第9話 不器用な僕ら

 学校からの帰り道、黒ネコと白ネコが、ボクのななめ前を、横並びになってくっつきながら歩いてる。


 何だよあいつ、彼女がいたのか。あれ?彼氏か?どっちがどっちか分からないけど、まぁ、どっちでもいいか。


 学校と家までの10分くらいの距離の間でたまに見かける事がある真っ黒いネコ。やせっぽちで、ちょっとツンとした感じ。あのアニメに出てくるしゃべれるネコみたいで、もしかしたら、しゃべれたりするかもしれない、なんて思ってた。


 あんまり近くで見た事はなかったけど、時々ケガをしているようにも見えた。耳はちょっとちぎれてる。

 家の裏側にある小さい山にはたくさんノラ猫が住みついているから、ケンカでもしてるんだろう。アイツも首輪はしてないからノラ猫だろうし。ナワバリ争いとか、エサの取り合いとか。あ、もしかしたらあの白ネコの取り合いとかかな。


 裏山は、家からはミカン畑が見えるけど、山の反対側には公園が作られていて、桜の木がいっぱいだ。池もあって、魚釣りをしにおじさん達がよく集まってる。ネコ好きの何だかヒマそうなおばさんは、よくエサをあげてるけど、大人達はノラ猫が増えるからって、嫌がっているみたいだった。


  

 黒ネコは、ななめ後ろを歩くボクに気が付いたようで、時々後ろを向いてボクを見る。目が合った。けどすぐにプィと前を向く。


 そういやアイツ、エサおばさんからエサをもらってるの、見た事ないな。他のネコは、おばさんが公園に来るとミャーミャー鳴いて近寄っていってエサをねだってるのに。



 アイツはいつも、どーしてるんだろう?エサとかねる場所とか。アイツらが“けっこん”したら、シマウマみたいな子供が生まれたりして。パンダみたいなのもいいな。ヒョウみたいな点々だったら……でもヒョウは黄色と黒か?それにしても、あの毛のもようって、どうやって決まるんだろう?


 なんて考えながら歩いていたら、道路のはしっこのみぞに右足のつま先が引っかかった。前のめりに倒れたボクは、ひざと両手を道路に打ち付けた。


 「いってぇ」思わず言っちゃったけど、痛いよりはずかしさの方が大きかった。

 転ぶのはしょっちゅうだから、痛いのはもう平気だけど、恥ずかしいのは平気になれない。誰かに見られてなかったか周りをたしかめると、また黒ネコと目が合った。


 立ち止まって、黒と白のネコがこっちを見て笑っているような顔をしてたのは、ボクが気にしすぎてるせいだと思いたい。ネコにまで笑われたりしたら、ボクは……痛いのは平気なはずなのに、どういうワケか涙がポロポロ落ちてきて、ボクはもう、痛いのかはずかしいのか分からないまま泣いてしまった。

 涙をふくために目をこすったら、そでの所にジャリか何かが付いていたみたいで今度は目が痛くなって、はずかしいのと痛いのとくやしいので、腹が立った。涙はそのままにして、ぶちまけたランドセルの中身をひろう事にした。


 今日から4年生。もらったばっかりの新しい教科書は、道路にこすれて汚れてしまった。“どうせすぐ汚れちゃうんだから、いいや”

 そんな風に考えながら、ランドセルの中に乱ぼうに突っ込んだ。


 立ち上がってズボンの汚れを払っていると、白黒ネコたちはまだ同じ場所にいた。何かしゃべっているような、ケンカでもしてるような……と思ってたら、白ネコが怒ったみたいに反対側を向いてシッポをふった。それがちょうど黒ネコの顔に当たって、ビンタされたみたいになった。


 「プッ、クックックッ………だっさ」


 人の事……じゃない、ネコの事を笑える立場じゃないけど、おかしくなって笑ってしまった。


 黒ネコは、今度は自分が笑われたと分かったのか、ボクの方にゆっくり寄ってきた。引っかかれたりでもするかと思ったら、どういうワケか、ボクの足に顔をこすり付けてきた。

 恥ずかしいのをごまかしてるんだと思った。


 「みゃーぉ」


 初めて聞いた黒ネコの声は、すっごく、キレイな声でおどろいた。

 たぶん“ナイショだよ”って、言ったんだ。


 「あぁ、お互いに、な」


 勝手に会話を成立させて、頭をなでてやろうとしたら、ボクの手がアイツに届く前に、またプィと向きを変えて大きな一歩で離れて行った。


 なんだよ。やっぱり、よく分かんないヤツだな。と思いながら、アイツが顔をこすり付けてきた所を見ると……黒い毛がいっぱい……さっき、汚れを払ったばっかりなのに。


 薄いベージュのズボンに黒い毛がよく目立つ。



 アイツーー!わざとやったなぁ!!



 アイツはまたボクの方に振り返って、


 「んにゃ」


 って。


 高いかべを軽く飛び越えると、どっかに行ってしまった。

 



 ……いつか、アイツの頭をなでてやるんだ!覚えてろ!






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