39:如月信男の誕生日 後編

12月24日。如月信男の誕生日当日。孤独の朝を迎えた信男はふと携帯を見ると不審な連絡が来ているのに気付いた。


『お前の母と妹を預かった… 返してほしくば清水公園までコイ。待っているぞ…』


この文面を見たとき信男は顔の血の気が引くのを感じた。自分の家族が危険な目に遭っている。しかも、自分の誕生日に…なんと不幸なことかと思った。しかも、手芸部のみんなも予定とやらがあるため無理に協力してもらうわけにも行かない。他の人間は? 警察か?迷っているとさらにあて先不明で不審な連絡がまた来た。


『警察には漏らすな…。 きたねえ花火を見たくなければなぁ…』


 もしや漏らしたら家族に爆弾が仕掛けられているとかか? と焦りつつも指定の公園に向かおうとする信男だった。


一方、天使たちは信男のサプライズパーティを用意していた。彼女たちは信男に悟られないように必死に努力していたのだった。母と妹もギリギリのところで電話を知っていたれんれんが連絡して参加してくれた。かなり大規模なサプライズとなっていた。


「信男君が家出たよ! さ、お母さん! 準備しましょう。」


天使がガッツポーズを見せると他の手芸部のみんなもエプロン姿で張り切った表情でガッツポーズをする。


「あらまぁ、かわいい人たちね。ところで、誰があの子の恋人さんかしら?」


彼女たちの空気は一瞬にして殺伐として全員顔を見合わせた。そして意図したかのように一斉に発した。


「「「「「「私です!!!」」」」」」


信男の母はびっくりしていた。彼女たちはアワアワしながら再度見合わせた。そして再度一斉に発した。


「「「「「私たちです!!」」」」」」


そして取り繕うように天使が説明した。


「つまりはその、、全員が候補生みたいなもので…まだ信男君の本命かというのを、取り合ってるって感じ、、です…。」


少ししりすぼみになりながら説明を終えるとあやたちは少し顔を赤らめていた。それを見て信男の母は朗らかな笑いを見せて


「ま♪ 信も隅に置けないわね。 いいわ。今回の料理はあなた達一人一品ずつ出してちょうだい。それが如月霧江式、恋の試練よ!! さ、戦いのゴングはなったわよ!」


全員が一斉に台所を借りて作業をしだしたがきらりが途中で思い出したかのように話し始めた。


「そういえば、モブッチはどうやって家から追い出したの?」


「ああ、お前の親誘拐したって言っといたぞ。アカウントは愛海さんに頼んだけど」


「いや、れんチーサイコすぎっしょ。」


「多分、ユーガリ公園にいるはず… あれ、既読ついてねぇ。」


「え、れんさんどういうことです? でもここには信男さんはいないんですよね?」



一緒にいたずらを実行した愛海が少し動揺しながら廉に話していると天使がエプロンを外して外に出る用意をしていた。


「愛海ちゃん、ごめん後よろしく! 私ちょっと探してくる!」


「待って、天使さん! ここにいても暇だし、俺も行くよ! 」


大丈夫かなと二人を見つめる5人だったが、何とかなると奇をてらわず彼らの帰りを待つことにした。

天使は信男宅を出ると立ち止まり、目を閉じて周りを回っていた。


「やっぱり“神様”だからわかるの?」


「それくらいできないと...。でも、実は自分でもわからないのよね。ほんとは何者なのか。ま、今が楽しいから気にしてないけどね。それより、あっちの方から信男くんの個性を探知したよ!」


「やっぱユーガリとは逆の方だな…あっちだと清水町とかか?」


「行ってみよ!?」


廉、月姫の二人の捜査網が張られる中、信男は急いで清水公園に向かっていた。信男は清水公園に着くと辺りを見渡した。するとまたもや如月心之介がベンチに佇んでいた。信男の心は怒りと悲しみに燃えあがり、ベンチでくつろぐ心之介の元へ向かった。


「如月心之介ーーーーーーーー!!!! てめえが! 謝るまで! 殴るのを! やめない!」


「来たな。信男!」


「お前がここまで大馬鹿な父親だとは思わなかったからだ! 自分の家族を犠牲にして!恥ずかしくないのか!?」


「楽しくやろうではないか! 誕生日の余興だ!!」


「うるさい! <現出魔:ラヴ・マシーン>! あいつの心を再起不能になるまで叩き壊せ!」


ラヴ・マシーンはその拳で心之介をとらえてピストルのような速さで撃っていく。心之介は急な攻撃と今まで以上の信男の爆発力に手も足も出なかった。ついに心之介は砂場の上に倒れた。土煙をあげて砂だらけになった父を見下ろして白目を向いているのを確認すると信男は無心で涙を流していた。

 廉と月姫がたどり着いたとき、父親は遠くで倒れていた。月姫が声を掛けようとしたが、廉はしばらくは放っておけとばかりに首を横に振る。信男が父から離れようとした時、月姫と廉の二人も併せて信男に近づこうとするが、なんと父は足首の力で重力を無視したような起き方で起き上がったのだ。その姿は炎に纏われていた。


「<幻装:幻始(プライム)の不死鳥(フェネクス)>。だから言ったろう? 祖(いにしえ)の個性があるって…。だが、これを出させるくらいには成長したな。58点、いや60点といったところか。父親としても誘い出してでも成長が見れてうれしいぞ。だが、俺との戦いの決着はここじゃない。お前の全力を見れる時、また会うだろう。じゃあな! ハッピーバースデー!」


「いっちゃった… 信男君?」


天使が近づくと信男はうつろな目で空を見上げて苦笑いをしていた。


「やあ、恥ずかしい所見せちゃったかなぁ。それより、ごめんね、だましたりして。 ほんとは今日ずっと信男君のこと探していたんだよ! もうすぐお昼だし! みんなも待ってるよ! 」


「み、みんな? どういうこと?」


「後で話す。ついでにお前のお母さんも妹も無事だから。 黙ってついてこい。 後でスーパーアヤマリティック土下座するし…。」


「? お、おう」


家路につくといつもよりわちゃわちゃとした雰囲気が伝わってきた。母親や怜ではない女の人の声がキャッキャ聞こえていた。鍵を開けてドアをあけ、天使に目隠しをされたままダイニングに行く。そして目を開けると天使月姫、連廉、母の霧江、妹の葵以外に札杜 ふだもり あや蒲生がもうきらり、結城 亜莉須ゆうき ありす、結城 愛海ゆうき あみ、御笠 麗美みかさ れみが食卓を囲んでいた。そこの真ん中にはバースデーの文字のチョコレート板とサンタのデコ人形が飾られていた。信男は肩から崩れて泣きそうになったが、唇をかみしめ、汗を拭くように長袖で顔をぬぐった。


きらきらと輝くろうそくに近づき彼らは今日の主役に大声で喜びを伝えた。


「「「「「「お誕生日、おめでとう!!!」」」」」

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