セブンズゲート

すかーりー

4月編

第1話 てかお前誰?

 俺がこの世界で初めて目にしたものは、少女の瞳だった。


 嘘でも誇張でもない。

 1番初めに目に飛び込んできたのが、その奥に宇宙が広がってそうなほど、美しく澄んだ瞳だったのだ。

 呆気にとられた顔でそれを見つめていると、彼女の方も俺と同じ表情をしていることに気がついた。

 しばしの間、時間と沈黙が並んで歩いた。


 そして彼女が先に静寂を破った。


「……あんた誰?」


 いやこっちが聞きてぇよ。 お前は誰だ、ここはどこだ、さっき光ったあの鏡は何だ。溢れた疑問で混乱していると、彼女がまた口を開きやがった。


「ねぇ、あんた誰?今、か、鏡から出てきたよね?ちょっ、どういうこと?何者?」

「待て……待って、待って、待って!」


 マジで待ってくれ。まだ会話できるほど頭の整理がついてねぇのに話しかけるなよ。一旦落ち着かせてくれ、追いつかねぇってマジで。てかラノベとかの主人公ってすげぇな。こういうときの状況を飲み込むの早すぎだろ。あれ普通におかしいよ。と、明後日の方向に思考が曲がっていくくらいに俺はパニクっている。

 いや、どうでもいいこと考えてる場合じゃねぇ、とにかく一旦深呼吸しよう。


 俺は文字通り深呼吸して辺りを見回した。

 目に入ったのはベッドや机、タンスに本棚、そして目の前に中世の短剣か弓使いのような服装の美少女。

 よしなるほど。とりあえずは理解した。理解した、うん。

 ここはつまり……彼女の部屋?


「ちょっと。ジロジロ見てないで質問に答えてよ、あんた何者?」


 せっかく色々考察し始めてたのに、彼女がまた聞いてきた。

 おいおいまだ飲み込めてねぇよと思いつつも、俺は質問に答えることにした。会話で状況を掴んでいった方がいい気がしたからだ。


「……ここってお前の部屋?」

「勿論よ。じゃなくて、こっちが質問してんのよ!」

「ああ悪い。えっと、俺は有栖川勇作。麻倉高校の2年。昨日2年になったばっかりな」

「アサクラコーコー?何それ、全然分かんないんだけど」


 戸惑った。もしかして高校というものを知らないのか?

 そもそも彼女の服装とか、コスプレとかゲーム以外で見たことないようなふげけた格好してるし、部屋の感じも木造小屋感丸出しでとても現代とは思えない。そこでおもむろに彼女に聞いてみた。


「今って西暦何年?」

「セーレキ?さっきから何言ってんの?」


 いやお前が何言ってんの?


「よく分かんないけど、年代のことを言ってるんだったら今は鏡歴777年よ」

 と、彼女は続けた。


 え、めっちゃラッキーイヤーじゃん。すげぇ。てか、何?鏡歴?


 全く聞き慣れないワードだった。しかし、その聞き慣れないワードのおかげで、俺はこの状況下における1番の疑問を思い出した。


「鏡……!」


 そう言いながらバッと後ろを振り返ると、見覚えのあるアンティーク調の鏡が壁に掛かっていた。


「何でうちの鏡があるんだ……?」

「はぁ?それは私の鏡よ。」

「いやこれは俺がこないだ大器さんに貰ったやつ……」


 俺は言い淀んだ。

 違う、そうじゃない。そこじゃないんだ。大事なのはそんなことではなく、もっと不可思議な事実にある。俺は……。

 心の中でも言い淀んだこの続きは、グラスから溢れる水のように口からこぼれていた。


「俺は……この鏡を通ってここに来たのか?」

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