル人の山賊達の被害に遭い掛けている。

あんな奴らを野放しにするなんてダリア様の性格上無理だろう。

でも、ライオネル王国では他国に対しての略奪行為なら合法って認めている。

まあ、無理だよね。

価値観が違うんだもの。


個人的に結婚ってのは価値観が一緒なのが大事だと俺は思っている。

ある程度許容出来る範囲の価値観のズレならばお互いの意見を尊重するって形で受け入れようとするのかもしれんが、今回の場合はとてもじゃないが無理だろう。

俺だって他国に対してなら略奪行為をして良いなんて考えてる奴らと関わりたくなんて無いからな。


そんな事を考えながら俺の足は王宮へと向かっていた。



久し振りに来たな。

子供の頃はここに入れる凄さに気付かず良く遊びに来たもんだ。

重厚でどこか威圧感を感じる門を通り、貴族や王家の関係者といったきらびやかな格好をしている方々を横目に、広大かつ美しい花などが咲く庭園には目もくれず、王宮内へと向かっていた。


王宮内に普通に入ろうする。

が、勿論普通に止められた。


「申し訳ございませんが、これより先は王家が住まれる宮殿内です。これより先はご遠慮願いたく……」

「知ってますよ。そんなの。ダリア様どこにいます?」


王宮内のメイドの言葉を遮ってダリア様の居場所を聞く。


「お教えする事は出来ません。お引き取り下さい」

「ライオネル王国の王子と縁談なのは分かってます。ライオネル王国の王子にも用事があるので、縁談が行われている場所を教えて下さい」

メイドは一瞬ビックリした様子だった。

そりゃそうだ。

王家同士の縁談など、関係者以外知らないはずなのに目の前の怪しい男がそんな機密情報を知っているのだから。


あんまり自分の目的も正体も話したく無かったが、話さざるを得ないだろうな。

普段はあの人達の息子や弟で嫌な思いをしているなんて言ってるクセにこういうとき都合良く使う辺り本当良い性格してるよ俺も。


「プライス・ベッツが来たと伝えてくれますか。俺、ダリア様にライオネル人の山賊集団の討伐を命じられているんですよ」


メイドは益々驚いている。

まあ、目の前の怪しい男がベッツ家の人間って事と第二王女が水面下で山賊とはいえ、縁談相手の民を殺せと命令していたんだからな。

この人じゃ話にならんな。

というか一メイドに話すべき内容じゃなかったな。


「……不審な男が居ると聞いて急いで来たが、まさかお前だとはな」

俺も想定外だよ。

「久し振りだな、姉貴」

「仕事中だ、そう呼ぶな」

「じゃあセリーナ」

「お前、ふざけてるのか?」

「生憎、尊敬してない年上には敬語を使わない主義なんだよ」

「……父上と母上の唯一の失敗はお前という人間を作ってしまった事だろうな」

うわっ、遠回しに死ねって言ってるよこの人。

だから尊敬出来ないんだよな。

世間体を気にするクセに平気でこういう場所で、そういう暴言を吐いたりするし。


セリーナ・ベッツ。

俺のもう一人の姉だ。

今は王国騎士団の人間って事以外知らんし、知りたくもない。

昔から仲が悪かったから仕方ない。

暇さえあれば見下してくるし、姉らしい事をこの人からして貰った覚えもない。

特訓と称して木刀でよくボコボコにされたもんだ。

ま、そのお陰で剣技がそれなりに身に付いた事が唯一感謝出来ることだな。


「……だからいつまで経っても結婚相手が見つかんねえんだよ」

聞こえないように悪態をつく。

「何か言ったか?」

「何でもないでーす。あ、メイドさんお仕事に戻って良いですよ?この人に案内してもらうから」

メイドは怯えながら、場を離れる。


「お前ごときが第二王女とライオネル王国の次期国王とされる御方に何の用があると言うんだ? 身の程知らずが」

ちょっと待て? この人何も知らないの?

一応、王国の騎士なんだろ?

親父辺りからライオネルの人間が暴れてるとか聞いてないのかよ。

しかも、ライオネル人が暴れているとは気付かなかったけど、結局農園を荒らす奴らを追い払えって依頼したのは、王家や貴族とも取引のある人物なのに。


そして、これからもし農園にライオネル人の山賊集団が来たら俺に対処しろと命令したのはダリア様だ。


いや、待てよ?


そうだ、そもそもそれがおかしい。


普通はライオネルの山賊集団が国境付近で暴れているなんて耳にすれば、ダリア様も騎士団や魔導士団に命令するんじゃないのか?


なんなら、ダリア様の事だから騎士や魔導士引き連れて自分も戦闘に加わるぐらいはしそうだ。


何故、そうしなかった?


……まさか、騎士団か魔導士団のどちらかにライオネル王国の内通者がいるのか?


その存在に気付いているから、俺に対処しろと命令したのか?


思えば不自然だった。


何故ダリア様が偶然農園にいたのか。


いくらライオネル王国の人間が各地で略奪行為をしているとはいえ、あんな風にライオネル人の仕業だなんて決め付けるのも引っ掛かっていた。


どんな手を使ってでもなんて命令するのもダリア様らしくなかった。


あんな風に魔法殺傷能力を上げる必要性があったのか?


そして、あの報酬の多さ。


不自然な点が多すぎる。


取りあえず、やるべき事は一つだけあるのは分かってる。


この縁談を破談にさせなければ。


「……そうだなあ、ダリア様には無詠唱ノーキャスティングを教えて貰いたいだけだから後でも良いけど、ライオネルの王子様には、謝罪をしなきゃかな?」

「謝罪?」

「ライオネル人の集団に魔法で攻撃しちゃったんだよね。とある人から依頼を受けてさ。いやーまさかダリア様の新しい縁談相手がライオネル王国の王子だとはなあ(棒読み)」

この人を利用させて貰おう。


「お前、それは本当なのか!?」


あ、やっぱ食い付いた。

それもそうだ。

俺の今の言い方だとライオネル人の一般人に攻撃したみたいな言い方だからな。


「いやー大分強い光属性の攻撃魔法で攻撃しちゃたからさー殺される! とか言って逃げてた人も……グホッ!?」

喋っている途中で姉貴にぶん殴られた。

何だろうこの感覚懐かしい。


「……行くぞ」

「……どこへ?」

「ライオネル王国の方々に今すぐ謝罪しに行くぞ!付いてこい!」

そう言って姉貴は王宮内へと入っていった。

ま、ここまで俺の計画通りなんだけどね。

笑いを堪えながら付いていく。


ポタッ。

何かが垂れたと思ったら俺は鼻から血を出していた。

前言撤回。

これは計画してなかったよ。


回復リカバリー


目的地に着くまで、俺は必死で鼻を回復魔法で治していた。

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