第284話 小さな火種

ベルトンは、本部にてある男達を相手にしていた。


新しく、教皇になったガルロダと貴族シルネだ。ベルトンは、彼らの身勝手さに怒りを感じながらも、冷静に反論して意見を受け入れなかった。


「どうして、分からないのだ!同じ、ゲレティー様を信仰する者であろう?冒険者を、融通する事くらい出来るはず!何故に、彼らを利用しない!」


ガルロダは、激怒で顔を真っ赤にしながら言う。


「あのさぁ…、彼らは君らの都合の良い道具じゃないんだよね。それに、君達がお願いするのなら、彼らにも断る自由が存在する。彼らも人間で、やはり感情があるって忘れてないかな?だから、無理。」


ベルトンは、優しい笑顔を貼り付けて言う。彼らの発言は、プレイヤー達の人権問題にもなりうる。そして、ゲレティーの意思に反する事でもあるのだ。


「使える者を、使って何が悪い!」


「それ、聖王ルイスに同じ事を言えるのかい?」


ため息混じりに、ベルトンはシルネを見て言う。すると、2人は青ざめて黙ってしまった。


この世界で、聖王ルイスを知らない者はいない。ゲレティー様を、誰よりも信仰し幾度もこの世界の危機を仲間達と退けて来た。ゲレティー様に、最も愛され精霊王すらもその実力を認める聖者だ。


そして、この世界の住民達からも人気なのである。


「彼は、聖者である前に冒険者だって忘れてないかい?現に、僕のお願いも参加するし協力的だしね。でも、君らの案件は断るよね?だって、彼はゲレティー様本人からしか依頼を受けないからね。」


素晴らしい笑顔で、帰ってくれとドアを示す。2人が、聖王ルイスに言うことは無いだろう。何故ならば、過去にその逆鱗に触れて地獄を見たから。


彼は、この世界の住民も等しく愛している。


だから、住民達はその愛に応えてくれる。他のプレイヤーよりも、住民の事を考えてバランスよく対応してくれる。ベルトンからしても、とても好印象な青年であった。そして、彼は賢く勘が良い。


きっと、今回もどうにかなる気がしていた。


そして、それを裏切らないかの様に、聖王ルイス…いや、ルイス君は教会に釘を刺し他貴族に手回しをしていた。やはり、隠し切れなかったかと苦笑。


でも、これで諦める様な奴らじゃない。


それは、ルイス君も思っていた様で、警戒を怠らない様にとお菓子に手紙が添えられていた。


冒険者として、クランを率りながら盟主としても有能。更には、ゲレティー様に振り回されながらも、最終的には確実に勝利を収めて来た。そんな、忙しいはずの彼は今日もハイスペックに動いてた。


正直、申し訳ない。


けど、それで冒険者協会や神殿…住民やプレイヤー達が救われているのは事実だ。しかも、謙虚なのがとても良い。そして、顔が広過ぎるのだ。


彼が、味方に居るだけで協力的になる、住民やプレイヤーもかなり多い。いろいろ、助かっている。


そして…


「彼なら、僕の事も救ってくれるだろか?…なんてね。これじゃ、僕も彼らと同じじゃないか。」


ベルトンは、苦しげに自嘲する。そして、珈琲を飲みながらルイスから届いた焼き菓子を食べる。


ほんのり甘くて、優しい味がした気がした。




ベルトン…ルドカリムの過去…


僕達は、この世界に蔓延る絶対悪と対峙していた。


それは、獣の姿になったり竜の姿になった。そしてついに、神の姿にすらなってしまった。


それでも、諦めずに戦い続けた。


一人、また一人と倒れていく仲間みながら、絶望感に屈しない様に抗い続けた。そんな僕の魂に、あれは呪いを植えつけた。あの、妖華の精霊の様に…


僕もいつか、化け物になるだろう。


ゲレティー様は、私の魂を精神崩壊した兄の身体に宿らせた。しかし、呪いは魂に根付いている。その影響で、左腕が黒くなって来たのだ。


怖い、僕はいつまで僕でいられるのだろうか?


果てしない不安と、狂ってしまうだろう恐怖に蝕まれ、壊れまいと抗う日々…。そんな中、プレイヤー達が帰って来た。守り切った安堵に、油断しそうになりながらもギルマスとしての仕事をする。


僕は、僕にできる事を精一杯やろう。それが、この世界の為にきっとなるはずだから。


全ては、ゲレティー様のお導きのままに…。




ベルトンは、ガバッと勢いよく起き上がる。


最近は、見ていなかった悪夢…。それを、最近になって見てしまうのだ。不吉な予感に、苦しくなる。


誰か、僕を…救ってくれないだろうか?

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