Nexus Q.前日譚(改題、一旦停止)
赤坂岳
序 セカンド・オリジン
プロローグ「矛盾した誕生日」
→ 6years ago
***
――あれ? ここは……。
ぼんやりとした意識だけが、少年の心に残った意識だった。
手足が少し重くそして長いように感じる、少年の体は十五メートル程はあるだろうか。息を整えるために吐いた息は熱が籠っている。それと自分の体にはないものが「ある」ような気がした。頭、背中、そして臀部……俗に言う角、翼、尻尾なのだろうか。
体に爆撃を受けた。バランスを崩しながら少年はその方を向く。
戦車が少年に、煙が漏れ出た砲塔を向けていた。
――……そうだ。
少年は自分の目標を思い出す。
――オレはあいつを守るため……もうこれ以上、何も失わないために戦ってるんだ!
そこをどけ。そんな勢いで少年は息を吐いた。炎が纏った息は戦車を焼き尽くし、爆発を起こした。
次々に銃弾の雨が、爆弾の破裂が、砲弾の爆撃が少年を襲う。少年はその長い腕と足、尻尾、そして炎の暴力でその全てを蹴散らした。
――もう何も奪わせない、テメェらの好きにはさせねぇ!
蹂躙する少年を、誰もが絶望の襲来だと感じた。
兵の二人が瓦礫の後ろに隠れる。
「クソッ! いつからこの戦争はモンスターバスターズになったんだ!?」
「知らねぇよ……ってか、このままだったらオレたちどころか、日本の軍まで滅ぶぞ!」
咆哮が戦場に響き渡る。激しい轟音は兵たちが隠れていた瓦礫を吹き飛ばした。
身を屈め、安全を確保する二人。幸い瓦礫による怪我はなかった。ため息をつくと、再び銃に手をかけ、身を隠す瓦礫を探す。が、殆どがあの咆哮で吹き飛んでしまったようだ。
「な、なぁ……」
兵の一人が口を開く
「どうした?」
「あのバケモノ……こっち向いてないか?」
巨体がこちらを向き、翼を広げている。鋭い目線は背筋を射抜かれるかのような感覚に襲われた。
「狙いはオレたち……?」
「じゃない! この後ろにある戦車だ!!」
兵たちが逃げようとしたと同時に、大きな牙を持つ口から業火が放たれた。距離が離れていても身を焦がす程の高温が迫る。
兵たちは思わず目を閉じた。
爆発と共に、炎が広がる。
「…………あれ、生きているぞ……?」
兵たちは確かに自分が生きていることを確かめる。炎は確かに自分たち目掛けて真っ直ぐに自分たちを呑み込んだ。今頃この身を焦がし、何なら骨が残らない程真っ白な灰になっていたはずだ。
彼らが目を前に向けると、そこには。
「……不毛な戦争だ。オレが遅れていたら死人が増えるところだったな」
黒い外套に身を包んだ長身の男がいた。
兵たちはあんぐりと口を開けていた。何も武装をしていないただの男が、業火から自分たちを守ったのだ。
「お前らは……解放軍か」
「あぁ、頼む。オレたちでも日本軍でも、あのバケモノを止めるのは無理だ。あんたなら何とか出来るんだろう」
男は頷いて答える。
「そのためにここに来た。革命軍も日本軍もよくやった、後はオレが終わらせる」
それだけを言うと、男はゆっくり歩いてバケモノに近づいた。
少年も、それに気づく。
――な、何だあいつ……絶対に只者じゃない。
バケモノの動揺を、男は何となくだが察知していた。
「何でもない、人間だ。……只の人間じゃないがな」
動揺したように見えたバケモノだったが、すぐさま息を吸うかのような音が響き渡った。再び業火が来る、それもさっきとは比べ物にならない程の。
それでも男は歩みを止めない
音が、静まる。
男の足もそこで止まった。
――来るなっ!!
特大の業火が放たれた。船でさえ呑み込む勢いのそれは地面ですら荒らしながら進み、男へと迫る。その後ろにはさっきに兵たちはもちろん、他にも何人も人がいた。
男はゆっくり腕を後ろに引く。
「――『
ただ一言だけだった。
男が放った拳は業火と直撃した。瞬間、炎は跡形もなく消えた。霧散したとも、砕け散ったとも、消え去ったとも、後に両軍の兵たちは語る。間違いないのは、その男は確かにバケノの攻撃を拳で諫めたということだった。
――クソっ! 何なんだよこいつは!
バケモノの咆哮が響いたかと思うと、翼をはためかせ飛び出した。咆哮と飛翔は地面を揺らし、全員がその場に跪いた。
ただ一人、その男だけを残して。
振り上げられたかぎ爪が襲う。男はそれを、左腕一本で防いだ。
――なっ!?
男はその左腕で、バケモノの腕を掴み。
「――っ!」
地面へ叩きつけた。
バケモノの苦しそうな声と共に、その振動と風圧は周りにある瓦礫、戦車、兵たちを無差別に吹き飛ばした。
反撃に入ろうとするバケモノだったが、その時には既に、男が右腕を掲げていた。
「『突破』――『
拳が、バケモノの体に叩きつけられた。
衝撃と共に、バケモノの体は光に包まれ霧散する。
残ったのは――。
「……驚いた」
少年はじっと、男を睨んでいる。
「『
目を見張る。男には、確信があった。
この少年が、他の人間にはない変容した、だが特別な人間とも違う『人間』としての特殊な『何か』を持っていることに。
男は思わず、自分の着ている外套を握りしめた。
――見つけたぞ、緒方。
再び、男は少年に目を向ける。
「お前、名前は?」
少年は睨み続けている。だが、黙ってこちらを見下ろし続ける男に、少しずつ警戒心が解かれていった。
「……
「そうか……良い名だ」
男はその場にしゃがみ込み、刀護と目線を合わせる。
「オレの名は
「え……どうしてそれを……?」
「いいか?」
黒箆は立ち上がり、刀護に手を差し伸べた。
「オレが、お前を英雄にしてやる」
――これは、二人目の主人公の始まりの物語。
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