第11話 遺跡調査 006
「……あなただって、この世界の仕組みについて、何も知らない訳ではないでしょう。特に、魔女という称号を持つあなたならば」
ボイドは、今までより強い言葉でそう言った。
リュージュはそれを躱すように軽い口調で答える。
「何のことかな」
「あなたは、世界の仕組みに一番近い存在だ。……あくまでこれは僕の予想ですが」
「世界の仕組み……ね。まあ、言いたい気持ちは分かるが」
リュージュは何度も箱を眺めながら、その正体について考えていた。
「しかし……この電子計算機とやら、ほんとうにこの国で作られたものではないのか?」
「今のこの国に、このような技術があるとお思いですか?」
それを聞かれて、リュージュは何も言えなかった。
『私に何か質問をしてください』
「質問?」
『私には、世界最高の人工知能がインストールされています。ですから、どのような情報を聞かれても一ナノ秒以内の思考時間で答えることが出来ます』
「……何を言っているのかさっぱり分からないが、つまり、どのようなことでも答えられる、と?」
『その通りです』
「……ふむ。それなら、幾つか質問をしてみるとするか」
「やってみますか? でも、大方の質問はしてしまったような気がするのですが……」
「それもそうだろうが、やってみないことには何も始まらない。先ずは、お前の名前について教えて貰おうか」
『私の名前は、HAL18000。世界最高の頭脳を持ったコンピュータです。……それとも、型式ではなく、私自らに命名された名前をご希望ですか?』
「ハルいちまんはっせん……? それ以外に名前があるなら、そっちが良い。何という名前だ?」
『私は研究者から、「アリス」と呼ばれていました。アリスとお呼びください』
「アリス……ね。分かった、今後はそう呼ぶことにしよう。それで、アリス。お前はどれだけの記憶を保持している? お前の記憶を得て、この世界の成り立ちを知りたい」
『申し訳ありません。それは出来ません』
「何故だ? お前はどのようなことでも答えられる、そう言ったばかりではないか」
リュージュは微かに憤慨する。
しかし、アリスはやはり機械だからか、一定の調子で話を続ける。
『私の記憶へのアクセスには
「……で、その保護を解除する方法は?」
『それが私にはさっぱり』
人間のように、ひらりひらりと躱していく答え方をするアリス。
「何が、さっぱり、だ。それじゃ、何も出来ないじゃないか。ほんとうにお前は世界の全てを記憶している電子計算機なのか? いや、そもそもお前の動力源は……」
『先程も申し上げた通り、私はこの惑星が活動する際に生まれるエネルギーを使って――』
「ほら、この様子なのですよ」
そこで漸くボイドが口を挟んできた。
「ほら、とは何だ。ほら、とは。そもそも、お前はこれを分かっていて私に質問させたのか?」
「だから言ったじゃないですか。意味がない、って」
「お前……」
「とにかく」
ボイドは人差し指を立てて、リュージュの前に立つ。
「僕はこの……機械? が残している情報をできる限り手に入れたい。そうすれば、喪失の時代は愚か、遙か昔に存在していたと言われる太古の超文明についても分かるかもしれないんですから」
「……太古の超文明、ね。ほんとうにそんなものが存在すると思っているのか?」
「存在すると思ったら、ロマンを感じませんか? 第一、仮に存在しなかったとしたら、これはどう説明するんですか。この機械こそ、過去に文明があったことの証明になると思いますけれど」
リュージュはそれを聞いて何も言えなくなる。ぐうの音も出ない正論だったからだ。
しかし――仮にそれが存在するとして。
リュージュの頭には、一つの疑問が浮かび上がっていた。
「ならば……仮にその文明が存在したとして」
「はい?」
「どうして、その文明は跡形もなく、歴史にも残っていないんだ? これほどの機械を作り上げた文明だ。崩壊こそしたとしても、何かしら残していたに違いない」
「あくまで僕の予想ですけれど」
「何かあるのか?」
「残さなかったのではなく、残せなかったのではないでしょうか? ……ほんとうならば、大量の記録を残しておくはずだったのが、この機械しか残すことが出来なかった、と考えればすんなり説明はつきます」
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