03:恋愛ゼログラビティ



黒髪の清らかな女性は俺を守るように現れ、出嘉井の前に立ちふさがった。



「マスター下がって、ここは私、札杜ふだもりあやが参ります。......<現出・冷刀>」



札杜と名乗った少女は周りに覇気の様なものを纏わせ、文字通り、刀を現出させた。



『ほほぉ、ペキュラーでも最も基礎的な現出をあそこまで練れるとは......。あの子も中々、手錬れのようですなあ』



神さまはのんきに解説している場合じゃない。彼女に彼の能力を知らせなくては! 彼女とは初対面だが、今は俺の言うことを聞いてくれるはずだ。



「気を付けて、彼は重力を扱える“ペキュラー”だと考えられます!間合いを取って、大ぶりを構えた時にとどめを!」



 俺の指示に無言でこくりとうなずき、復活早々突進してきた出嘉井を身軽にかわす。足早に背中に廻る姿は可憐なくノ一のようだ。きれいな長い黒髪をなびかせて振り返り、立ち止まる。現出した刀はいつの間にか刀身を見せたと思ったら再び鞘へと戻っていた。早すぎる......!



「札杜家流抜刀術、雪時雨」



そう言うと出嘉井の動きは止まり、意識を失い倒れてしまった。



「安心してください。 私の家流は不殺法、みねうちというものですよ。マスター」



「すごいですね。ありがとう、札杜さん」



「いえ、敬愛するマスターのためですから」



ニヤッとしながら天使に



「(この能力すごいね。天使ちゃん。)」



というと謙遜するように



『いえいえ、初めてにしては上出来だよ。モブちゃん。その調子であなたの夢を叶えて! 信男くん!』



信男くんにマスター......か。女の子に慕われるのも悪くないな! これは俺の夢の第一歩なんだ! そう、俺の夢は女の子とキャッキャウフフすることだ! そして楽しい青春ライフを過ごすことだ!



「何、何が起こってんのって、うわ窓際モブじゃん。お前があのデブちんやっつけたのかよ。しんじらんねえわ」



騒動にかけつけて野次馬してたのこのギャルを俺は知っている。同じクラスの陽キャの上位層ギャル“蒲生 きらり(がもう きらり)”だ。こいつは少し苦手だが、今の俺にかかれば全然可愛いものだ。


 だが、俺が入ることなく、なぜか札杜さんがきた。



「私のマスターを愚弄するのか......? 」



どうやら、俺の効果は一度効くと解けない仕様なんだろう。札杜さんは冷静に蒲生と話していた。その姿はとても凛としていた。俺はそんなふたりに割って入って、きらりさんを見つめていた。



「もしかしてつるんでんの? 隣のクラスなのに? まじありえないんですけど......。ていうか、あんたこそジロジロ見んなよ! 後、そのニヤけキモ顔やめ......。 ん、何してたんだっけ? あっ! モブッチじゃん!! こんなクール女子よりうちと一緒に学校行こ?」



おおう、念じただけでこの威力。凄まじきかな。(別に悪いことはしないよ! 健全な青春を送るだけだからね!?)


 これから、どうしようか。同じクラスの子に能力を使ってしまっては、クラスの男子が俺を処刑するかもしれない。特に蒲生はクラスでは人気者で男子界隈ではいけそう (意味深)な女子一位(男子って最低だよね、ボクモソウオモウヨ)ってなってるくらい有名である。



普通の男子に、恋愛シミュレーションゲームの主人公レベルで女の子が付きまとい始めると目立ち過ぎる。元々、脚光を浴びたいという願望は少しあるが今は慣れないことはしたくない。もう少し普通にならんだろうか。



そう考えていると神様である天使月姫が提案をしてきた。



『私が、力を使って何人彼女がいてもおかしくないって言う感じにしようか?これで大勢の女の子とキャッキャウフフ出来るんじゃない?』



「それ、ナイスアイディアです! とりあえず、学校に遅れてしまう。 蒲生さん、札杜さん、そんで天使ちゃん、早く行こう!」



「変なの! きらりでいーよ!」



「わ、私も出来ればあや、と呼んでください。・・・隣でも時たま、逢ってほしいです。」



なんだよこれ!!! 一日目からして最の高かよ! 俺を愛してくれてありがとう......!! このセリフはこのためにあったんだな! やべー語彙力減りそー。



学校には何とか間に合い、朝礼では彼女の言っていた通り天使ちゃんがうちのクラスに転入してきた。



「聖ゼウス学園から転入してきました、天使 月姫っていいます!」



 彼女の挨拶は無事終わり、彼女のかわいらしい笑顔は男子を虜にした。可愛い転校生が来たという非現実が叶うと、やはりうれしいらしい。席は俺の隣......だったらよかったがれんれんの隣になった。運の強い奴め。 れんれんは俺の顔を見るなり、おっ生きてたのか、後で聞かせろよ。と飄々としている。しかたない。普通なら逃げる。薄情者だが、大切な友人は後で飯をおごってもらうぐらいで許してやろう。



午前は授業を聞いたり、聞かなかったりした。別に優等生じゃないからな。休み時間、れんれんの所へ行き、飯おごったら今日の出来事を話してやるという条件で了承してくれた。彼も、少し学校にきてから後悔していたと言っているので、まぁ、許した。


午前の授業は終わり、お昼の時間。



「れんれん、今日の出来事をありのまま全部話すぜ!」



「おー頼むわ。 こちとら破産申請覚悟なんだわ。あっ、天使さん。よかったらこっち来る?」



意外だ。こういう場ではれんれんは自分の友人、ましてや女の子を呼びとめるなんて、まぁこっちも知らない間柄じゃないし。そうして三人仲良く、食堂で朝の出来事を全て明かした。秘密にすると言う前提で俺の能力や天使さんとの関係も。



「なるほど、わからん。ウソつかねえお前が言うからホントなんだろうけど、信じらんね。......女の子を振り向かせれる能力か、なんだかエロゲの主人公に備わってそうな能力だな」



「失敬な。あくまで、俺は女の子に囲まれたいだけだ、そして話して、ニヤニヤしたいだけだ。決してやましい理由など......ない!」



と談笑をしているところに



「あっ、マスター、私もご一緒していいですか?」



と丁寧にやってきたあやさん。れんれんはびっくりしてたがさっき話した女の子の一人ということで理解したらしい。



「はえー。 モブ男の言う通り、女の子に好かれてるみたいねえ。これからはお前もリア充の仲間入りだな」



「マスターは無表情な私にも優しく話してくれますし、しかも面白い方です。好きにならない方がおかしいです!」



あやさんは丁寧にとんかつ定食のとんかつをナイフで切り分け、きれいに食べる。食べ方で育ちの良さが分かるとは言うが、こうもきれいだともはや尊敬する。俺はそれを見とれながらうどんをすすっていた。天使ちゃんは、興味なさげにパンに集中してほおばっていた。



「ところで、札杜さん、だっけか。君ってペキュラーなの?」



れんれんはあまり興味はなさそうだが、話しの話題のために振っていた。



「はい。私は冷静沈着な性格で、それがたまに冷たいと思われてしまうようで......。それが発現して<冷たいもの>を現出できます。今では、父の訓練の元、刀状にまでできるように成長しました。誰のためにも使ったことはありませんでしたが、人のために使うことがこんなにもすばらしいものだとマスターから教わった気がします。だから、彼は私の恩人なんです」



もちろん、俺はそんなことを教えた覚えはない。これはきっと脳内補完だろう。彼女の中で俺という存在が大きくなっている証拠だ。恐るべし、<魅力>の魔力。



お昼休みが終わり、午後の授業、またの名をスーパーお昼寝タイムを過ごす。

「ほんとにあの蒲生きらりとも仲良くなったのか?」


居眠りが終わった後、廉が疑問を投げかけて来やがったので俺は証明しようとした。


「当たり前だろ? 見てろって」


そういって俺はきらりさんにノートを見せてもらおうと彼女の席に行ったが、彼女は泣いて俺にすがってきた。


「モブッチ~。 ウチ勉強頑張るからノート見せて~」


きらりさんも寝てたらしく、ノートを貸してほしいと言われるが当然白紙。


「え~。俺も寝てたんだけど......」


「え~。まじぴえんなんだけど! でも、もぶっちは賢い子より家庭的な子が好きだよね?」


「うん! きらりみたいな子が家庭的だと余計推せる。だから、勉強なんてれんれんに任せよう!」


そう言ってれんれんを呼ぶと、彼はため息をつきながらノートを貸した。書き移してもらっている途中、共通点がまるでない三人を眺めて、おかしくなって俺は笑いをこらえようと肩をゆらしていた。



――――――――――



モブ男が楽しい青春ライフをスタートさせている頃、神の力を押しのけて、彼を疑うものがいた。彼らはひそひそと会議室で話し合いをしていた。


一人の男は怒りをあらわにし、



「あの、ギャルがなぜあんな窓際族なんかとくっついてるんだ?」



一人は彼を知る人物のようで内通しているようだ。



「わかりません、昨日・一昨日までは目立ちもしない無能力者だったくせに。」



そして最後の一人は二人の言葉を聞いて、ただ、淡々とそこにいた全員に語りかける。



「人の悪口は言ってはいけませんよ。ただ、少し気になるので刺客を送りましょう。羽生、いけますね。」



彼に呼ばれた羽生という男は膝立ちでリーダーらしき人物に忠誠を誓うようにたった一言、



「・・・お任せを。」



一体、彼の青春ライフは守られるのだろうか。

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