21:短気の子



『今大会で最も注目されている戦いが幕を開きます。左手にはダークホース/如月信男。右手にはあらゆる体育祭の賞を総なめし、そして前大会優勝者、天翔ける才女/天河 美琴。両者の会合、激突は大会に波乱を呼ぶのか!? それでは、グランファイトォー?』



『レディ・ファイッ!!!』



観客と解説の熱い掛け声とともに信男の戦いの火ぶたが切られた。



「あなた、会長から降星会を探るよう頼まれてるみたいだけど、あの人の野望に近づけさせないわ。降星会幹部の一人としてね。」



まさか、降星会のメンバーとは聞いていたが、幹部なのか。じゃあこの人は首謀者じゃないらしい。彼女の周りになにやら小さい雨雲が時々光りながらゴロゴロ音が鳴っている。



「私は感情の起伏が激しくて<短気>だから、それが雨雲として現れるの。今の私の気持ちわかる? そう、怒りよ。現出<雨叢雲剣>」



古びた銅剣が現出されるとそれを天高く掲げた後、信男の方に剣先を向けると天河の上にかかっていた雨雲が如月に生きているかのように向かってくる。そして頭上で止まると雷が落ちてきた。とっさに信男はマジックステッキのバリアを張って回避した。雷はバリアを這うようにして地面に落雷した。




「どんなに怒ってても今の俺にはなにも怖くない!! 俺は君に『恋』という落雷を落とせるんだからね。」



連は彼のドン引き発言に寒い目をしながら



「あいつ死んだな。」



と一人つぶやいていると信男は天河に近づき目を開き



「君のこころ、もらおうか。」



だが、そう甘くはなかった。なんと信男の術が効かなかったのだ。



「なんでだよ! 一日一回制限なのか? それともなんか条件でもあるのか? 」



「何をごちゃごちゃ言っている! うるさい子バエめ! もういいわ、あなたなんか、あのお方の強敵になんてならない。」



近づきすぎていた信男の腕をがっちり掴みもう片方の手に持つ雨叢雲剣を信男の左肩に置き



「さようなら、如月信男・・・。名前だけは覚えていてあげるわ。」




肩の剣から先程より強い電撃が信男を直接襲った。信男は強いショックで膝から崩れ落ち、意識を失っていた。



「ペキュラーの能力がただの自意識による感覚暴走だから、ただの失神ですんでよかったわね。本当の雷ならとっくに死んでたわよ。」



『おっとこれはまたもダウンでの勝敗が決まりました! 勝者はやはり才女、天河美琴が勝利を収めた!』


意識を失った信男を寄り添いにあや、きらりそして亜莉須が駆けつけた。



「マスター!」、「モブッチ!」「ノブくん!」



「モブッチ、とりまウチのポジティブパワーなら回復できるっしょ。」



「マスター、気を確かに・・・。」



「ノブくん、、負けたけどかっこよかったよぉ。」



きらりがあやを見つめ、



「おい、ひ・・・あや。あの女と対決すんのあんたっしょ。絶対敵討てよ。」



「頑張ってね、あやちゃん。私に勝てたんだから大丈夫だよ(?)。」



「二人とも、、ありがとうございます。マスターの“弔い合戦”ということですね。」



信男はきらりの膝枕の中、少し意識を取り戻し話を聞いていた。俺は生きているぞと言いたかったがきらりの膝枕が嬉しすぎて離れたくなかった。



三人で信男を運び終えるとスタジアムには次の組が流れ入ってきた。



その頃一方、愛海は一人で降星会の手掛かりになりそうなものを探していた。



「P-1って、私は戦い向きじゃない個性だから好きじゃないのよね。ま、その分信男くんに良い情報を手に入れなきゃね。」



等と一人ごとを言いながら誰もいない二年生の教室を見て回っていた。



「やっぱり降星会と繋がっているとしても簡単には資料は得られないわね。天河さん、二階堂さん、そして松村さん...。天河さんや、二階堂さんは優秀だから選ばれるのは納得はできるけど、松村禅至さんこの人だけは謎過ぎて逆にあやしいのよね。隠密担当なのかしら。」



といいつつ松村の席にあごに手を当てながら立ちつくした。彼女はそこで個性を発揮した。



「よし、現出<情報開示>」



席に手を当てると彼女の頭の中にRPGゲームにある主人公たちのステータス画面が広がっていた。



(彼のクラスの評価はD、ほぼ空気みたいな存在で物静かなタイプなのね。でもたまに出るこの「一星」という単語は何かしら?)



その「一星」という単語のみに絞って彼女自身の個性<知りたがり>を使って背後に忍び寄る影も見えずに探索に励んでいた。



「そうか! この降谷一星という男、この人が一番のキーパーソンね。やはり、この松村さんは当たッ・・・!?」



影は音もなく背後から愛海の口を手で抑えた。



「シーッ! 今は沈黙の時だ。君は“僕”を知り過ぎたようだ。」



(これは、降谷一星本人ってこと? 背後をたられてるから顔も見えない!!)



「もがいても無駄さ、僕の<統率力>の前では個性も発揮できないのさ。さ、君も僕の忠実な駒になるんだ。」



彼が指をパチンと鳴らすが愛海には何も変わりは無かった。愛海は何とか手を振り払うもそこにはもう誰もいなかった。



「何だったの、今のは...。とりあえず、信男くんに報告しなくちゃ。のぶおくん...。」



保健室で可憐な花に囲まれる至福を味わう信男であったがそこに一人の女の子が現れた。信男にはその子の顔はよくわからなかった。同じクラスの子だろうか。ふらついた後、倒れてしまったので保健室の先生が手当てしてくれていた。保健室の先生は誰にでも優しいんだ。



さっき倒れた女の人に対して


「あれぇ? 愛海、どうしたの?」



という亜莉須さんにびっくりした。よくよく見ると確かに愛海さんだった。でもなんか違うような感じがした。こういう時は天使ちゃんの出番だ。と思うと颯爽と窓から侵入してきた。ここ一階だからいいけど。天使ちゃんが愛海さんの容体を見ると



「うーん、なんていうのかな。個性のない愛海ちゃんだね。なんでこんなことになってるんだろ?もしかしてモブちゃんが前に言ってた“個性を失くす個性”ってのが私と言う神様でさえ知らない個性が生まれたのかなぁ?」



あるとしたらとんでもない個性だな・・・。やっぱり相川さんの依頼なんて受けなかった方がよかったのかなと後悔しつつある信男だった。



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